ニコ、初めてのアルバイト(見守り編)
ニコが、今度短期のバイトをするそうや。学校の学生相談窓口で紹介しとるもんやというから、まあ、大丈夫やろう。2日だけで、どんなことをするかというと軽作業で、造花を作るらしい。また珍しいもんを、と思うが、外国からくるようなもんやなく、小ロットで国産で…というようなことなんやろな。
季節によって、こういうもんは繁忙期が偏ったりするから、毎回決まったとこへ短期募集を出しとるようで、学校から徒歩の距離にあるところで仕事をするらしい。
ニコは自分でお金を稼いで、いつか自分の力で暮らしたいと言うとったことがあったから、こういう経験は大切や。
社会人というのは、丁寧な言葉を使うことになっているので、学校で友達と話す時よりちょっと丁寧に、と言っておいた。もともと丁寧すぎるという欠点の方が目立つ日常や、逆にこれがアドバンテージになるときもあってええやろ。
初めてのおつかい…はちょっと違うか。初めてのアルバイトやな。がんばれ、ニコ。
その夜はギルドの全員がなんとなくそわそわして報告を待った。なんせあの世間知らずや、大失敗ということも考えられる。
それがどんな種類の失敗かについてはともかく、ニコの教育歴にはあまりにも、埋まり切らん穴が多い。パっと見ぃはOKでも、そこ、そういうことになるんかい!という話が案外多いのがニコ。
ふたを開けてみれば、楽しかったそうな。
ニコは、学校の、奉仕会という、なんやそらみたいな名前の放課後の活動で、「お姉さまたちと一緒にお花を作り始めた」のが小学校3年生。バザーやか、なんやかに出すんと、どこぞやかに飾るみたいな目的のもんがあったらしく、そのままクラブのフルメンバーになり、「季節ごとに違うお花を作っていた」ので、ニコとしては、「これはいける!」という自信があったんやろう。
結局ニコは、前にそのバイトに行った友達から「一人とても怖い社員のおばさんがいる」という情報を聞いていたのだが、社員さんのあまりの手際の良さについ感心して、そのまま一緒に花を作る作業に従事してしもうてから、誰がその人だったのかわかりませんでしたと言うとった。
「見て覚えるのが当たり前」と言われて、何も教えてくれず、怖いしどうしようもないし、すごく困ったとその友達は言うとったらしいから、ええ年したオバハンが、なにやっとるんやと思とったけど、もしその人がその場におったとしたら、ニコが多分あの丁寧さでけむに巻いたんやろう。
大体ちょっと引くぐらい丁寧なとこへ行って、がみがみ怒鳴り散らすわけにもいかん。何を言われようと丁寧に返しとったら毒気を抜かれる、いうんかな、肩透かしを食うというのか。
これが普通の子やったら初めてのバイトの時は口の利き方やら、態度やら…というようなことも気にせなあかんのかもしれんが、敬語を使うということだけに絞れば新人研修の見本がつとまりそうや、いうぐらいやからな。そのへんはええとしてや。
Ichi:ほんでニコ、それはバイト代はいくらぐらいやねん
Nicole:一時間で900円という話でしたけれど
Ichi:ほな今日で何時間分や、疲れてへんか
Ichi:ちゃんとその額があるか見とけ、念のためな
Nicole:あの、ギルマス
Ichi:なんや、足らんかったとか、多かったとかあったんか
Nicole:今度でいいですか?
俺は思わずため息が出た。つまりもらい忘れて出てきよったな?
Ichi:もらわんと帰ってきたんか
Nicole:はい
ギルドの全員はもう、なんかあまりにもニコらしいので笑うしかなかった。きっと夢中になって、喜んで作りよったんやろう。こういう作業が好きみたいやからな。どんだけ鉱山でインゴット掘っとるかということを思たら、手作業でも似たようなもんや。コツコツ、細かいことが好きなんやな、つまり。ほんでそのまま浮かれて帰ってきたと。
Ichi:明日も行くことになっとるんやから、そん時にまとめてもうてこい。
Ichi:ハンコを持ってこいとか言われてへんか
Nicole:印鑑は買いましたから大丈夫です
Ichi:大体な、1、2日のバイトの時は、給料はその日払いのことが多い。
Ichi:給料がどういう払い方になるかは、バイトの募集の紙に書いてあるんや
Ichi:相談所のバイトやったら、わからんかったら窓口の人に聞け
Ichi:ほんで、給料をもらい忘れて帰ってくるいうんは、
Ichi:間抜けというんや。
Ichi:それも、とびきりの折り紙付きの大間抜けや。
Nicole:はい、ギルマス
Nicole:ごめんなさい
しょげとるようやったから手にした武器でHPを半分削るぐらいで堪忍しといたったが、なんちゅうんかなあ。
これでは自立は遠そうや。




