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大物を釣る

 最近、素晴らしいことがありました。


 私はこの世界に家を持っていませんでした。この世界の家というのは、家の証書というものをお店で買うところまでは誰にでも出来るのですが、それを地面に設置するにあたって、設置できるだけの「あき」がいることになっていました。


 つまり地面に木とか切株がないこととか、邪魔ものがないこと、周りの何マスかにゲーム内の柵とか、道とかの「背景」や「演出用のアイテム」などがないことなどが条件で、アヴァロンのお城なんか、素晴らしく大きいのですが、このサーバーに世界が作られたときにその広さの空き地があったのはそこぐらいで、他のところは切株が、大きめの石が、とかきれいな花をつけた木があったりして、みんながトライしようとしても建たなかったのだそうです。


 プレイヤーが探し回って、いろいろなサイズの家を建てているので、今はもう「空いている地面」なんてどこにもないわけです。そんなわけで、古いプレイヤーは家をたとえばたくさん建てて、要らなくなったり、ゲームをやめていく人から譲られたりして持っているわけですが、私のような「この前始めたばっかり」みたいな人にはもう、全然手に入らないものなのです。


 私はギルマスがギルドハウスとして手に入れた家を使わせてもらっている状態だったのです。

 それが、Deeは、古参プレイヤーで、大きな家のほかに、小さいのもいくつか持っているから、よかったらあげようか、と、そう提案してくれたのです。


 ただでなんかもらえないし、なんといってもこの世界の家というのは「リアルマネー」で取引する人があるぐらいのものでした。大きいのなんか、アメリカで何百ドル出して買うひとがあったときいたことがあるぐらいです。一番小さいのだって20ドルはするという話でした。


 Dee:There is one condition, Nicole. If you ever transfer this house to somebody else, you do it for free, that is the price you pay, little one


 つまり、いつかいらなくなった時、私もただで譲って、売らないこと。この家の代金として、この約束しかいらないと、Deeは言いました。

 この家は使っていないのだから、Nicoleが有効に使えばいいんだといって、私は家を譲ってもらってしまったのです!


 ギルドのメンバーには、「ただで家をもらうのをはじめて見た」とか言われ、みんな一軒目の家をどんなに苦労して手に入れたか、というのです。幸運でした、いいお友達なのです。


 小さな木の家は、森の街から走れるぐらいの距離にあり、機織り機に小さい炉床、鉄床につむぎ車と、上がっていた生産スキルを使って家具を作って小さなクラフト小屋を作りました。

 そこにはポーションを作ったり、スクロールを書いたり、弓矢を作ったりするキャラを常駐させておいて、森で木を伐り、生産スキル全カンストを目指しました。


 戦士一人、残り3人はクラフトキャラでスロットが1つ開いています。ここでnewbieを毎週1人作って、newbieアイテムを取っては、削除(すると、一週間は新しいキャラが作れません)。


 ロックと協力して、newbieのナイフとかハサミ、ダガーや包帯などを取っては補充しておきました。newbieナイフはなくならないのは最高なのですが、普通の武器と一緒で使うと傷んで壊れる判定があるのです。修理も出来ますが、ずっとは使えないので、一週間に1つずつ取っておくのでした。キャラスロットに空きがないメンバーにも、配れるぐらいにはあったので好評です。


 キャラ作成で選んだ町の宿屋の前に、Rockに待っていてもらって、はいこれ、と服まで脱ぎ捨てて渡すのです。newbieの服は職業によって、スカートが長かったり、短かったり、帽子があったりなかったり、袖がなかったり半袖だったり、エプロンがあったりするバリエーションがあったので、面白がって色々集めました。


 私が一応念のために交換でもらった死に装束の白いローブを着て、宿屋にひっこみ、次はロックがログオフして、私の普段のキャラがログオン、ロックのnewbieを待ち構えてアイテムを受け取ります。


 ギルドの箱に並べておくと、みんなが「この箱のアイテムは全部newbieアイテム」とわかって持っていくので、とても重宝でした。


 特に包帯を切るハサミと、布巻きです。裁縫士を選ぶと、一本だけ、巻いた布が入ってきますが、普通の布と違って、newbie特性を持っています。つまり死んでもなくならないのです。


 ただ、「切った瞬間」「他の布巻きとまとめた瞬間」にその特性がなくなるので、たった1度しか使えません。ですが、死んで生き返った時、持ち物が全ロストの瞬間にも、布が1巻きと、ハサミが残っていたらその場でヒールが出来ることになります。


 ヒール持ちにはかなり有利になるので、このnewbie布巻きはとても便利でした。

 あとは、職業にヒーラーを選ぶと、包帯が3枚手に入ります。これもnewbie特性があるのですが、他の包帯と一緒にまとめた瞬間、newbie特性が消えてしまいます。


 ですから、この包帯を受け取る時はカバンに絶対包帯を入れないようにして受け取り、別ポーチに入れてからカバンにいれておくと、死んだときにこれは残るという仕様になっていたので、しょっちゅう取ります。


 うっかり重ねてしまうと、がーん!ってなるのです。


 ダガーとか、あとは木の盾ですね。ロックと、なにがいい、これがいいと議論して、そんなことに時間を使っているプレイヤーはあまりいないと思います。私がやたらとよくPKされるからでしょうね、newbieアイテムが必須なのは。


 そんなある日、アヴァロンから連絡が入りました。BBと同盟を結びたいと言っている人がいる、紹介してほしいという話なのだが、いいですか、と女王様からギルマスに連絡していらしたそうです。


 それが、ToK、Tamers of the Kingdomというギルドだそうで、私は全然知らなかったのですが、ギルマスによると、このギルドは、いくつかあるこのゲームのサーバーの「どれにも」あるギルドで、サーバーをまたいで交流がある超巨大ギルド。RLでも集まったり、そのいくつかのサーバーのギルドの支部をまとめている人などがいて、この世界でも珍しい大きさだということでした。


 テイマーというのは、小鳥とか、ウサギ、鹿などの小さいものから、ドラゴンまで、慣らして使役して使う職業で、テイムに失敗すると死ぬので上げるのが大変だったり、すごく大きいドラゴンを連れて歩いていたるするので画面の描画が遅れて、周りの人の通信速度が落ちるとまで言われ、街中でドラゴンを四匹もつれていると、邪魔…と思われる反面、とんでもない難しいモンスターを、ドラゴンの力任せに狩れるので、大変強い職業として知られているのだそうで、スキル上げがこんなに大変でないのなら、もっと人気が出ただろう職業だそうです。


 といっても、そんなギルドに

「誰か、心当たりないんか」

 ――と聞かれたところで、私に覚えがあるはずもなく。


 古参プレイヤーのセブンにも、ギルマス、シヴァ、ミサ姉にも覚えはなく、最近割とナイスプレイヤーとして顔が売れているロックにも覚えがなく…。最近こないゴンザにも、ギルマスがメールで問い合わせても覚えはなかったそうです。


 それは実はBBのメンバーの知り合いではないのでは…という話になったのですが、まあ、アヴァロンからの紹介ではなんとも断りようがないというわけで、全員がそろっている時にギルドハウスにお招きしましょうということで話がまとまりました。


 念のため、女王様とローランドも同席です。

 このギルドのメンバーに、大変ナイスなプレイヤーがいたので、もしよければ同盟を、とおっしゃるのです。誰の知り合いでしょう、やっぱりギルマス?…とみんなが思った時です。


 Ral:heyla, gal :D

 (やあ、かわいこちゃん)


 Ral:Nicole, do you remember the player who gave you a pink plate mail?

(ニコル、ピンクのプレートメールをくれた人のこと、覚えてる?)

 Nicole:? Dee? is that you?

(Deeなの?)

 Ral:yep, and you gave me pink ingots later

(そうさ、そして君は後でインゴットを渡しにきたんだ)

 Ral:I noticed you because of that, you didn't take anything for free

(だから、気になった。何もタダではもっていかないプレイヤーだった)

 Ral:Nice, respectful player, who never takes advantages from anyone

(誰のことも利用しない、親切でちゃんとしたプレイヤー)

 Lady Titania:yes, that is her

(いかにも、彼女らしいわ)

 Ral:I usually do not seek for allies

(大体同盟するギルドなんて探さないんだ、うちは)

 Ral:a lot of guilds asks for alliance tho

(いろいろなところから同盟を申し込まれるけど)

 Ral:everyone asks advantages from us

(みんな、俺達を利用したがる)

 Ral:but this time, I want to ask you to ally with us

(でも、今回は同盟を申し込みたいと思った)

 Ral:I am sure your guild is one of the nicest, Nicole

(君のギルドは数ある中でもとりわけ素晴らしいに違いないと思ってね)

 Ral:I can tell that by watching you around

(君を見ていれば、それがわかる)

 ――というような会話が交わされるのを、私はびっくりして見ていました。

 ギルドのタグをつけているからには、言動には注意しろ、そういわれています。

 セブンもロックも、あんまり言葉遣いが悪ければ雷をバリバリ落とされています。

 なるほど…ギルマスが厳しくなるわけです。


 私一人の態度が、ギルドそのものに見える、そういうことなのでしょう。

 いい子にしておいてよかったのです。神に感謝。


 Ichi:excuse us, Ral, Roland, and Titania,

(ローランド、ティタニア、ラール、ちょっと失礼)


 Ichi:ほんで、ニコ、この人はつまり、お前の知り合いか?


 Nicole:そうです、ギルマス、新世界鉱山でしょっちゅう会う生産キャラのお友達です


 Nicole:私に家をくれた人です


 Ichi:なるほど。わかった。


 ギルマスは、同盟を結んで、挨拶をして、そのあとちょっと話をして。

 こういう大きいギルドと同盟があるというのは、ギルドチャーター的にいいことなのだそうです。

 人数が少なくても、いいギルドとしての評判が上がるのだとか。

 女王様からも、ローランドからも、こんな巨大ギルドに向こうから申し込ませるなんて、と驚かれました。


 ギルマスにも、シヴァにも「こんな大物を釣ってくるとは思わなかった」と、魚釣りの評価みたいなコメントをされました。

 ミサ姉には、こんな外国人ギルドと仲良くなるとは思わなかったと言われました。どちらかと言えばBBは日本人ギルドなので、日本の人たちとの交流の方が多かったらしいのです。


 Dee:heyla,gal :D

(やあ、かわいこちゃん)

 鉱山でもう一回次に会った時、なるほど、挨拶が同じです!もっと早くわかってもおかしくなかったのに。


 一緒に狩りにも出かけます。竜がばたばたしていると、かなり強いモンスターとも戦えるので、いつもはお留守番になるような深層まで私も見学に連れて行ってもらえました。


「切りかかると、瞬殺やから、寄ったあかんぞ?後ろから見学とヒールぐらいにしとけ」と注意されましたが見ているだけでも十分面白いのでとても楽しかったです。鉱山に行った時にお礼を言ったら、


 Dee:Np:D

(いいってことさ)

 ですって。


 この人とは、かなり仲良くなって、多分アヴァロンとBBじゃない人では一番仲良くなったと思います。鉱山で本当にしょっちゅう顔を見ましたから。


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