第13話 受付女性とルディ死亡
しばらくすると、家の中からお父さんが帰ってきた。
待っている間にエイミーと地面を使って、会話をしていた。
他にも犯人を見つける手掛かりがある。
煙草の匂いや花の匂い、香水の匂いとかだ。
「どうやら間違いないようだ。キチンと考えて、文字を書いているようだ」
「ほら、やっぱりチャロは人間なんだよ」
渋い顔でお父さんが話した。犬の言う事でも信じてあげないと駄目ですよ。
純真な心は大人になっても大切に持っていた方がいいですよ。
「それはまだ分からない。賢い魔物もいるし、想像力が豊富な魔物もいる。それに食べた相手の記憶を奪い取る魔物も……」
「えっ……そうなの、チャロ?」
『違います』
二人の疑惑の視線が集中する。急いで地面に文字を書いて否定した。
やっぱり似た者親子だ。犬を疑う事しかしない。
「とにかく、子供が関わるような事じゃない。あとは私が調べておくから、エイミーは何もしなくていい。いつも通りにしてなさい」
「えっー、私も調べたいよ!」
「危ないから駄目だ。言う事が聞けないのなら、問題が解決するまで外出禁止にするぞ」
「うぅっ、分かりました……」
まあ、危険だからお父さんが止めるのも仕方がないと思う。
大事な一人娘をわざわざ危険な目に遭わす必要はない。
外出禁止でしぶしぶながらも納得したようだ。
「ワン! ワン!」
「どうした、チャロ?」
二人の話が終わった感じだったので、お父さんに向かって吠えてから、地面にメッセージを書いた。
『ルディが生きている事は内緒にしてください。犬の姿で生きていると分かると命を狙われそうなんで』
「ああ、分かっているよ。誰が敵か味方が分からない状況で、手当たり次第に調べるつもりはない。とりあえず犯人の条件に合う人物を見つけたら、チャロに会ってもらうつもりだ」
『任せておいてください』
「さあ、話は終わりだ。二人とも朝ご飯を食べなさい」
あとは大人に任せておけば安心だ。
冒険者5級だし、子供が頑張って犯人探しをするよりはマシだ。
♢
朝ご飯を食べ終わると、エイミーと一緒に冒険者ギルドに向かった。
悲しい事にタダで飯も宿も手には入らない。犬でも仕事はしないといけない。
冒険者登録用のカウンターに連れて行かれた。
「すみません。この子の登録をお願いしたいんですけど」
俺の身体を持ち上げて、エイミーはカウンターの上に置いた。
受付カウンターには茶色い金髪のお下げの女性が座っていた。
白い半袖フリルシャツ、上から下に黒、緑、赤、白に色が変わる胸開きドレスを着ている。
間違いない。俺の冒険者登録をした受付女性だ。
「きゃあああ!」
「ハフゥ、ハフゥ、ハフゥ!」
「あっ、ちょっと、そこは……!」
「こ、こら、チャロ⁉︎」
俺をこんな身体にした責任を取ってもらう為に、膝の上に飛び乗って、じゃれまくった。
犬ならこのぐらいは許される。むしろ、この程度で許すなんて生易しい。
今度はクエストを受理した受付女性にも、じゃれついてやる。
「す、すみません‼︎ チャロ、駄目でしょう!」
「クゥーン」
エイミーの手によって、無理矢理に引き離されると、カウンターの上で頭を叩かれた。
前に叩かれた時よりもちょっと痛かった。人間扱いしてくれているみたいだ。
「あっ、あっはは、元気なワンちゃんですね。従魔登録でよろしいですか?」
「はい、名前はチャロです。よろしくお願いします」
受付女性は苦笑いを浮かべて、服の乱れを直すと、気を取り直して仕事を始めた。
「では、冒険者カードの提出をお願いします。従魔の登録料は必要ありません。あと、この子の鑑定も必要になります。危険な才能やスキルが確認された場合は、登録できない場合もあります」
「分かりました。はい、チャロ。この水晶玉に手を置こうね」
エイミーは白いエプロンポケットから銀色の冒険者カードを取り出して、受付女性に渡した。
そして、俺の右前足をカウンターの上の水晶玉に乗せようとしている。
(登録できると何か良い事でもあるのか? 逆に出来ないと悪い事が起きるとか?)
でも、ちょっと待ってほしい。
危険な才能やスキルが見つかった場合、どうなるのか教えてほしい。
見つかった瞬間に建物の冒険者が全員で殺しに来ないよね?
「チャロちゃん、意外とありますね。才能は【嗅覚】【俊敏】。スキルは【噛み付く】【引っ掻く】がありますよ」
俺の不安を無視して、無理矢理に鑑定はスタートした。
前足がピリピリするけど、受付女性は水晶に浮かぶ、白色と青色の文字を読んでいく。
「えっ、それだけですか?」
「はい、他にはありません」
「う~ん、そうなんだ……」
エイミーは鑑定結果にガッカリしている。
四つもあるなんて凄いと思うけど、これだと駄目みたいだ。
人間の時のチャロは、もっとガッカリする鑑定結果だったぞ。
「今のところは危険はなさそうですね。登録できますよ。でも、登録後も定期的にチェックしてくださいね」
「はい、その時はお願いします」
「では、登録を始めます。しばらくお待ち下さいね」
「ありがとうございます。良かったね、チャロ」
「ワァフッ」
どうやら、何も問題なさそうだ。
受付女性はエイミーの冒険者カードを持って、椅子から立ち上がった。
エイミーが喜んでいるので、小さく鳴いて一緒に喜んだ。
「お待たせしました。こちらがエイミーさん、こちらがチャロちゃんのカードです」
「ありがとうございます」
しばらくすると受付女性が戻ってきて、銀色の冒険者カードを二枚渡してくれた。
一枚がエイミーの物で、もう一枚が俺の物みたいだ。
木の板よりは小さくて薄いけど、銀色の金属板に進化した。
「あの……スライム洞窟で迷子になっていた子供は見つかったんですか?」
「えっ? あぁ、あの子ですね……」
登録も終わって、クエストを見に行くかと思ってたけど、エイミーが受付女性に聞いてしまった。
聞きたい気持ちは分かるけど、聞いた相手がちょっと悪かった。
「私が冒険者登録しました。まさか、その日のうちに死んでしまうなんて思いませんでした。うぅっ、あんな事になるなら許可しなければ……」
「ご、ごめんなさい! でも、本当に死んだんですか? もしかすると生きているかもしれませんよね?」
受付女性が今にも泣きそうだったので、エイミーが慌てて生きている可能性があると言っている。
教えたい気持ちは分かるけど、ちょっと本気でやめてほしい。
「肉の塊にスライムが群がっていたそうです。その中に子供が着ていた服が見つかりました。猟奇的な殺人犯の可能性があるそうです。スライムを使って、子供の遺体をドロドロに溶かして……」
「えっーと、大丈夫です! 生きてます! 絶対に生きてますから!」
俺がどんな風に死んだのか、受付女性は勝手に妄想して泣いている。
というよりも、この妄想が調査結果みたいだ。
エイミーとお父さんが口を滑らせなければ、生きている事がバレる心配はない。
なので、急いでカウンターから飛び降りて、大声で吠えて、エイミーに向かって飛び跳ねた。
早く話を妨害しないと、ポロッと言ってしまいそうだ。
「ワン! ワン!」
「チャロ⁉︎ 静かにしないと駄目って言ったでしょう!」
「クゥーン」
怒られたので、すぐに吠えるのをやめて静かにした。
建物にいる二十人近い冒険者達の注目が飼い主に集まっている。
飼い犬のしつけが出来ないなんて、駄目な飼い主だ。
「もぉー、次に吠えたら、街には連れて来ないからね!」
「クゥーン、クゥーン」
飼い主の名誉の為に腹這いになって、周囲の人達に反省している姿を見せてみた。
でも、この建物の中はマッチョな男率が非常に高いから、誰も可愛らしい仕草は求めていなかった。
すぐに何事もなかったように、見向きもされなくなってしまった。
「お騒がせしてしまって、すみません。家に帰ったら、キチンと叱っておきます」
「気にしなくていいですよ。可愛いワンちゃんには癒されますから。また連れて来てください。じゃあね、チャロちゃん。頑張るんだよ」
「クゥ~ン」
カウンターの向こうの受付女性にエイミーは頭を下げて謝っている。
飼い犬の不始末は飼い主の責任だから仕方ない。
泣いていた受付女性は笑って許してくれたけど、二回目は厳重注意確実だな。
♢
「もぉー、チャロの所為だからね」
10級クエストの掲示板の前でエイミーが文句を言ってきた。
どう考えても、口の軽いエイミーの所為だと思う。
「私は魔物でもいいけど、やっぱり採取系のクエストの方がいいかも」
エイミーに抱き抱えられた状態で、二人でクエストを見ている。
でも、エイミーは何をやるか決めているようだ。
採取系クエストの中に薬草とキノコの二つがある。
俺の嗅覚で見つけられるのか試したいのだろう。
「どっちも近場の森で取れるから、場所さえ分かれば簡単だよ。これにするね」
エイミーは二枚のクエスト用紙を取ると、三人並んでいる受付カウンターに並んだ。
そういえば、まだ一回もクエストは達成していない。
スライムの核は集めたのに、当然失敗になるんだろうな。
♢