15話倉の外
「見て爛! 動いた」
「信じられないが修復できてる。邪気はどうした?」
「知らない。分からないよ」
謝砂は聞かれても困るとぶんぶんと頭を振る。
「修復できているなら気がつくかな?」
「魂を修復できても体力は別だ。邪気を受けた体は弱ってる」
顔に生気は戻っているが唇は乾いてひび割れていた。
「脱水症状なら何か飲ませないと」
「脱水ってなんだ? 絞ったということか?」
「何か飲ませないとってこと。なにか飲ませれるかな?」
謝砂は斜めに下げていた竹筒が手にあたった。飲まそうと蓋を開けたが爛に止められる。
「いきなり飲ませてはいけない」
爛から綺麗な手巾を渡された。桃の花が刺繍がされている。
「使っていいのか? 汚れるかも。手で湿らせるし大丈夫だ」
受け取らず爛に押しかえしたがぐっと差し出される。
「使って」
日頃ハンカチなどを持ち歩かなかったから考えがなかった。
受け取った手巾を持ってきた竹筒の中身で湿らせた。
謝砂は今まで誰かを看病することもペットも飼ったことがなく、小さい子供とも遊んだり世話したことはない。
窒息させてしまわないか触れるのが怖くてブルブルと手が震えて仕草がとてもぎこちない。
「私がする」
焦れったくなった爛は謝砂から濡らした手巾を取り上げた。
軽く濡らすように唇にとんとんと優しく触れている。
くっついた唇は湿らせたおかげで隙間があいた。
「飲ませてみる」
手巾の端をぼとぼとにして口に含ませた。
「蘇若?」
謝砂は名前を呼んでみるとその子は手を動かせた。当てずっぽだったが反応がある。
謝砂は手のひらで蘇若の顔についた土埃を拭った。
「やっぱり蘇若か。生きててよかった」
「老三が探していた蘇若という子だな。君が助けたんだ」
「砂糖かハチミツと塩を混ぜた水を飲ませたほうがいいよな。なんせここから出ないと」
爛はすくっと立ち上がって扉に触れるとバチっという音が聞えた。
「外から封じられてる」
「じゃ出れない?」
「吹き飛ばせばいい」
謝砂を背にして爛は剣を抜くと一瞬で切り刻みチャンと音を立てて鞘に収まる。
謝砂の壁になるよう振り向いて扉は木くずとなって吹き飛んだ。
「謝砂これで出れるよ。外でまだ戦っているようだから気を付けて」
「その子も連れて行くのだろう?」
「うん。爛、抱っこできる?」
「どうして?」
「自分のことも守れないけど子供を抱っこしたことがないしどうすればいいのか分からない」
「ではいい機会だ。女の子だから優しく持つんだぞ」
言われるが手を出すと爛に蘇若を乗せられ抱えた。
蘇若は軽くてふにゃっとしている。頭を胸にもたれかせて背中と足に腕を入れている。
ガチガチの謝砂に爛は軽く笑った。
「なにか間違えたか?」
「違う。昔を思い出したんだ。小さい姜の面倒をみていた君に教えてもらったんだのを私が教えるなんて。その時の私をみているようで笑えてきた」
「そうなのか」
「外に出たら気をつけろ。柳花と柳鳳が派手に散らかしてる」
外に出るとすぐに意味が分かった。男の屍が一体、足元にどさっと降ってきた。
「うわぁ!」
踏む寸前に片足を挙げてさっと避けた。
「踏んでこけるなよ。傀儡はすでに死んでるから痛さも感じない」
腹のあたりの衣が切られて裂け鮮やかな朱色ではなく赤黒く滲んでいる。地面に叩きつけられて背中の骨が折れているはずなのに傀儡は身を起こした。
見えていないはずの白い目に謝砂を映すと口を開けて鋭くとんがった牙を見せつける。
(なんで弱いのが見ただけで分かるんだ)
狙いを謝砂に定めて近づいてくるのが余計に怖い。
「この野郎。馬鹿野郎、このゾンビめ」
思いつく限りの悪態をつきたいが謝砂の頭ではあいにく思い出せない。
「こっちに来るな!」
その屍は瞬発力があり一歩踏み出すだけで間合いを詰めた。とがった爪は謝砂の喉に触れそうになり腕に抱えていた蘇若を庇った。
「柳鳳、遊びすぎだ」
爛の声に顔を上げた。
瞬時に剣を抜き白く煌めく刃でその爪を軽やかに受け流して防ぎ柳鳳が切り損ねて襲ってくる傀儡の両腕を切り落とした。刃に流れる血は一振りで散りまた輝いている。
屍は腕をなくしても気にすることもなく、歯で噛もうと襲ってくる。
近づいてきた屍に刃先を向けて剣先で文字を書くと屍にむかって飛ばした。
術の文字は屍の中に入ると力をなくしたのか崩れるように倒れる。
謝砂は怖くて腕の中にいる蘇若を見た。
(僕も同じように気を失いたいよ)
「申し訳ありません」
「帰ったら書の書き写し」
爛の言葉に柳鳳の顔が暗くなり「はい」と小さく答えた。
「傀儡は塊にするかできなければ呪符を飛ばす。それと……」
「陣の中に傀儡をいれることです」
「庭にいた傀儡はどうした?」
「謝姜殿が陣を庭に描いて呪符を貼り俺と柳花が傀儡の相手をしてました。さっきの一体は逃がしてしまったので追いかけたんです」
「分かった。奥の広間には傀儡はいなかったが倉に繋がっている。そして中には奥方が棺に入っていてた」
爛が説明しているとバタバタと走る足音が聞こえた。




