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第17話 変化した身体と殺人パーティー

「えっ? 嘘⁉︎ どう見ても人間の手足だ! やった、戻ったぞ!」


 二本足で立ち上がると、首から下を見回していく。

 真っ裸だけど、そんなのどうでもいい。

 スラッとした手足にはフサフサの毛はなく、五本の指がしっかりと見えている。

 前と違って、筋肉が付いて、腹筋がバキバキに割れているけど、どう見ても人間の身体だ。


 それに目線が高くなっている。身長が伸びたみたいだ。

 百八十センチ超えているかもしれない。

 あと、髪の毛が女の子みたいに長くなって、毛先が胸の辺りまで伸びている。

 髪の色が白と薄茶色の縦縞になっているけど、とりあえず、それ以外は問題なさそうだ。

 

「あっはは。大人ルディに変身しちゃったよ」


 出来れば、今すぐに鏡を探して顔を確認してみたい。

 目、鼻、口、耳や顔の輪郭を手で触って、犬じゃないのは分かった。


「あぁ~あ、どうなってるのか気になるよ」


 本当に今すぐに気にするべき事はそれじゃないのは分かっている。

 真っ裸の男が檻の中に監禁されている事でもない。

 早く檻から脱出して、殺人パーティーを止めないといけない。


「嗅覚は敏感なままみたいだ」


 檻に付いていた太いかんぬきを動かして、檻の中からは簡単に脱出できた。

 匂いを嗅ぐと、犬達の匂いは犬小屋から屋敷の方に向かっているのが分かった。

 ちょうどいいので、屋敷の中に入って、ついでに着る服も借りよう。

 

(今回はそんなに気絶してなかったみたいだ)


 屋敷の中から音楽が聞こえてくる。気を失ったのは数分、数十分程度みたいだ。

 まだ手遅れじゃないと思う。時間がないので窓から忍び込んだ。

 事情を知らない人に見られたら、変態の泥棒として間違いなく捕まってしまう。


(この部屋にいるみたいだ)


 使用人達の部屋の中から犬の匂いがする。この中にいるみたいだ。

 ソッと扉を開けて、中を覗いてみた。少し遅かったみたいだ。

 肉の塊と一匹の大きな赤茶色の犬が部屋の中にいた。


「っ……!」

 

 体長は三メートルを超えていて、化け猫よりも大きい。

 八人用の大部屋の左右に二つずつある、二段ベッドの間に窮屈そうに立っている。

 体型や尖った耳は元の大型犬の姿と似ている。


 でも、背骨や足の膝とカカトから白く鋭い骨が飛び出している。

 足の先からナイフのように鋭く伸びたな爪が見えている。

 口周り、前足、後ろ足が体毛が真っ赤に変色している。

 他の部分は濃茶色と少し薄い茶色で、渦巻きのような模様が浮かび上がっている。

 もう、これは犬じゃない。魔物に変えられてしまった。


「ウーッ! ガァッ!」

「ぐっ……!」


 扉の隙間から覗いていたのに気づかれたみたいだ。

 唸り声を上げたと思ったら、扉に向かって突撃してきた。

 慌てて、扉を閉めたけど、破壊された扉ごと、廊下の壁に突き飛ばされた。


「……わぁー、びっくりした! それにしても、この身体凄いよ」

「グゥルルルル!」


 突き飛ばされて、壁に背中を強打したのに痛みをほとんど感じない。

 流石は腹筋バキバキの身体だと思いたいけど、感想は後だ。

 目の前には赤茶の化け犬がいて、俺はその獲物だ。

 集中しないと殺されてしまう。


(武器はないから素手で戦わないと)


 この身体なら素手でも勝てそうだけど、時間がない。さっさと倒して、次を探そう。


「グゥガァァッ‼︎」


 化け犬が突撃してきた。口を開けて、左前足を振り下ろして、叩きつけようとしている。

 でも、扉を閉めた時もそうだった。速いとは思ったけど、反応できない速さじゃなかった。

 むしろ、化け犬よりは俺の方が速く動けると思う。


「シャッッ!」


 両足に力を入れて、前傾姿勢で一気に突撃する。

 頭を下げて姿勢を低くして、化け犬の顎の下を潜り抜ける。

 そして、ガラ空きの腹の下に潜り込んで、右拳をその腹に突き上げた。


「オリャー‼︎」

「グゥ、ポォ……ッ‼︎」


 化け犬の身体が浮かび上がり、バキバキと背骨がへし折れる音が鳴り響く。

 右拳から離れた化け犬の身体が、天井に激突してから落ちてくる。

 素早く落下地点から飛び退いて、押し潰されるのを回避した。


「全然人間に戻ってないじゃん‼︎」


 引くぐらいに身体能力が高くなっている。

 火事場の馬鹿力にも限度がある。こんな事が出来る人間はいない。

 白い煙を上げて消えていく化け犬を無視して、大部屋の中に入って、鏡を探してみた。


「このクソ! トカゲ人間までなら、街に住めるんだよね?」


 大部屋の中は巨大な肉の塊が落ちているけど、気にはしない。

 構わずに踏んで部屋の奥に進んで、机やタンスの中を探し回る。

 扉を壊して、天井を壊して馬鹿デカい物音を立てたんだ。

 近くに人がいたら、何があったのかと様子を見に来る。


「あったぞ! ……ほっ、何だよ。目の色が茶色から青色に変わっただけじゃないか」


 鍵のかかった机の引き出しを無理矢理開けると、中に鏡が置いてあった。

 急いで長い白茶髪をかき上げて、鏡で見てみた。

 瞳の色が変わって、別人みたいな顔になっていただけだった。

 これなら問題なく街に住む事が出来そうだ。


「結局、ルディには戻れずに別人になっただけじゃん」


 父さんと母さんの家に帰っても、これだと、俺だと分からない。

 とりあえず落ち込むのは、あとでも出来る。今は服を着ないとマズイ。

 真っ裸で鏡を見る男は気持ちが悪い。


 タンスの中から厚手の灰色の長ズボン、白い長袖シャツを借りて素早く着た。

 他人のパンツを履くのは抵抗があるので、今回は遠慮する。

 灰色ズボンは足首の十三センチ上、白シャツはサイズが小さく窮屈なのでボタンは閉めない。

 靴も何足か置いてあったけど、サイズが合わない以前に、裸足の方が速く走れそうだ。


「残りは四匹。行くなら、やっぱり人が多いパーティー会場かな」


 犬の匂いを頼りに屋敷の中を走っていく。

 使用人の何人かとすれ違ったけど、軽く悲鳴を上げられた程度だった。

 お金持ちの変態が屋敷の中を走り回っていると、思ってくれればいい。


(匂いが二手に分かれている?)


 匂いを追っていると、匂いが途中から二手に分かれた。

 片方が四匹、片方が一匹に分かれている。

 一度、どこかに三匹置いて来て、その後に一匹だけ連れて戻って来たみたいだ。

 

 皆殺しにするなら、パーティーをしている大部屋の周囲に置けばいいと思うのに。

 色々な場所に分散して化け犬を配置するみたいだ。

 もしかすると、屋敷の主人の妻と娘を混乱に乗じて連れ去るのかも。


 だとしたら、逃げずにパーティー会場の近くにいるかもしれない。

 危険な場所の近くにフレデリックがいるのなら、急いで捕まえて保護しないといけない。


(んっ? でも、一応は人間に戻れたから、無理して保護しなくていいのか)


 とりあえず目標は生け捕りとして、パーティー会場に急ごう。

 音楽が鳴り止んで、悲鳴が鳴り響けば、それは殺人パーティー開始の合図だ。


 ♢


「きゃああああ! 魔物よ!」

「護衛なら、さっさと倒せ! 高い金を払っているんだぞ!」

「駄目だ! 馬車と船の所にもいやがった! 逃げるなら森の中しかない!」

「ぐぁああああ‼︎」


 ちょっと遅かったみたいだ。殺人パーティーが始まって、二分ぐらいかな?

 廊下を走っていると、逃げて来る人達の波に飲み込まれてしまった。


「ちょ、ちょっと通して、通してください」

「邪魔だ! 引き返すんじゃない!」

「おい! 二階だ、二階! 二階に避難するぞ!」

「お願い、誰か助けて! お金なら好きなだけ払ってあげるわよ!」

「金なら持ってんだよ! 助かりたいなら自分でどうにかしろ!」


 綺麗な靴で次々に足を踏まれていく。

 化け猫で経験した血の匂いが鼻の中に入ってくる。

 ついでにパーティー会場の肉料理の匂いもしてくる。

 向かって来る人達のスーツの中に吐いて、ちょっとお口をスッキリしたい。


 でも、これ以上は遅刻できない。

 色々と我慢して、人の流れに逆らって進んでいく。

 

「ふぅー、間に合ったみたいだ」


 逃げて来る人達の波を押し除けて、ようやくパーティー会場に到着した。

 縦横百メートル以上はありそうな広い会場で化け犬が三匹暴れ回っていた。

 その化け犬達を武器を持った護衛達が追いかけ回している。


 パーティー会場は、肌色の石壁に左右と下の三方向に、大きな濃茶の木扉の出入り口がある。

 天井にはたくさんの小さな明かりが点いた、巨大なランプがぶら下がっている。

 床には高そうな紺色と茶色で刺繍された長い絨毯が、端から端まで何枚も敷かれている。

 その絨毯の上に料理が並べられた、白いシーツが被せられた丸いテーブルがいくつも置かれてある。


 この広さなら戦うには問題ないとは思うけど、邪魔が多過ぎるみたいだ。


「さっさと殺せ! 何をやっているんだ! さっさと突っ込んで行って殺せ!」

「ニッキー! お前が一番に倒さなければクビだからな!」

「誰でもいい! 魔法だ、魔法を使え! 修理代は出してやる! さっさと片付けろ!」


 護衛の雇い主達と観客達が七十人以上も残って、邪魔な応援をしている。

 勇敢なみたいだけど、邪魔にならないように逃げてくれる臆病者の方が助かるよ。

 お陰で床に武器と一緒に倒れている人が十人以上もいる。


「ウーッ! グゥルルルル!」

「絶対にこの部屋から逃すなよ。近くに街がある。逃したら俺達の責任にされるぞ」

「クソッ、廊下で挟み撃ちにした方が倒しやすいのに邪魔しやがって……」


 武器を持った人達は全員で十二人いる。

 全員が鍛え上げられた逞しい身体をしている。

 冒険者ギルドの青髪の爽やかお兄さんと同じなら、8級冒険者ぐらいだと思う。


 しかも、逃げ出した人達が戻って来て、廊下を塞いでいるという最悪の状態だ。

 この部屋の中で雇い主と部屋と廊下の観客を守りながら、決着をつけないといけない。

 どう見ても、護衛の人数が足りないよ。


 ♢

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