悩むシンイチとミサの会話@ミサの家
年少組は学校が休みになった。ニコは学園以外で夏を過ごすのが初めてやと言いよった。そらまたなんていうんか。生活のリズムがおかしなりそうやな。ちゃんと毎朝きまった時間に起きて、夜は日付が変わらんうちに寝るとか、なんか言うといたほうがよさそうや。
ロックはバイトをして、この夏の間にがんばって金を貯める言うとるし、ニコも、あの造花のアルバイトはまだやっとるそうで、休みなのでたくさんいれたいと頼んだらしい。
夏は繁忙期ではないらしいので、普通は学生は雇わんらしいが、ニコの話によると、手が器用で早いので歓迎されとるようや。給料はもうちょっと上がって時給1000円ぐらいになったというとった。
まあなあ。職歴はないが、ニコはその分野に限って言えば熟練工や。もうちょっと上がってもええぐらいや。
学校の友達を家に呼んだりもしたそうやが、やっぱりBB全員が来てくれる方が、学校のお友達よりいい感じがします、と言われたときは、全員なんていうか、な。カラオケボックスに行くぐらいなら、みんなに来てほしいですと言われて、「いや、あんまりたびたびはあかん」と言うたらニコはじわっとべそかきよって、ミサのクロスボルトが刺さるし、ギルマスが意地悪を、とシヴァには訴えよるしで、なんとしたもんか。
泣いてわがままを通すんはあかん、と説教食らわせるよりない。
アヴァロンへ逃げ出して、女王に会いに行って、実はこうで、と話をしたら、全員で行けばいいじゃないの、何がだめなのかと逆に聞かれる始末。メリケン、恐るべし。
文化の差やねんろうなあ。ローランドも、誰かが一人なら問題になる文化なのかもしれないが、全員でいって楽しく過ごすのに何の問題があるのかと言われた。
ミサの自由は。他にも行きたいとこぐらいあるやろう、他に遊びたいやつもおるんちゃうんか。
そういうたら、ローランドは
You can ask her, plain and simple
(聞けばいいじゃないか、そんなの)
とかいいよる。日本には、ものをはっきり言わん文化と、遠慮と言うものが美学とされとってや…というのが俺の英語力では、説明出来る気がせんとあきらめた。
ミサの家に来いというメッセージが入っとった。残りの4人はダンジョンクロールに行ったらしい。
ミサはシンイチは、難しいことを考えすぎだ、都合と気分が合えば、会うてやることに問題はないと言った。本当に都合が悪ければニコはちゃんとわきまえると。
「わがままだと思ったら、シヴァも、私も止める。そうしたら止まるのよ」とニコには言ってあるらしい。それでほんまに止まるんかい。
それで聞かんかったら、ギルマスがおしりをぶって止める、と言うたそうや。
割と深刻な話をしとったつもりやったんやが、それを聞いた途端に俺はなんか、ローランドやないが笑いの発作に襲われた。本気やと言うとる割にはあんまりそうするつもりはなかったが、ニコは本気と信じとるからな。きっと、「やばっ」という顔になったことやろう。
ニコはどういう反応をしていたか聞いたら、音声チャットからいくと、「うっ」とひるんだ感じがしたそう。まあな。びびりやすい性格やからな。ひっぱたく以前の問題で、ちょっとそこまではいかんでも、正座か、廊下に出してちょっと立たすかでも効くかもわからんな、と俺が言うたら、素直なのよね…としんみりしとった。まあ、だまくらかしやすいわなあ。
Ichi:実際、そうせなあかんぐらいなことなったら、どないしよか
Missa:服の上から、軽くぶつだけでも絶対泣くわよ
Missa:どうしても必要なら、そうするしかないかもしれないわ。
Missa:私だって、妹がいるから。危ないことに手をだして
Missa:ほかに方法がなくて、止まりそうならそうすると思う
何人かはそんなんしたこともあったな。効いたやつもおったし、効かんやつもおった。
何人かは本気でむいてしばいたからな。
あれが恥ずかしいし、痛いしでもう懲りごりと思えるやつは、やらんかったらよかった…と思う能力がある。
悔しいで腹が立って、こっちを隙あらば殴り返すぐらいのことを思うとるやつは、難しいんや。
叱り飛ばしても何が悪いんか全然わからんと本気で言うやつもおったからな。
そういう先天的な器質の問題があるもんが何人かにひとりは混ざっとるやなんて、そのころは知らんかった。
後悔する能力がない、いうんは怖いことや。
賢いやつはそれを周りに見せへんようにしよって、頭を使ってどうにか生きていけよる。やけど頭が悪かったら、なんもかんも駄々洩れや。この社会でみんなと混ざっては生きて行かれへんような間違いを直す能力がない、いうことや。止めても、止めてもな。
もともと学校時代は勉強も出来んと危ないほうへ落ちやすいとこへもってきて、真っ黒の犯罪とまではいかんような、グレーなとこへ手を出しよって、頭と要領のええ、根性悪にうまいこと言いくるめられて、切りやすうて捕まりやすそうなとこへ放りこまれよんや。
結局、手が後ろへ回って、国の世話になったやつもおった。薬がやめられんで、死んだ奴もな。どんだけ止めても止まらん奴は止まらん。見てる方はほんまたまらん。
ニコの、あのだまされやすそうなとこがな、怖いんや。周りのもんを信用して、それでええんや、いうたら「そうなんですか」ぐらいにさらっと信じそうでな。
なんちゃらの詐欺やの、受け子やのに勧誘されたら、ほいほいついていきそうな気がする。
ニコは頭は多分悪ないし、一応は教育されとるからな。間違うたら、ごめんなさい、言うてやり直しや。ということを知っとる。そこはええねや。問題は…多分。まだ学校の基準が強すぎて、外ではなにが間違いなんかが分かっとらんということやな。
なんせ基準は神さんやからなあ。清濁併せのむ、みたいなんはまだ、レベルが高すぎや。この世の中を渡っていくには、あまりにも地に足がついとらん感じがする。
見たこともない問題を見て、解けと言われて、正解がわからん状態や。
自分で答えを出したら、ずれとった…というときに、直してもらえるとこがないんや。
Ichi:なあ、ミサ。俺でええと思うか。
Missa:私とシヴァもいるから
Ichi:頼りにしとるわ
Ichi:合宿にしょうか
Ichi:ギルド合宿
Missa:多分どこかで、ちょっと気が済むと思うのよ
Ichi:そういうことやな。
Ichi:「ここまでや」という線がわかったらおとなしなりよるやろ
Missa:ニコに試されるってこと?
Ichi:割とな。そういう子はおるぞ
Ichi:一線こえたらしばかれるとわかったら止まるやろ
Missa:ニコはそこまではいらない感じがするけど
Ichi:やとええのう
Ichi:なぐさめるんは、ミサの仕事やからな
Ichi:その場では泣きよっても、ちょいちょい試しよるからな
Ichi:あの茶目はなあ…泣きよるんが始末に悪い
Ichi:泣いたら俺が止まると思とるからな
Missa:実際止まるから
Ichi:女はなあ。そのへんがな
Missa:大体シンイチは、何を気にしているのよ
Missa:ニコの家に遊びに行くのがそんなに問題になるの?
Ichi:そらせやろが、一人暮らしの女のとこへ、野郎ばっかりぞろぞろと
Ichi:ミサも入っとるとはいえ、世間体いうもんがあるやろが
Missa:この人口密集地で?シンイチ、自分の隣に住んでいる人知ってる?
Ichi:そら知らんけどや
Ichi:親御さんかて、どない思わはるかや、18やぞ?
Missa:15年、夏休みに一度も学校から出さない親よ?
Missa:あの子はね、今年夏休みを初めて外で過ごすのよ?
Ichi:弁護士さんかていてはるやろうが
Missa:多分、誰も気にしないと思うわ。
Ichi:くそ、そんな話があってええんか、ちきしょう
Missa:シンイチ、言葉が汚い
Ichi:おう、元からや、気にすな
Ichi:*sigh*
Ichi:知っとるか、ミサ。あのマンションの部屋な。
Ichi:ニコが修道院入る時には、寄付しよんやてよ
Ichi:一生面倒見てもらうからいうのんでな、持ってくらしわ
Ichi:つまり…もうな、出てくんな、いうことや
Ichi:ちっさい時に囲い込んで、外で暮らせんようにしよんや
Ichi:ほんで最後は金持たして出てこれんとこへ放りこむんや
Missa:それは、ニコがそういう話を?
Ichi:仕事をな、したいと言いよんや
Ichi:もしうまいこといかんでも修道院が拾うてくれると
Ichi:持参金もって、神さんのとこへ嫁入りやと
Ichi:なんでやねん、ほんま
Ichi:金なんかのうても、稼ぎゃええんや
Ichi:外で生きる力を、知恵を学ぶ機会をうばいよって
Ichi:見てみい、あのクソ騙されやすそうなガキを
Ichi:給料持って帰るのんを忘れるような間抜けや
Ichi:俺は、どっかに向かって、腹が立っとるんや
Ichi:もっと、うまいこと教えてやりたいのに
Ichi:ひっぱたくと脅すんが精いっぱいやなんてな
Missa:私たちしか、いないとしたら
Missa:それでしょうがないんじゃない?
Missa:親になる人だって全員が人格者じゃないし
Missa:予想外に子どもが出来る人もいるでしょう
Ichi:俺は怖いんやな。失敗したらどうしょうと思とんや
Ichi:世の中の、親いうもんはすごいな
Ichi:なんで毎日平気で暮らしとんや
Ichi:ものすごぎょうさん教えなあかんことがあんのに
Ichi:手遅れやったら、と思うんや
Missa:一日ずつしか、来ないからじゃない?
Missa:一気に全部教えるのは無理よ
Missa:少しずつ、学んで大きくなると思うわ
Missa:ちょっと他の子より遅いかもしれないけど
Missa:頭はいいみたいだし追いつくかもしれない
Ichi:それはいつやねん、ミサ。いつ追いつくんや
Missa:それはわからないけど
Ichi:それが怖い、言うとんねん
Missa:王国内では、怖いものなしなのにね
Ichi:プレイヤースキルはなあ。
Missa:つまり、リアルのプレイヤースキルを、つけるってことよ
Missa:newbieの時は、何もわからなくても
Missa:気が付いたら、PK,MPK,BPK,FPKに慣れて、戦うようになるわ
Ichi:PKばっかりやな
Missa:王国の脅威はそこだと思うのよ、人とのぶつかり合い
Missa:助け合って、悪意ある人を避けたり、守りあったり
Missa:常識を覚えて生活を楽しみ
Missa:友達を作って、おしゃべりをして
Missa:RLも同じよ。ただ規模が違うだけ。
Missa:追いつかなかったら、シンイチが引き取ればいいのよ
Ichi:勘弁してくれや、一体どんだけ年がちゃうねん
Missa:12か13?
Ichi:まじめに答えんなや
Ichi:俺はガキに手ぇ出す趣味はない
Missa:知ってるけど。最初に会った時、いくつだったか覚えてる?
Ichi:お前まだ中学生やったやろ、15?
Ichi:最初はてっきり同い年ぐらいやと思たがな。俺は19や
Missa:そのころ、自分のこと子どもだと思ってた?
Ichi:俺はそん時、もう自立してたからな
Ichi:自分で働いて暮らせるようなったら、大人でええやろ
Missa:ログは取っておくわね
Ichi:何の話やねん、ミサ
Missa:新世界の沼地ダンジョンにMPKが出たって
Ichi:あーあこは沸きすぎや。lagって死によったんやろ
Missa:マーカーもってる?
Ichi:あるぞ、中央街の試薬屋のポータル出たとこからゲートやな
Missa:私も出るわ、新世界側でね
うやむやにしたミサ。結局、ニコのうちで合宿はいつのまにか既定路線となり、ニコは喜んだのだった。




