スーパーアティア。
ある家の煙突から、モクモクと、煙がでている。
トントン……トトントン……トトトン……トトトン……ストトトトン。
「はいっ!!人参切ってー!!玉葱切ってー!!牛切ってー!!」
軽快なリズムをきざみながら、大声ではしゃぐ老婆がいる。
「サン婆!!ただいまー。」
アティア達が元気に帰ってくる。
「はい!!おかえりいいい!!手洗って、うがいしてきなあー!?」
アティア、ミラ、カノンが家に帰宅すると同時に、奥のとびらから、元気なサンバおばあちゃんの声が聴こえてくる。
「はーい。」
アティアとミラは、いつもと同じトーンで返事を返し、洗面所へ、そしてカノンは、家の空気を吸う。
「久しぶりだな、この匂い。」
「カノン!!あんた!!帰ってきたんかい!?早よ言わんか!!料理、追加せないかんやん!?ちょっ……買いもん行ってくっから、そのホコリまみれの体、さっさと洗い流してきなあ!!」
ダダダダダダーーーー!!!
そう言うと、ダッシュでサン婆は、家を出て行った。
「………相変わらずだな、サン婆は……。」
そう言うと、カノンは脱衣所に向かう。
「ミラ、一緒に入るか??」
「うん!!入る!!やったー!!」
「俺は、ローゴ爺の墓掃除してくるわ。」
アティアは、庭にある墓を拭きにいく。
「あ、そうだった、先に手を合わせよう。」
「だねー。」
カノンとミラも、墓の前で手を合わせる。
「もう2年か、早いな。」
「だなー、サン婆と、激しい言い合いのケンカして、珍しく激昂したと思ったら、脳の血管が切れて死んじまったからなー、あん時は焦ったぜ。」
「ねー、びっくりだったねー、頭から血が吹き出したもんねー………さ、お風呂入ろう、お姉ちゃん。」
「そだな。」
ローゴとの思い出を語りながら、2人は風呂場へ向かった。
「ローゴ爺、俺たちゃ元気でやってるぜ。」
ダダダダダダダダ………キキィーーーッ。
激しい砂煙を上げながら、急ブレーキをかけたかのような音をたてて、サン婆が帰ってきた。
「ゼェ……ゼェ……ほれ!!アティア!!そんな小汚い墓掃除なんかしとらんで、はよう野菜の皮むき手伝いなあ!!!」
「いや、あんたの旦那の墓なんだが!?」
アティアは突っ込んだ。かわいそうなローゴ爺であった。
30分後……
「ふぅ……いいお湯だった。」
「アティもはいりなよ〜〜、気持ち良かったよ〜。」
「お!!じゃあ久しぶりにアティア!!一緒に風呂!!入ろうか!?!?」
何を血迷ったのか、急にアティアを風呂に誘うサン婆。
「アホか!?ヤダ!!絶対入ってくんなよ!?」
「そりゃフリかい!?」
「んなわけあるかあ!!??BBAーー!!!」
ピシャアッ!!脱衣所のドアが激しく閉まる。
「冗談だよい!!ったく……照れおって。」
いや、心底嫌がってます。
ミラとカノンは、そう、思った。
「さて、サン婆、あとは私達がしよう、少し休んでてくれ、後は、煮るだけだろ??」
「ごめんね、手伝うとか言っときながら、帰り遅くなっちゃって。」
ミラは、申し訳なさそうにサンバに向かい、顔の前で手を合わせる。
「どーせ夕方まで帰ってこんと思っとった!!いつものことじゃろが!!……しかしカノン、いつ戻ったんだい!?」
よっこらせと、椅子に腰掛け、あっつあつの緑茶を片手にサンバが尋ねる。
「思ったより任務が早く終わってな、報告は明後日までにすればいいから、久しぶりにサン婆を尋ねに帰ろうと思ったら、偶然アティアとバッタリ会ってね、久しぶりにしごいていたのさ。………あち。」
鍋の具材がカノンの手に飛んで火傷をしてしまった!!
「お姉ちゃん!大丈夫??」
「舐めてれば治る。」
チロチロと、舌で手の甲を舐めるカノン。
「ダメ!!光よ、火傷を癒やして。」
ミラの人差し指が少し光り、カノンの火傷した手の甲へ光が差す、すぐに火傷が治ってしまった。
「ん、すまんな。」
「ところで!!バリバリ……!!アティアの奴は!!モグモグ……3日後のナイト試験に参加する!!なんっつって!?行く行くゆーて、ききゃーせんのだけど!?いーんかい!?………ズズ……。」
サン婆は、ボリボリと!!せんべいを食べ散らかしながら、緑茶で飲み込む!!
「あいつは言い出したら効かんからな、それに……母さんの事もあって、どうあっても戦いの道に進むさ。遅いか、早いか、だけだろう、私もさっき話は聞いたよ、あの実力であれば、余裕でクリアできる。」
出来上がりつつある、香ばしいカレーをかき混ぜながら、そう呟く。
「あ、その事なんだけど……私も、アティについて行く!!」
「はいいいぃ!!??ミラ!!何言ってんだい!?危ないよ!!やめときなあ!!!?」
ドン!!と飲みかけの熱々の緑茶を激しく机の上に叩きつける!!そして、飛び散った緑茶が、サンバの手に降り注ぐ!!
「あっつぁ!!!」
ピタリ……カノンのカレーを混ぜる手が止まる。
「……ミラ、サン婆の言う通りだ、下手したら死んでしまう、やめておいた方がいい、今のままでは、間違いなく死ぬぞ。」
カノンは、振り返り、ミラを見据える、カノンの目が急に厳しくなった。
「私、本気だよ?だから今日だって、一生懸命魔法の特訓したんだよ?アティアに、置いて行かれないように……いつも、崖から落ちそうな時とか、スライムにおそわれたりして、守ってもらってばかりだから……守られてばかりじゃなくて……私もアティアとお姉ちゃんの助けになりたいから……!!」
カノンの目を真っ直ぐに、瞬きもすることなく、自分の思いを打ち明ける。
カノンは少し息を吸い込む、そして……問う。
「そうか……本気なんだな??引き返すことは許されんぞ?そんなに甘い場所ではないからな、一度戦場に出てしまえば、待っているのは、恐怖、悲鳴、怒号、死、だ、耐えられるのか??私もいつ死ぬか分からないこの状況下で、ホントに……アティアについていくんだな?」
「行きます、本気です。」
目に一層力が入る、一度もカノンから目を逸らさない。
「……そうか………わかった、全く、お前の頑固さは、今に始まったことじゃないからな、ダメと言ってもついて行くつもりだろう??」
ふぅ……とため息をついたあと、頭をポリポリかきながら、仕方なくカノンは折れた。
「お姉ちゃん!!ありがとう!!私、頑張るから!!」
ミラはホッとした表情を浮かべる。
「やれやれ……こりゃあ……参ったね……寂しくなるねえ……。」
サンバはボソッと、本音が漏れる。
「ふいーっ、いい湯だったぜえーー!!」
そんな空気の中、頭をバスタオルでワシワシ拭きながら、アティアが風呂から出てきた、そのまま食卓の椅子に腰をかける、3人は、アティアを見つめる。
「………よっこらす……ん??どしたん??」
まあ、そうなるよね―――。
部屋中に、カレーの匂いが染み渡る。
「さ!!出来たぞ!!ミラ、カレーとポテトサラダをもって行ってくれ。」
「はーい。」
「……やれやれ!!いつかは、こうなるこたあ分かってたよ!!ったく!!アティア、ミラを、しっかり守ってやんなあ!!」
バンっ!!サンバは、隣に座るアティアの背中に喝を入れる。
「いで!?……はあ??まあ、いつもの事だろーがよ??」
コト……コト……カチャ……カチャ……
ミラはカレーとサラダを食卓に並べる。綺麗に盛り付けられて、とても美味しそうだ!!
「うっひゃー!!!牛スジ煮込みカレーかよ!!?ご馳走だあーー!!!いっただきまーす!!」
フライングいただきます発動!!!
フライングいただきますとは!!家族団らんで食事をする際、皆で手を合わせていただきますをするのは至極当然だ、が、稀に極限まで腹を空かしたハナタレが、ルールを無視して我が先に食べようとする、万死にも値する、いただきますである。
その瞬間、カノンの眼がギラリと光る、サラダ用のフォークが、ヒュッーと音を立てて、超スピードでアティアの額に放たれた!!!
「甘いにぇ!!」 パシィーーー
そのフォークを、左手の中指と人差し指でキャッチする!!
「ふっ。」
アティアは鼻で笑う。
「なっ、なにい!!??止めた!?」
アティア以外の3人は、その指のこなしに驚愕する!!今の今まで数百回、フライングいただきますをする、行儀の悪い弟を、カノンの放ったフォークが、そのバカ弟の額にクリーンヒットしていたのを目の当たりにしていたからだ!!
今日初めて、そのフォークを止めたのだ!!
「……す、少しは成長したようだな……やるではないか……。」
カノンは口をひくつかせながら、少し悔しそうな顔をする。
「すごい!!やっと止められたね!!」
「初めてじゃね!?お前!!やるやんかい!!」
サン婆とミラは、今までアティアが痛い目に会っていたのを知っていたため、素直に称賛する。
「当然だ、今日の俺は、いつもと違うからな。」
鼻から煙が出そうなほど、鼻息が荒い、とても嬉しそうな顔をしている。
「いつもと違う!?今日のあんたはどう違うってんだい!!?」
サンバが問うた。
赤いアホ毛を、ピコピコ動かしながら、右手の親指を顔に向け、3人に、ドヤ顔で返した。
「俺は、スーパーアティアだ。」
なんじゃそら。