11話
宿の裏に馬車をとめ馬小屋に馬を預けた。
入口からおいしそうな香りがしていた。
「お兄様こちらです。個室も用意しました」
姜が迎えにきたが爛は「個室」と告げて謝砂も一緒に二階に上がる。一階ではすでに食事を柳花と柳鳳が座って注文した料理を食べていた。
案内は給仕の男に頼んだ。
部屋に通されると丁寧に扉をしてめて男は降りて行った。
「爛、ご飯とは別に塩と酒、それから水が欲しいんだけど」
「分かった。もらってくるから謝砂は着替えたほうがいい」
着がえを渡されて奥で着替えている間に爛は一階へ行った。
謝砂は自分の体を確かめた。
この体は細身なのに鍛えて筋肉もある。腹筋も割れていて素晴らしい。だがそこら中に擦り傷や傷跡が残っている。青あざもあり痛さはないがしかめっ面になった。傷跡も既に癒えていて剣などで切られた痕なのかは分からない。
(十代だって聞いたけど本当なのかな)
丸一日のうちにずいぶんと体には適応できた。
姜が霊力を確かめてくれてから自由に筆も取り出せるようになった。頭で理解できなくても念じて手首を回せば法器や霊力を使う仙噐の類はいつでも取り出せる。
自分の持ってる呪符や筆、剣使い方が分からない法器とかいうものは収納できて取り出せるということみたいだ。
(いわゆる脳内での無限ポケットってことだな。基本霊力がないとできないことみたいだけど。そのうち慣れていくだろう)
トントンと扉を叩く音に慌てて着がえを済ませて扉を開けた。
爛はお盆の上に数品の料理と酒と塩と水を乗せていた。扉を開けて爛に部屋に入ってそのまま運んでもらう。
「夕餉も運んできたから一緒に食べよう」
卓子において二人とも座った。
「塩をかける前にまず食べてからにしないと」
「これは味付けの為に塩をお願いしたんじゃないんだ。お祓いのためだ」
止まっていた宿をでるとき弁当と一緒に竹筒の水筒も用意してくれたらしく水を飲み干したあと部屋まで持ってきた。
「お祓い?」
「清めた水を作るんだ。酒と水を混ぜて塩を一つまみぐらい入れたら完成だ。一日しかもたないし気休めでもいいかと思って」
「なんでも作れるのか」
石に霊力を込めれるなら水にも霊力を込めれるか試しながら竹筒の水筒に入れた。
爛は音を立てずに静かに食べていた。
朝というか昼も爛が食べていた姿は見てない。
(自分のことが先で爛のこと見てなかったな。世話してくれとは行ったけど爛に気を配らないと)
「うん? 謝砂は食べないのか?」
「肉は食べるよ」
箸を手に取り肉料理だけを口に運んだ。鶏肉の素揚げは甘辛い醤油の味付けでおいしい。
「野菜も食べなさい」
「爛が食べなよ」
「食べたら屋敷にいく」
「うん」
謝砂は返事はしたが口にいれた肉を呑み込めずにむせた。なんとか吐き出さずに呑み込んだ。
「嫌だ! 夜にお化け屋敷にいけるわけがない」
「夜じゃないと分からないことがある」
「夜にであるいたら物騒じゃないか」
「謝砂は一人で残るか?」
「それも怖い。まだ爛と一緒に行くほうがいい。いやどっちも嫌だ。あの三人に任せられないのか?」
「屋敷の中が分からなかった。魂を食べているならあの三人だけだと不安だ」
ぶるっと震えたがこんな宿で一人のほうがもっと怖い。
「一人は怖いから一緒にいく」
「霊力が戻っているなら大丈夫だ。私のそばを離れるな」
「やっぱり間違えた。今からでも宿に戻ろう」
夜の驍家の屋敷は怖かった。月が出ていて明るいとはいえ電気はないし懐中電灯もないから灯りは蝋燭だ。風が吹くたび木の葉が擦れ音がするたびに爛にしがみつく。片手には剣をぎゅっと握りしめ竹筒の水筒は肩に斜めに下げていた。
「謝家の当主があきれる。さっきから進んでないじゃないか」
「柳鳳!」
爛が送る無言の視線に気づいた柳花が柳鳳を小突いた。
柳鳳はふんっと鼻をならして視線を反らす。
柳鳳に言われたとおり大体宿を出て歩いているが物音がするとすぐ謝砂が立ち止まるのでたどり着くまで時間が倍かかった。足取りは重く爛に引きずられ後ろからは姜が押して進んでいる。
「すまないが仕方がないんだ。足が動かない」
「はぁ。はぁ。お兄様は病み上がりなんです」
ふぅっと汗を袖で拭い姜は柳鳳に言い返した。
さすがに記憶をなくしているとは知られたくないようで爛も一切言わなかった。
屋敷は不気味な叫び声のような風が吹き抜けているのか音がしている。
謝砂は悲鳴をあげて叫びたいが喉が乾いて声も出せない。
爛は自分の腰に佩いた黒い剣を飛ばして門に貼った呪符ごと切り門を開いた。
「入る。用心しなさい」
真っ先に柳鳳が入り続いて柳花が敷居をまたいで中に入る。
「まったく先を越されました。さぁお兄様行きますよ」
「姜ちゃん、先に行ってくれ。爛と行くから」
「そうですか。なら私は柳花と一緒にいます」
恐る恐る爛の背中にへばりついて屋敷の中に足を踏み入れた。
「うわっ!」
「どうしたんだ?」
「ごめん。何かが足に触れて」
(何かが足を掴んだんだけど見れない。見たくもないし)
爛は手を払うとパンと弾く音がして謝砂の足はすっと軽くなった。
「瘴気が濃いから息を深く吸い込んではいけない」
「分かった」
謝砂は言われた通りに袖で鼻を覆った。さっきから血の匂いがしていた。
下を向いて歩いていると地面には夢で見た紙飾りが散らばっていた。
「危ないから離れて」
爛に言われると謝砂はすぐに物陰に隠れた。
爛は佩いていた剣を鞘から抜いた。刃が月に照らされて光を放っていた。一振り剣を振るうとその衝撃破で煙を振り払う。
「すごいな」
物陰に隠れていたのに視線を感じて振り返った。
ミイラのように干からびた屍が庭に転がっていた。
謝砂は剣をぎゅっと抱きしめて思いっきり叫んだ。
「ぎゃぁぁぁl! 爛!」
ぶっとびそうな意識の中で倒れそうになった体を飛んできた爛に支えられる。
爛の顔を見るなり泣けてきた。
「もう嫌だ。怖いよ」




