2話生前記憶
学校で文化祭の出し物を決めているときをふいに思い出した。
黒板に書かれた候補から順番に選んでいた。
1つの候補に注目がいく。
「誰だ? こんなのを書く奴は。紗々がくる前にお化け屋敷は却下だろ」
紗々の隣の席に座った最近来た転校生を除きクラス全員が頷き受け入れていた。
納得できないようで手を挙げた。
「高橋くんどうした?」
「何で紗々の反対だけでお化け屋敷が却下になるの?」
「えっ知らないの? 紗々は最恐と呼ばれてるんだ。その呼び名は有名だから気をつけろよ」
「そんな風にはみえないけどヤバい奴?」
「違うよ。最も恐がりという意味なんだ。だから絶対脅かすなよ」
「アハハハ。なんだよ、それ。面白いな。恐がらせたらどうなるんだ?」
「ヤバい。早く消せよ最恐が面談から帰ってきた」
教室の中がざわついた。
「次の人どうぞ。高橋くんだよ」
戻ってきた紗々は消される前に黒板を見てしまった。
手で目を覆うが目に飛び込んできたお化け屋敷という文字に肩が震え怯えぎゅっと唇を噛み締める紗々は今にも泣き出しそうになってその場にしゃがんだ。
学級委員の二人は慌てて黒板に書かれた候補をすべて消した。
「もう消したよ。紗々が最恐なのはみんな知ってる」
呼ばれることになったのには理由がある。
「うわぁーん。これで幽霊を呼ぶなんてこの教室は呪われるんだよ」
涙声で頭を抱える紗々を女子たちが慰めるように囲み高橋が1人紗々の前に突き出される。
「知らなかったんだ。紗々、ごめん。僕が悪かった。お化け屋敷なんて思わないから落ち着いて」
「ほんと? ありがとう」
生きていて今まで恐がりだということを恥じたことはない。
勉強がよくできるとか記憶力が特別いいとか中身も外見も特徴もない平均だが要領がいいため可もなく不可もなくある程度のことはそつなくこなしているが弱点はとてつもない恐がりだということ。
怖がりでも女子に守ってもらっていても恥はないし、割と可愛がられるほうだ。
自己防衛の能力は人として備わっている本能だ。
お化け屋敷もダメだしホラーのアニメも映画もみれない。
小学6年生で夏の行事の一環で夜の体育館に廃材のダンボールを使って小屋を作り泊まるのだが夜の学校というのも怖いのに更に恐怖なのが校舎を使った肝試しだ。
2人1組になって1階から4階までスタンプラリーで校舎を回る。
脅かすのは先生たちと決まっているが理科室、理科準備室、音楽室、保健室、図書室には足を入れることすらできずにペアになった班長に頼んだ。
怖がりは分かっているため怖がりじゃないグループの班長とペアになってもらってた。盾にするように班長の後にピタッとへばりついていたが呆れて許してくれていた。班長は女の子だけど怖いもの知らずというか同級生だけど大人びていて世話焼きなので頼み込んだら受け入れてくれたのだ。
4階の階段を上がると音楽室だが、その前に6畳程の広い廊下のスペースがあって扉の前で泣きべそをかきながらしゃがんで待っていた。
音楽室からは怖がらせる作戦として『エリーゼのために』がステレオから流されている。
ピアノの音は怖くなかったのだが反対側の廊下から薄暗いなか近づいてくる気配があった。多分他のペアが反対側の階段から登って来たのだろうと自分の足元だけを見ていた。
「班長まだ?」と閉じた扉の前で聞くが教室内にいた先生と話しているようで返事がない。
月明かりにてらされてやや明るくなった廊下の奥に人のような影が見えた。パタパタと足音も聞こえる。誰かきてくれたなら心強いと立ち上がり誰なのか見ようと目を細めた。
モヤッとしていた姿がだんだんハッキリしていく。
今日は私服のはずなのに学生服をきた男子生徒が走って近づいてくるが追いかけっこをしているように後からもう1人いる。
ふっと風が通り過ぎるように扉を開けずに音楽室に消えていった。
そしてもう1人も扉を開けずにそのまま入っていく。
不思議だが本格的に先生たちが脅かしているのだと班長が言っていたことを思い出して姿を呆然と眺めていた。
急にガラッと扉が開いて班長は「失礼しました」と礼儀正しくお辞儀もして教室から出てくると流れていた曲も止まった。
「紗々君お待たせ。私たちが最後だから先生が一緒に戻るからちょっと待っててだって」
「えっ? さっき二人入っていったよ」
「私と先生だけだよ。見間違えたんじゃない?」
「そうかな? 確かに見たんだけど」
「私スタンプ探すのに夢中だったから気づかなかったのかな。先生にも聞いてみる?」
タイミングよく担任の先生が出てきて扉に鍵を掛けた。
「お待たせ。一緒に体育館に戻ろうか」
「まだ教室のなかに2人いませんか?」
「誰も残っていないよ。隠れてないかよく見たし、君たちのペアで終わりだよ」
紗々の血の気が一気に引いた。
そしてまた追いかけっこをしている二人の姿が目の前にいる。そして扉の前にいる先生を通り抜けて鍵を掛けた扉を通過した。
背筋から這うように恐怖を感じて身動きがとれない。
寒気がしてぶわっと鳥肌がたつと自分をの名前を呼ぶ声が遠くに聞こえてふらついた。
足の力がぬけてへなへなとしゃがむ紗々は先生に背負われた。
「あれぐらいで怖がってたらデートでお化け屋敷やホラー映画で一緒に行った子に笑われるぞ」
放心状態の紗々に勇気づけるためだったのか本気のアドバイスなのか分からないが薄れる意識のなかで耳にしたあと意識がぶっ飛んでその後どうやって家に帰ったのか記憶がない。
卒業するときに教頭先生なら知ってるかもと友だちを連れておじいちゃんのような教頭先生に聞いてみた。
「80年経っている音楽室がある校舎は、昔そこである兄弟が追いかけっこをして遊んでいるときに勢いあまって激突し2人とも死んでしまったという話がありますよ。だから廊下では走らないようにと言ってたんですよ」
普段なら廊下を走るなってことをうるさく言っているとしか思わないが思い出してしまって紗々は夜に熱を出し3日間寝込むことになった。
熱にうなされながら紗々は自分の中に感じていた霊感を封印するように心の奥深くに閉じ込めた。生きてないものをもう見なくていいように。
紗々が中学3年生になったときに中学の説明会に来ていた小学生が話しているのが聞こえてきた。
「この前あった体験学習で夜の校舎のスタンプラリーがあったじゃん。前までは先生たちが隠れてお化けのふりして脅かしてたのに気絶した人がいたから先生が必ずついて歩いてグループ行動になったんだって」
「5歳でも夜の学校を怖がらないって」
この後笑い話として卒業式した後も毎年教師たちの間で引き継がれ伝説の怖がりとして在校生にも伝えられている。
今ははっきりと姿は見えないが何となく寒気を感じるところには近寄らず怪談も耳にいれないようにして お化け屋敷も踏み入れずホラーも見ないを突き通している。
しかも高いところも怖く建物の中でも高層階の窓の外をみて景色を楽しむということができない。
ジェットコースターに乗せられたときには息できずに魂が飛んだ。
血も駄目で血を流して怪我をしている人を見ただけで自分は怪我をしてなくても血の気が引く。とくに注射で血を抜かれたときとか怖くなって心臓がバクバクと音をたてる。
極端な怖がりは治らず只今絶賛引きこもりのような大学生活を送っており、卒業できずに休学と留年で大学8年目。留年できない最後の年になっていた。
怖さを和らげるために除霊や魔除けのようなことに詳しくなったことぐらいだ。
魔除けとかに凝っていたため次々に送られてくる訳の分からないグッズたちに両親は頭を抱えていた。
大学は世間の目では肩書きが必要なことがあるからそのためだけだった。
大学に進学できる18歳になったとき一人暮らしを申しでると待っていたかのように喜んでさせてくれた。
新居も勝手に決められ荷物をまとめられ1週間以内に追い出しにあった。
生活費はバイトできないのを知っているので卒業したら返すといい親のカードを使わせて貰いながら節約生活。
部屋の中は石や岩塩の塊や神社の御朱印や寺の札や龍の置物を集めるのが趣味でインテリアのように飾っていた。