第98話 冒険者ギルド七不思議
アリスから貰ったお弁当をエイミー達は食べ終わると、街に出掛けていった。
メリッサには戦闘訓練を一日三十分ぐらいはしたいけど、今日はゴーレムと戦ったからいいだろう。
それにしても、まるでお店で売られているような手作り弁当だった。
(酢魚と甘辛揚げ魚のサンドイッチなんて初めて食べたけど、本当に手作りかな?)
かなり凝った料理だったけど、俺はアリスの言葉を信じている。
赤いベルトリボンから取り出しても、本人が手作りだと言うのなら、作り置きした手作り弁当なのだ。
お店で大量購入して、アイテム収納していたわけじゃない。
「本当にいいの? 二人と一緒に買い物に行けばいいのに」
「まだ身体の傷が治ってないから休みます。突き刺された剣が身体の反対側まで飛び出したんですよ。一週間は休みたいですよ」
机が四つあるアリスの部屋から出ようとすると呼び止められた。
薬臭い部屋でお弁当を食べ終わったので、俺は部屋に戻って寝る予定だ。
帰り道の丸部屋に怖い先輩がいるけど、よく吠える犬だと思って、素早く通り抜ければ大丈夫だ。
「あれ、そうなんだ? だったら、私が治そうか? 回復魔法が使えるから、回復薬よりも即効性だよ。さあ、服を脱いで傷口を見せて」
「えっ、そんな悪いですよ。でも、お願いします!」
嬉しいお誘いだったので、ちょっとだけ遠慮してから、素早く上と下の服を脱いだ。
もちろん水玉トランクスだけは、履いたままにしないと悲鳴を上げられる。
「これはなかなか重傷だね。傷が深いと回復薬だけじゃ治るのが遅くなるんだよね」
「あうっ、痛たたたっ、そこは治りかけだから優しく触って」
「あっはは、ごめんごめん。普通は出血死する大怪我なのに、生きているのが不思議だったから」
白シャツと緑のベストで隠していた、胴体の怪我をアリスが指で弄り回す。
謝っているけど痛かったから許さない。俺もアリスの身体を弄り回させてもらう。
(邪魔者がいない密室ならば、睡眠ガスの出番だな)
エイミー達は買い物でしばらく戻って来ない。
エリアスは机に足を乗せるのに忙しいから、この部屋には来ない。
海賊から没収した茶色い瓶に入った液体を、うっかり床に溢せば、液体が蒸発して睡眠ガス発生だ。
寝ているアリスを持ち上げて、鉄扉の奥の部屋に運べば、仕事中に居眠りしたように偽装できる。
でも、まずは治療が最優先だ。怪我した身体じゃ何も出来ない。
しっかり治してもらって、元気な身体でお礼をしてあげよう。
仕事で疲れた身体を優しくマッサージだ。
「〝ヒール〟——それにしても命を狙われるなんて大変だね。1級冒険者なんて存在しないけど、キールっていう人は、それぐらい強かったんでしょう?」
アリスの両手から青色のくすぐったい優しい光が放射される。
青い光に当てられた傷口が、見る見る綺麗な白い美肌に変わっていく。
こんな便利な魔法があるなら、俺も習得したい。
だけど、今はもっと気になる事があるので、叶わない夢は忘れよう。
1級冒険者が存在しないとは、どういう意味なのか知りたい。
「ええ、まあ。でも、一年もあれば片手で倒せますけどね。それよりも1級冒険者はいないんですか?」
「ん? 2級からは騎士団に所属するか、冒険者を辞めるしかないんだよ。強過ぎる力を個人に持たせると危険だからね」
冒険者ギルド七不思議の一つをアリスは普通に教えてくれた。
つまりエリアスのような狂犬は危ないから、小島の調査部の番犬にしようという事だ。
確かにあんなのを放し飼いにするのは危険だ。
「そうなんですね。でも、厳し過ぎませんか? 騎士団に所属しないと辞めさせるなんて」
「そんな事ないよ。冒険者ギルドは国営でしょ。依頼が全部指名クエストになるだけだよ。ほとんどの人は騎士団に所属する方を選ぶんだから」
まあ、騎士団に入るか、冒険者を辞めるか選ぶなら、普通は騎士団に入ると思う。
心配があるとしたら、馬車馬のように働かされて、収入が激減しないかだ。
もしもそうなら、別の仕事をやった方が楽に稼げると思う。
「だったら、その所為で強い海賊が現れたんじゃないですか? つまり俺達が襲われたのは、国の所為なんですよ!」
「あっはは、その可能性もあるかもしれないね」
俺がビシッと指摘するとアリスは笑って誤魔化した。
という事は、俺がメリッサの面倒を見る必要がないという事だ。
国の責任なら、メリッサの衣食住を騎士団が面倒見るのは当然の義務だ。
ついでに海賊に壊された物を弁償してもらうチャンス到来だ。
「じゃあ、この海賊に壊された丸盾も弁償してもらえますよね? 国の所為なんだし、百六十万ギルもするレアな盾なんですよ」
「ん? おお、綺麗に真っ二つだね。これなら直せるよ!」
「駄目です。弁償が良いです」
アイテムポーチから真っ二つになった黒丸盾を取り出して、アリスに手渡した。
アリスは受け取った丸盾を直すつもりだけど、直せば元通りというわけじゃない。
海賊を倒して海賊船まで持って来たんだから、百六十万ギル程度は報酬にもらって当然だ。
「弁償は無理だよ。最初に言ったけどお金は無いんだよ。私が綺麗に修理してあげるから、それで許して?」
「駄目です。修理だと跡が残るじゃないですか。身体の傷は綺麗に治っても、心の傷は一生残ったままなんですよ!」
可愛く首を傾げてお願いしても、胸を揉ませてくれても、駄目なものは駄目だ。
お金にはお金で責任は取ってもらうのが常識だ。
あれだけ頑張って戦って救助までしたんだ。
三万ギル如きで無かった事にはさせない。
今日の俺は女の子相手でも、血も涙もない鬼になってやる。
身体を使った色仕掛けも一切通用しない。
「ちょっと何を言っているのか分からないけど、接着剤で綺麗にくっ付けて、金属板で綺麗に装飾してあげるよ。これよりは綺麗になるから、それで許してよ?」
「駄目です。それだともう別の盾じゃないですか」
「もぉ、お金は無理だって言ってるのに。あっ! じゃあ、これなんてどうかな?」
ようやく報酬を支払う気持ちになったようだ。まったく騎士団はケチ揃いだ。
アリスは諦めたように赤いベルトリボンから、何かを取り出そうとしている。
「んっ? 何ですか、これ?」
アリスの右手の手の平の上には、ピンク色のアメ玉のような物が乗っている。
もしも、アメ玉一個で俺が許すような甘い男だと思っているなら、睡眠ガスの出番だ。
そして、朝起きた時に俺の部屋のベッドの上で、俺を舐めた事をたっぷりと後悔すればいい。
アメ玉だけに、絶対に舐めた真似は許さない。
「これは私が作った薬で【魔薬】だよ。これを飲み込めば、もの凄く気持ち良くなれるんだよ」
「そんなのいりませんよ。俺が欲しいのは弁償です。盾だけじゃなくて、剣も失ったんですよ。本当なら五百万ギルは支払ってほしいんですからね」
気持ち良くなれる薬なんて欲しくもない。
変な薬を飲んで、酔っ払ったように全てを忘れさせるつもりなら無駄無駄だ。
「五百万なんて大金払えないよ。もぉ、分かったよ。私の身体を五百万ギル分だけ、ルディの好きに使っていいから」
「えっ?」
「これで許して……駄目っ?」
「なっ⁉︎ な、な、な、な」
ちょっとドキッとする言葉を言ってから、アリスは椅子から立ち上がった。
そして、恥ずかしそうに服の裾を両手で軽く捲って尋ねてきた。
白い太ももがハッキリと見えるけど、白いカボチャパンツがどこにも見えない。
それどころか股にピッタリと張り付いている、白い逆三角形の布が見える。
(何なんだ、あれは⁉︎ パンツなのか? あんなに小さなパンツが存在するのか⁉︎)
アリスは変わった服を着ているから、変わったパンツを履いているのだろう。
というか、好きに身体を使っていいとは、どこまで好きに使っていいのだろうか?
料理、洗濯、お買い物、どこまでいいのか分からない。
「一回二万ギルでいいよね? 一年間毎日使っていいから、それでいいよね? それで許してくれるよね?」
「えっ、えっ、ちょっ、えっ?」
アリスが何を言っているのか全然理解できない。
俺は椅子にトランクスだけの恥ずかしい姿で座っている。
そんな俺の膝にアリスは足を開いて座ってきた。
俺の太ももの上に、アリスの柔らかい太ももとお尻の感触と温もりが伝わってくる。
混乱する頭で考えられる事は今すぐに抱き締めて、おっぱいに顔を埋めたいだ。
「はい、あ~んして。これでもっと気持ち良くなれるよ」
「あっ、あ~~ん!」
口元に指でつまんだピンク色のアメ玉を近づけて、アリスは甘い声で俺にお願いしている。
このアメ玉を食べさせて、俺をメチャクチャにするつもりだ。
(面白い。来るなら来いだ)
シルビアとは何も覚えてないけど、今度は絶対に忘れるつもりはない。
口を大きく開けるとアメ玉と快楽を受け入れる事に決めた。
「はい、ゴックンして」
「んぐっ! はい、飲みました」
「はい、良く出来ました。偉い偉い」
言われるままにピンクのアメ玉を飲み込んだ。
出来れば味を確かめたかったけど、アリスは待てないようだ。
俺の頭を優しく撫でてくる。
仕方ない。エイミー達が買い物から戻ってくる前に終わらせよう。
「う、うぐっ、ぐぅがああ⁉︎」
「きゃあっ!」
そう思っていたのに、突然、快楽どころか激痛がやって来た。
話が違う。気持ち良くなれる薬だったはずだ。
痛みに耐え切れずに椅子から床に落ちてしまった。
「あがッ! ア、アリス、く、苦しいっ!」
「大丈夫だよ。苦しいのは最初だけだから。すぐに良くなるからね」
「ぐがぁ! ああああああああああ‼︎」
腹を突き破って、何かが飛び出して来そうな痛みにアリスに助けを求めた。
けれども、助けは断られた。このまま我慢するしかないそうだ。
でも、耐え切れずに大声で叫んだ。
出来れば今すぐに腹の中からアメ玉を吐き出したい。
だけど、腹の中でアメ玉が種のように根を張ったような感じがする。
吐き出すのは無理そうな気がする。
「あづっう、がぁぐぐがあっ! りぁゃ、があああっ、ゔがががががっ!」
意味不明な悲鳴を口から叫び続ける。
床を転げ回りたいのに身体がピクリとも動かない。感じるのは痛みだけだ。
目が見えなくなった。音も匂いも感じる事が出来なくなった。
(この感じ……前にも……)
しばらくすると、全身を襲う強烈な痛みが消えてくれた。
確かにアリスが言ってた通りだけど、痛みと一緒に意識も消えていくようだ。
何も見えない。何も感じない。女は卑怯だ。色仕掛けで睡眠薬を飲ませたな……。
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