ブルーサファイア。
綺麗な月が、鈴虫を照らす、虫はリンリンないている。
「いただきます。」
口を揃えていただきます。久しぶりに、家族4人で夕食をとる。
「うめ!!うめ!!ガツ……ガツ……おかわりい!?」
アティアは、空になった皿をミラに差し出す。
「はーい。」
ご飯とカレーをつぎに席を立つ。
「相変わらず、食べるのが早いな。」
カノンは相変わらずの食べっぷりに少し感心している。
「カレーは飲み物である。」
「ちゃーんと噛んで食べなあ!?」
テーブルに肘をつき、指を顔の前でクロスさせて名言を放つアティア、それに向かい、サンバが言の葉を発する、それと同時にサンバの口の中で洗練されたカレーが、アティアに向かってほとばしる!!!
顔面直撃!!!
「うぎゃあーー!!汚っ!!食べながらしゃべんじゃねー!!BBAーーー!!」
アティアは、当然叫ぶ。
「2人とも、食事中だぞ!!行儀が悪い!!」
シャキーン!!カノンのフォークがキラリと光る!!!
「はいっ!!すんませーん!!」
サンバとアティアは即座に背筋を伸ばす。賑やかな晩餐である。
「はい、どーぞ。」
ミラは、大盛りに盛ったカレーを、アティアに差し出す。
「あんがちょ。」
満面の笑みである、ミラもついできた甲斐があったというものだ。憎めない、この笑顔。
「そういえばアティア、お前ブルーサファイアはちゃんと持っているのか??」
「え?ブルーサファイア??ナニソレ??」
カレーを貪るアティアのスプーンが止まる。
「全く……私の時を忘れたのか?ナイト試験は、ブルーサファイアを持っている者しか受けられないのだぞ??」
ハァ……カノンは溜息をつく。
「……あ、やべ……忘れてた。」
「え……そうだったんだ……じゃあ、早速、一緒にブルーサファイア探さないとだね!?アティ!!」
グッと、ミラの両拳に力が入る。
「は??ミラも付いてくんの??ブルーサファイアって、結界道の外に出ないと見つかんないんだろ??ダメダメ!!危ないからついてくんな!!」
「やだ!!私、アティについて行くって決めたんだもん!!ひっつき虫になってでもついて行くもん!!」
バンッと両手で机を叩き、立ち上がり!!なかなかの迫力でアティアに詰め寄る。
「え……お前マジで言ってんの??」
鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔でミラを見る。
「大マジだもん。」
口を膨らまし、アティアを見下ろす。
「だーから、さっきミラを守れと言ったんじゃい!!」
「これはもう覆らん……私もさっき覚悟を聞いた、ミラを頼んだぞ、アティア……パク……モグモグ。」
カノンは、諦めろと言わんばかりにアティアを諭したあと、ポテトサラダを口いっぱいに頬張る。
「ったく……仕方ねーなあ!!足引っ張ったらすぐに置いてくかんな!!」
「はーい。あ、ほっぺにお米ついてるよ。」
ミラは上機嫌に早変わり、アティアについている米を摘み、食べた。
「って事はだ……俺と、ミラの分の、2つのブルーサファイアがいる訳か……!?じゃああんましのんびりしてらんねーじゃねーか!?」
「うん!!早速準備して、明日の朝から出発だあー!!」
アティアとミラは急いで夕食を済ませる。
「はいはい!!あんた達はさっさと支度して寝な!!洗いもんは台所に置いときゃえー!!」
「サンキューな、じゃ!!おやすみ!!」
「サン婆、ありがとう!!あ!!アティ!!ちゃんと歯!!磨いてから行くよ!!」
バタバタと、2人は足早に食卓から離れて行った。
「あーあー、元気だねーー!!……それにしても……いよいよ1人暮らしかい……ズズ……。」
「ああ、サン婆その事について話がある。」
「ほ??」
サン婆に食後のお茶を淹れた後、自分のお茶を淹れながら、今後についてしばしば話し合ったサン婆とカノンであった。
「いよいよ明日から出発かあー、緊張して寝れねーぜ!!」
アティアとミラはワクワク、ソワソワしながら、それぞれ布団に入る。
「そだね!!明日から、よろしくね!!
アティ!!…………アティ??」
「………………Zz……Zz……Zz……。」
「いや、それは流石に早すぎだよ!?」
そして翌日の早朝ーーー。
「歯ブラシ!!弁当!!水筒!!金貨!!ミラは杖!!アティアはガントレット!!装備したかい!!??」
サン婆の最後の朝礼が始まった。
「はい!!」
2人元気よく返事を返す、ビシッと背筋を伸ばして立っている。
「いーかい!?2人、いついかなる時も!!助け合い!!支え合い!!慈しみながら無事にリクレシアに辿りつくんだよ!?」
サンバは、いつも以上に大声を張り上げる。
それは結婚の時の神父のセリフでは??とかカノンは思ったが、黙って見過ごす。
「はい!!」
「私も、今日の午後リクレシアへ帰るとする、2人とも、しっかりブルーサファイアを手に入れて、リクレシアの隣の試験会場へ、無事に辿り着くんだぞ、いいね??アティア、しっかりミラを守るんだよ?ミラ、アティアが傷ついたら、すぐに回復してあげるんだ、あとは………」
「だー!!大丈夫だよ!!まずは、東のゴリラ山にある、ブルーサファイアからだ!!しっかり手に入れてくるさ!!じゃ!!行ってきまーす!!」
アティアは今から始まる冒険を前に、はやる気持ちを抑えられずに、そそくさと行ってしまう。
「あ……アティ!!待ってよー。」
ミラもアティアについて行こうとする。
「ミラ!!」
カノンがミラを呼び止める。
「……ん??」
ミラはカノンの方へ振り向く。
「ゴリラ山は、結界道の外だ、魔物の強さが跳ね上がる!!くれぐれも気をつけるんだよ!!」
「はい!行ってきます!!また、リクレシアで!!」
そう言い残すと、アティアの背中を追いかけて行ったーーー。
「行っちまったね、あんた達を、駐屯地で拾って早12年、ソフィア達が、必死に守ったあんた達を、私たちなりに頑張って育ててきた……やっぱり別れは寂しいねえ。」
しみじみと、アティア達の後ろ姿を、当時の幼い姿と重ね合わせる。次第に涙が込み上げる。
「サン婆……。」
カノンは、2人を見送るサン婆の背中を支える。
「大丈夫……またすぐに会えるさ。」
そして、アティア達が出発して半日が過ぎた……。
「それじゃあ、サン婆、行ってくる。」
「はい!!気をつけて行ってきな!!しっかり昇進しておいで!!」
「ああ、必ず【パラディン】になってみせるさ、体に気をつけてな、サン婆。」
フッと微笑みながら、リクレシアに帰って行った。
「ふぅ……さすが、アベルとソフィアの娘だよ、若干18でもうパラディンを狙えるところまでいくとはねえ。」
カノンを見送った後、テクテクとローゴの墓へと向かう、そして、墓の前でよっこらせと、腰をかける。
「あんた!!ついにアティアとミラまで行っちまったよ!!」
サンバは1人、墓に向かって喋り始める。
「あの子達を、ひろって、いろんな事があったねえ!!ミラが近所のクソガキ達にいじめられて、泣きながら帰ってきて、それに怒ったカノンとアティアがそいつらをボコボコにして、そしたらその親が家に殴り込んできて、あんたと2人でタコ殴りにして追い返したり………え?ワシは何もしとらん??お前が、一人で暴れただけだって??」
ふふっと、激動の思い出が蘇り、眉を垂れ下げ苦笑する。
「そうだったかねえ!?これで落ち着く反面、寂しくなったよ!!でも、カノンがもうすぐパラディンに昇格するそうで、そうなると私をリクレシアへ入国できるようになるんだと!!あんまし、無理しないといいんだけどねえ!!それまでは!!あんたの墓拭きくらいしかやることなくなっちまったよ!!!………え?小汚ない墓で悪かったな、だって??………なーに言ってんだい!!この死人は!!」