父の背中。
「はい、あーん。」
「あーーん。」
ソフィアは、自宅にて、アティアに手作りコーンスープを飲ませている。黒髪に、一本だけ、頭のてっぺんに生えている、赤毛のアホ毛と、赤い瞳が特徴的である。コクリと、とても美味しそうに飲んでいる。
「おいち。」 ニコリと、笑顔がとても愛らしい。
「ん〜おいちでちゅか〜。よちよち。」
とても、メロメロである。
「むー、ミラもミラも〜〜!!」両手を伸ばし、アティアばかりズルい、と言わんばかりに、ソフィアに向かいのテーブルからコーンスープを催促する。
「はーい、ミラ、あーん。」
「あむぅ……ムグムグ……グッ!!」
どこで覚えたのか、ミラはソフィアに向かい、親指を立てる。そんなミラの頭をなでながら、呟く。
「アベルの真似かしら??よしよーし……そろそろ結界を、新しくしなきゃね。」
「おかーさん、今日、行くの??あとかたづけと、2人は私が見るから、いつでも祭壇行って大丈夫だよ。」
6歳に成長したカノンが、昼食後の食器を片付けながら、ソフィアに言う、とても逞しい。
「おー、カノンちゃんは、とても偉いでちゅねー!じゃあ、お願いしよっかな!!」
そう言うと、カノンのおデコにキスをして、身支度を整える。
「30分くらいで戻るから、2人をお願いね、行ってきます。」
「いってらっしゃーい。」
家の玄関から、手を振るカノンに、手をふり返す。そして、デコボコの、整備のされていない道を、てくてく歩いて、村の中心にある、祭壇に向かう。
ソフィアは、数年前に村に来てから、月1の魔除けの結界を新しく張るために、毎月欠かさず訪れている。
到着、祭壇への階段を登り、祭壇の中心に立つ。
そして、魔法の詠唱を始める。ソフィアの足元が光りだす。
「我が魔力よ、護りの力となりて、悪しき力から我らを護りたまえ!!」
そう唱えると、ソフィアの足元に、魔法陣が白い光を放ちながら現れる、その魔法陣から、ソフィアの体に魔力が宿り、ソフィアは両手を掲げる、両手から、白い光が天空に向かって放たれた!!
空高く飛んでいった魔法が、ゆっくりと、村全体を優しく包み込んでいく。
「ふう、よーしオッケー、帰ろう。」
魔物や、魔族に、他の村や街は襲われている。その被害は、日に日に増してきている。
この村は、住人が百人程度の、小さな村だ、だが、ソフィアが、魔除けの結界を張っているため、並の魔族や、魔物は近寄ることができない。ソフィアの魔力が、とても強力なためである。
「ただいまーって、あれ??」
元気よく帰宅するが、3人の反応がない。
「あれあれ??」
居間にいない、台所にも、寝室をソーッと覗くと、3人仲良く、川の字になって、スヤスヤ眠っている。3人を起こさないように、ゆっくりゆっくり近づく、子ども達の寝顔を見つめる。
「ちょっ、これ可愛すぎんか??」
3人に寄り添うように横になり、しばらく子供達の、可愛らしい寝顔を、ニヤニヤしながら、ほっぺをツンツンしながら見つめる。
「ふあ〜ぁ……眠くなってきちゃった……」
久しぶりに、本格的な魔法を使ったせいか、ウトウトし始める、そして、そのまま眠りについた……
それから数刻が過ぎた頃……
ドーーン……ドーーン……ぎゃあああぁーーー
村から、普段聞こえない騒音と、悲鳴が鳴り響く。
「ん……?……な、なんの音!?」
ソフィアは、悲鳴が聞こえて飛び起きる!!
そして、慌てて家のドアを開ける……が目の前に現れた景色は、いつもの見慣れた景色ではなく、
ボォーー、ボォーー、と目の前の家が燃えている、ふと、村全体を見渡すと、村は、火の海に変わり果てていた。そして、村に魔物が入り込んで、村人を襲っている。
「えっ??」
ソフィアは、目の前の光景が信じられずに立ちすくむ。ほんの、さっきまで村人達が、笑顔で喋りながら歩いていた道が……行きつけの八戸屋さんが、畑が、祭壇が、全て、全て、炎に包まれていた。
「そ……んな……なんで??なんで??……私、こうならない為に、結界を……張っていたのに……!」
「ソフィア!!無事か!?」
アベルが大慌てで畑仕事から戻ってきた!!
「アベル??これ……一体どうゆう??」
アベルの服を掴み、目の前の燃えている、家を指さす、ソフィアはまだ混乱している。
「【魔人】が1人で、数匹魔物を引き連れて、襲ってきやがった!!あの魔人は、かなりやべえぞ!!お前の結界を、軽々破って入って来ちまった!!カノン達は家の中か!!??」
そういうと、アベルは急いで家に駆け込んでいく。
はっ!子供達を、早く安全なところに!!ソフィアは我に返った!!その瞬間、村人達が、虐殺される悲鳴が耳に入ってくる。
「た、助けてー!!」「ぐわあああ!!」
「ひいぃぃぃ、やめて……殺さないでええ!!ギャァーーーッ!!」
無数の魔物が、住人を蹂躙していく……
グルルルル………黒い、狼のような大きな魔物が、歯を剥き出し、威嚇、目の前の、村人に喰らい付く!!!
「――っ、させない!!紅蓮弾!!」
ソフィアは、魔法を詠唱することなく、強力な、火炎弾を魔物に向かって放つ!!燃え上がる火の玉は、音を立てながら、魔物の全身に全弾命中し、魔物は、一瞬で消え去った!!
「今のうちに、早く逃げて!!」
「ソ、ソフィア!?すまない!!助かった!!南の森を抜けた先に、騎士団の駐屯所がある!!お前達もそこに急ぐんだー!!」
助けられた村人は、全力で、叫びながら駐屯所を目指して、走り去って行った!!
「なにしてる!?俺たちも早く行くぞ!!??」
アベルが3人を抱えて家から出てくる!!が、遠くを見つめ、大きく息を吸い込む、そして、ソフィアに、眠るアティアとミラを強引に抱かせる!!
「アベル?」
「ソフィア、よく聞け、結界を破った奴が近づいてくる!!アティアと、ミラには、エアーの魔法と、スリープをかけてある、カノンを連れて駐屯所へ急げ!!」
ソフィアは、アベルの顔を見つめる、覚悟を決めたその顔は、全盛期の頃のアベルに戻っていた。
【元王国魔導士】であるソフィアにはすぐに分かった、そして、そっと、唇を重ねる。
「必ず、倒してきて……」
「ああ、元【パラディン】に任せとけ。」
アベルは、カノンを見つめる……震えるカノンの頭を撫でて、ニコリと笑う。
「カノン、大丈夫だ、父ちゃんがすぐに追い払ってやっからよ!!」
「……っうん!!お父さん!!信じてる!!」
カノンは最後に、アベルの足にしがみつく!!そして、ソフィアに手を引かれながら、アベルの背中を目に焼き付け、森へと走って行った!!
「さて……と」アベルは、1人仁王立ち。
ゆっくりと、ゆっくりと、禍々しい気配を撒き散らかしながら、結界を壊した大男が、近づいてくる。
「こりゃあ……勝てねえかもな……」
ゴクリと喉を鳴らし、剣を構える、が、ぶるぶると、手が震える、アベルにとって初めて感じる恐怖であった。
ドスン、ドスンと、大きな足音がアベルの目の前で止まる。
「で……でけえな……くそ……」
2メートルを、ゆうに超える、筋骨隆々な巨体、血の気が通っていないかのような、灰色の肌、尖った耳、そして、意外にも、眼だけは、人間のそれと変わらない、体格だけではない、身に纏う禍々しい力が、威圧感を与え、大男を更に大きく見せている。
「……お前ではない……」
大男の口が開く、誰かを探しているのか、アベルを見た後、周りを見渡す、そして、森へ入っていく、ソフィアの姿を捉えた。
「あっちか……」
アベルを素通りしかけたその時。
「おい、待てや、デカブツ!!」
横から鋭い殺気を放つ!!!魔力が高まり、風がアベルの身体を包む!!!
いよいよ、
元【騎士】対【魔人】の闘いが幕を開ける。
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