29話青邪蛇
低級の鬼や妖丹を持たない妖獣は泰山符にはいない。
妖獣の魂は消滅せずに桃泰山仙君に裁かれるともいわれている。
すでに入山した修仙たちは散らばって妖鬼を探して散らばっていく。
「今回から縄張りはない。各自で好きにしてもいいし団体で倒してもいい」
「今年は当たり年らしい。塵宗主が妖獣を引き寄せる陣が泰山で作られたって聞いた。おかげで大世家の公子たちに遠慮しなくても済む。退治されていても俺たち小仙家にも邪鬼や妖獣は残るという。腕も鍛えられて名も上げられるしありがたいよな」
「大した数にはならなくても献上すれば塵家の門弟に入れてもらえるとも聞いた」
妖獣がいたのか一斉に剣の金属が擦れる音や矢で射る音が聞える。
「蜂の精妖が現れたらしいぞ。行ってみよう」
謝砂は人の波に押されて入山したが妖鬼が姿を現したとしてもありがたくもない。
「鳥居のそばは人が多いから歩きましょう」
謝砂は慣れない山道を登っていく。
山道にはいくつもルートがあるらしい。山は岩も多いが謝家の門弟たちと一緒に木々の間を歩いていく。
「さっさと下山したい」
「まだ一度目の花火も上がらないな」
謝砂は剣を杖代わりにして歩いているが息は上がっていない。
爛は謝砂のペースに合わせて少し後ろを歩いている。
桃常や桃展、柚苑と雪児は謝家の師弟たちと一緒に少し先を歩いていた。
歩きながら怪しんだ場所を妖鬼を探して剣で突いたり、木を蹴ったりしている。
(剣で突いて出てくるのか? 探し方が違うような気がするんだけどな)
「妖気は感じるんですけど、姿が見えなくて。そちらには妖獣はいませんか?」
桃展の声に謝砂は顔を上げた。
「うわっ。なんか当たった」
つま先が何かに当たったが木の枝ではない。ぶにょっとした感覚だ。
ガサガサとうごめく音がして爛に肩を掴まれた。
「謝砂じっとして」
落ち葉の下からシュルとした長細い舌を出し青白い蛇の首が顔をめがけて飛んできた。
長い尾は木の枝に巻きつかせている。
「蛇妖だ。呑み込まれるなよ」
爛の白く煌めいた刃はスパっと舌を切り落とすと黒い血が飛んだ。
血が地面につくと妖毒でジュワっと葉が溶ける。
「うぎゃっぁ!」
舌を斬られても謝砂を呑み込もうと大きく開けられた口から鋭く尖った牙が血の気が引いた。
「毒があるのは牙だろ」
「青邪蛇は舌先にも妖毒の突起がある。舌で刺し妖毒で生気を吸う。動きを止めてから牙で噛みつき血肉を喰らう」
「聞きたくない。知りたくない」
謝砂は仙噐の筆を手に持ちグルグルと筆先で渦を描いた。
「目をまわさせるのは蜻蛉だ」
「そうだった!」
爛に言われるまで気づかずどうしたらいいのか仙筆を振り回すとパンと蛇妖を蜘蛛の巣が出て動きを封じた。
「今だ。火焔符で燃やせ」
招功が叫ぶと謝家の門弟はすぐに呪符を飛ばした。
ボゥっと青邪蛇は燃えた。
招功が剣を一振りし灰を吹き飛ばすと妖丹が残っていた。
「これは謝家がいただきますね」
招功は直接触れないように黄色い呪符で妖丹を包んで回収した。
「妖獣ってなに食わぬ顔で襲ってくるの? あれが普通? すっごく怖いんだけど」
「普通でないな。青邪蛇は岩場や巣穴にいて獲物を待つはずだ。巣穴が近くにあるのか?」」
爛が考え込むように顎を撫でた。
「謝砂様! 青邪蛇が落ちてきます」
「なんだって! 今燃やしたばかりだ」
先を歩いていた門弟と桃常たちは剣を鞘から抜いていた。
じりじりと後退りながら爛と謝砂の元へ集まり団子になる。
謝砂のそばでもボト、ボトと青邪蛇が木から落ちてきた。
うねりながら距離を縮め細長い舌を弄ぶようにシュルと出し入れをする。
青邪蛇は謝砂たちをぐるっと取り囲んだ。
「うわぁぁ! 爛! なんでまだあの蛇がいるんだ?」
謝砂は蛇と目が合った。
恐怖で声が出ず叫べないかわりに地団駄を踏み爛の袖を引っ張り顔を覆った。
「どうした?」
「どうしたじゃない。爛、あの蛇の目を見てみろ。同じように赤黒く光ってる」




