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ああ、ハラハラした。

 シンイチに言わせると、ニコは教育の結果、おとなし気に見えているけれど、実は結構、おてんばなところがあるらしい。


 実はシンイチは、もっと早めに泣いてギブアップかと思っていたのだとか。

 でも、「全キャラクターに連絡禁止」が、ギルマスも含むのだともっともな解釈をしたニコが、そういう選択肢を全く考えずになんとかしたので、想定していたよりもずっときつくなってしまったと言っていた。


 手厳しいなと思っていたが、あきらめる前提で行ってこいとは言えなかっただろうから、ちょっとかわいそうだったがこれでしょうがないか。

 相当懲りただろうし。ついでに言うと、ロックも「お前もさぼったらやらせる」と脅されて、かなり焦ったようなので、この分で行くとロックの成績も上がるかもしれない。


 銀行前でガードに特攻して、ローブを集めて包帯にしたと聞いて、ちょっとびっくりしたけれど、確かにシンイチが「割とおてんば」というだけのことはある。


 ローブにハサミをいれたら、包帯になるなんて知らなかった。あれは生き返ったら投げ捨てるもの。ずっと遊んでいる俺でも、全然気が付いていないことというのはあるんだな。ニコみたいなnewbieに、そんなことを教えてもらうことになるなんて。

 そろそろニコもnewbieとはいえないかもしれない。


 集めた包帯を持ち、ニコは走った。街道沿いには、それほどモンスターはいない。時々出ることもあるが、AIのモンスターは足が遅いので、全力で走り抜ければ、ターゲットが外れることが多く、トレインにはなりにくい。MPKの一種であるトレインは、もっと遅い速度でターゲットを外さず、走り続けてモンスターを増やし、周りの人を巻き込む迷惑行為だが、今回はそういう迷惑行為になるほどはモンスターが出ないはずだ。


 問題はPK。ローブか、newbie服で走るニコは、典型的なnewbieに見えるはずで、面白半分に殺される危険が高い。アーマーを着こんで、HQ武器を持ち、馬に乗ったプレイヤーを襲うのには躊躇するPKも、丸腰で、いかにも「作りたてのキャラにシステムがよこすお仕着せ」ぐらいの服を着ていると飛び掛かってくる。


 昔メイジファイトの腕を上げたかったときに、そういう恰好をして歩き回り、PK相手に練習したからわかる。

 一般人のふりをしたPKや、わざわざ自分のHPを削って、こちらがヒールをかけて油断したのをいいことに襲ってくる凝ったPKもいたし、グループで飛び掛かってくるのもいたし、山賊団のようなロールプレイヤーもいた。いるときはいるし、いないときはいないのがPKで、ニコが走らされたのは週末じゃなく、火曜だっただけまだましだったともいえる。


 何度かPKに遭遇し、うろうろと村と鉱山町ぐらいまでを何往復もした時は、これは間違いなく、罰なのだと実感して泣いたそうだが、帰らないと許してもらえないのだから、とがんばったのだと言っていた。

 シンイチが、時間を決めていたのは知らなかったのだろう。これも一応内緒にしておこうか。


 最初に用意した包帯はなくなってしまい、もう一度ガードに特攻するのが嫌だったニコは、包帯を複数用意するのをあきらめ、生き返ったときの一本だけで進むことにして、なんとか鉱山町をクリア。


 中央タウンのそばでもう一回PKに遭った時は困ったが、もう一度戻って、そのあと、NPCの赤ネームキャンプを発見。これは人の形をしているが、モンスター扱いで、倒しても問題ない。ランダムで街道沿いに沸くモンスター。


 ひとりを誘い出して、必死でnewbieナイフで削って倒し、lootから包帯と武器を発見して、服を切り刻んで包帯を増やし、残りの赤ネームキャンパーを一人ずつなんとか倒して、鎧や、盾、剣をゲット。


 森の町近辺で、またPKに遭遇、駆け戻ってきたら、死体が何とか残っていて、包帯ぐらいしか残っていなかったがとりあえず自分の死体をlootして歩いていたら、ニコと顔見知りのAvalonガードに遭遇。


 エスコートを、と言われたのを、罰でゴーストマラソン中で、そういうことをするとギルマスに多分やり直しをさせられるから、と、包み隠さず打ち明けて、エスコートを断ったらしい。


 物をもらうのもだめだと思う、と固辞して、歩いて帰ってきた。

 そこからはPKには遭わなかったと言っていたが、俺は多分、Rolandがこっそり手を回したのではないかと思う。つまりニコが会ったアヴァロンガードは位置確認。


 名前がフロートインしないぐらいの遠さで、前後を歩き、PK討伐をしたとみた。BPK…とまではいかなくても、声をかけてデュエルに誘うぐらいしたかもしれない。そういう声をかけられると、大抵の弱い者いじめのPKは立ち去ることが多いから、こっそり露払いをしてあったというわけだ。

 Rolandだけでなく、アントンや、他のメンバーも何人か協力してくれたかもしれない。

 正直あの条件は厳しすぎる。ここにきてもうずいぶん長い俺でも、「やれば出来るけど」ぐらい。ニコはスキル値は全部9割越えとはいえ、プレイヤースキルとしてはnewbieの範疇。

 ロールプレイヤーには"you are still wet behind the ears, li'l one" (まだまだ、青いな、チビさん)だの"you are still a chick with a shell, baby"(まだ殻のついたひよこってとこだな、ベイビー)と言われている。


 まあ、スキル以前の問題で、ニコは襲われるたびに戦うよりはコールアウトを選ぶし、「戦うのが怖いのです」となっているのを何度も見ている。

 切羽詰まらないと抵抗しない感じだ。それも、もう死ぬのが前提。スキルを稼ぐのに何撃か自動反撃してその場で動きもせず殺されているらしく、とてもじゃないけれど「立ち回る」とか、「ヒット&アウェイ」なんて無理な感じ。


 PKに襲われるたびに武器なし、防具なし、アイテムなしでは怖い思いをしたはずだ。逃げることすら出来ずに、泣いただろうな。


 帰ってきたのは8時すぎで、ギルドハウスの前に気後れして立ちつくした白ローブのニコを、ミサが抱きしめ、ニコはしばらく、かなり泣いてしまってキーボードが打てなかった。

 音声チャットを何とかオンにして、ミサと俺が一生懸命なぐさめて、やっと泣き止ませて。

 ごめんなさい、とすっかり落ちているニコに、怖い声で「もう、懲りたか?」とか確認するもんだから、悲鳴を飲み込んで涙ぐんで、声が震えてかわいそうだった。

 そこまで怖がらせなくても、とここまで出かかった。


 そのあとシンイチに、「これ書いたら今日は落ちろ」と10冊の本にいっぱいいっぱいに"I won't play hooky again. I am sorry, Nicole"と繰り返し書かされたニコは、だいぶ落ち着いて見えたけれど、その本がニコが落ちた後、ギルドハウスの部屋のテーブルに開いたまま固定されたのを見たら、どんな反応をするだろう。

 シンイチによると二週間は展示するそうだ。半べそのニコが見えるようだ。GHに誰が来てもよくわかる位置だからなあ。恥ずかしいだろう。シンイチは時々本当に容赦がない。


 ちなみに残りの9冊は、シンイチ、俺、ミサ、セブン、ゴンザ、ロックが保管、Roland, Antonio、それから女王様のところに一冊ずつ届けた。


 届けに行ったシンイチによると、RolandとAntonはやれやれと苦笑しつつ呆れ、女王も笑いながら、ニコにやさしく言い聞かせておく、と約束してくれたそう。RolandとAntonioに、本がプレゼントされたわけは、ローブのままでテーブルの前で書き取りをさせられていた間に心配して見に来てくれて、声をかけて行ってくれたから。

 

 アントンも、ローランドもアメリカ在住で、日本時間であんまり遅い時間にニコが出歩いているのを見たら落ちるように注意すると言っていた。多分女王もそうしてくれるだろう。


 今度ニコが学校をすっ飛ばしたら、シンイチがおしりをぶつとローランドに言った時は、そりゃそうなるだろう、みたいな答えだったけれど、ローランドは多分、ロールプレイヤーとしての話題にしているだけと思っているはずだ。まさかリアルでもそうすると脅しているとは知らないだろうな。


*fidgets*

――とニコが入力していたが、これは、居心地が悪くなってもぞもぞするときの様子らしい。

 大分いろいろな感情表現を見たな。


 今度からは俺も時間が遅くならないうちに声をかけてやったほうがいいな。

 しばらくいい子でいろよ、ニコ。

 みんなが心配するから。

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