22話
突然胸を押されたような咳のよう込みあがってきた嗚咽は口を抑えなんとか抑える。
一人で降りようとする柳鳳に謝砂は素早く起き上がりタックルして引き留めた。
「うわっ!」
柳鳳は不意の衝撃を受け座り込んだ。
謝砂をずっと睨んでいた鋭かった目つきは呆気にとられたように大きくなった。
「お願いだ。一緒に降ろしてくれ」
謝砂は寝ころんだときに意識もぶっ飛びそうになった。
屋根の上にいたことが頭をよぎり置き去りにされるにしても地面がいい。
「柳鳳お願いだから降りるなら一緒に」
「ご自身で降りたらいいのでは?」
ブルブルと首を振った。
「む、む、むり」
「新手の仕返しをするつもりですね」
なにか違うように受け取られた。
「違う」
両手を使って思いっきり否定したが柳鳳は疑ったままだ。
「誓う。仕返しなんてしないから。高いところが怖いだけなんだ」
「信じられません。屋根ぐらい常に駆け上がる台みたいな高さじゃないですか」
付き合いきれないと立ち上がった柳鳳の足を掴んで泣きついた。
「爛が来てくれるまで一緒にいてくれないか」
謝砂は鼻をすする。
「なんで爛様を呼ぶんですか?」
「降ろしてくれたら呼ばなくていいのに。じゃ謝姜を呼ぼうか?」
「いません」
柳鳳は仏頂面から姜の名前を出した途端に不機嫌に眉を寄せる。
「叫べば来てくれるよ。よう――」
柳鳳に口を塞がれたが確信した。
(謝姜には悪いが柳鳳を釣る餌になってもらう。今心で謝っとく。ごめん)
塞いだ手を叩いて外してもらう。
「君は謝姜のことが好きだろ?」
「な、な、なにを言うんですか?」
柳鳳は口ごもり肌が見えてるところが全部真っ赤に変わった。
健康的なやや日焼けをした肌のためか顔はさびの色になってる。
(すごく分かりやすいな)
「安心しろ。実の妹のように思ってるだけで家族と同じだ」
「ふんっ。関係ない」
「恥ずかしがらなくてもいい。人の話は最後まで聞きなさい」
「いいか、姜ちゃんは可愛いしこれから縁談も舞い込むだろう。だが柳鳳君が何があっても家族は見捨てないという心があるなら邪魔はしないと約束しよう」
「--本当ですか?」
(釣れた!)
謝砂の読み通り柳鳳は食い気味に話しに食いついた。
「姜ちゃんがお兄様と慕っている相手は誰か知ってるだろう。そこで姜が柳鳳が助けてくれたと聞けば受け入れる隙間が生まれるはずだ」
柳鳳の謝砂を見る目が変わった。
「謝姜のようにお兄さんと呼ばせてやってもいいんだが。降ろしてくれる?」
「分かりました。背中につかまってください」
必死な謝砂に柳鳳は背中に背負っていた弓と矢筒を前に背負いなおした。
空いた背中に乗せてもらい柳鳳の首に手をまわし自分の腕を掴んでいた。
「降りるとき教えて。深呼吸する」
柳鳳は謝砂が言い終える前にはすでに屋根の淵に立っていた。
「今」
ふわっと落ちる感覚に悲鳴より先に意識が一瞬飛んで力が抜けて掴んだ手が離れた。
叫ぼうとするが声がでない。
(しまった!)
ぎゅっと衝撃に備えて目を閉じた。
(落ちても柳鳳が下敷きになる)
しっかりと掴んで離れないものだと思い込んでいた柳鳳は謝砂を掴んでいなかった。
背中から重みがなくなった柳鳳が先に着地して見上げると爛が謝砂を掴んでいた。
爛が謝砂を腕に抱えてふわっと着地した。
謝砂が気を失い手を離した瞬間に爛が気づいた。
飛び柳鳳の飛んで謝砂を受け止め一緒に地面に降りた。
抱かれたまま謝砂は目を細く開けてぼやっと爛の顔が見えた。
「もう無理……」
謝砂は安心してなのか漂っていた邪気が強すぎたせいか体の力が抜け意識を手放して気絶した。
朝方になり屋敷の騒音が収まり門の外に人の気配を感じた。
「柳鳳、正門の閂をぬいて開けなさい。この屋敷ごと供養して溜まった邪気を払うために人を呼んだ」
柳鳳が門を開けると何人か桃家の家紋である桃花が刺繍された白い枹を纏った桃素貞が門弟を10数人引連れて待っていた。
「驍家の者も連れてきました」
爛が門を跨いで屋敷から出ると素貞が爛のそばに来た。
「身分に関係なく一人残らず埋葬しきちんと供養しなさい。特に倉で棺に入っている奥方は丁寧に弔い、屋敷ごと供養すれば塁は及ばないだろう」
桃爛の言葉に驍家の者は「ありがとうございます」と礼を述べた。
「分かりました。衣冠塚を立てます」
「爛様抱えられているのは謝家の若宗主ですか?」
素貞は爛が抱えている気を失った謝砂に驚いて尋ねた。
「私の家に連れて帰って休ませる」
「分かりました。柳花殿、柳鳳殿の二人方も一緒に行きなさい」
爛に道を開けて続きで柳花が出ていく。包まれているものを持っているが
「それで、どんなのだったんだ?」
素貞は出てきた柳鳳の腕を掴んで興味深々で質問する。
「傀儡になっていたのが死後7日以上の屍相手だったら厄介だった。死んだばかりの屍で助かった」
柳鳳の説明に素貞は考えこんで話した。
「傀儡か。中元節が近いし、早く終わらすよ。お前も気をつけろよ」
「分かってる」
会話を終えると先を歩いてた爛の元へと柳鳳は走った。




