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ゴンザをのぞく全員集合オフ(後編)

 ニコは、正座が、柔道、剣道、華道、茶道、弓道、書道などの「道」がつくものに共通する、日本文化独自の座り方であるという説明をしてもらっていた。


 ニコの教育は、俺たちが経験した学校教育とはかなり違う偏りがあるようで、剣道と柔道がスポーツの一種であることはわかっているようだったが、茶道はと弓道は歴史的概念として社会でならうような、千利休とか、流鏑馬とか…というような知識はともかく、現在も続いているものとは認識されておらず、華道は「フラワーアレンジメントの分野違い」ぐらいの知識で、茶道は「日本の古典ティーセレモニー」みたいなあいまいな概念でしかないようだった。



 ニコ意外の残りのBBメンバー全員がうなるしかなかったのが、「書道」。「字を、芸術的に書く」という説明で、ニコが「ああ、あれ」となったのは、筆を使ったものではなく、インクとペンを使ったもので、「書写」という名前になっていて、「インディアンインク」を使えるようになる高学年が待ち遠しかったとか、美術の時間には絵も写したとか…という話で、ミサによると「写本」という言葉から俺たちが想像するような感じのものではないかということだった。



 ニコは筆を使った文字をかくアートがあることは知識として知っていたが、系列の修道院の人の中に、筆でカリグラフィを書く人がいて、その作品をみたことがある…ぐらいの、なんとなく墨をすって、書初めを…というような中国伝来の書道とはかなり遠そうな話のようだった。


 

 焼きそばの割りばしの端のエッジと、ソースの残りを使ってニコがお菓子の箱の厚紙に書いてくれた文字は、確かに手の運びが独特で平たいもので書いた特徴のある形をしていた。



 テレビでオリンピックとかを見たことがないか、という話になったが、いつでも見られるような「テレビ」はなかったらしい。毎週決まった時間に、映像作品は見ていたようで、映画とか、アニメなどを見たそうだ。


 

 長期休暇で学校に人が減る時は毎日見ることが出来たらしく楽しみだったと言っていた。どんなのを見たか聞いてみたら、題名は覚えていないものでも中身はかなり記憶があったので、ああだ、こうだと話を総合すると、世界名作アニメとか、長編アニメ作品、ドキュメンタリー映画、名作が原作の映画などが多かったようだ。魔法少女もの、ロボットアニメなどの変身系は全滅で、要は教育によさそうなものしか見ていない感じ。



 オリンピックの記録映像のドキュメンタリーは見ていても、どうも生放送の、中継の、というのはみていないようだ。なるほど…。



 今、必死でネット動画だの、読んだことのない本だのを詰め込んでいるらしいが、15年の空白は長い。お勧めアニメは、というので俺の一推しの題名を出したら、ギルマスから拳骨が降ってきた。



 ニコは、アニメには子ども向けと男性向けと女性向けがあることを説明され、ちょっと見て、だめだと思ったらミサと話し合うようにと言われていた。過保護だよなあ。



 そういや、ミサとは初対面だったはずなのに、そんなこと全然気にならない。そりゃそうだよな、毎日会ってるんだもの。この世界にいると、どこかでオンラインとリアルの境目がぼやけてくる。オンラインの世界にいたことがない人間には、絶対わからないことだ。


 

 平日で、3時間、4時間、夜更かし出来るなら6時間とかそこで過ごして、週末は15時間、18時間、オールで24時間か、朝になってもまだ一緒にいて、時間を共有するのだ。仲良くならないわけがない。音声チャットにするか、タイプインにするか、または自分のグラフィックがリアルか、そうでないか、そういうことはあまり気にしなくてもいい。結局お前は誰だ…ということがキャラからにじみ出る。



 見せられるのは全部ではなくて、一部かもしれない。でもいい奴はやっぱりいい奴だし、殺人はリアルには出来ないものだが、嫌がらせの一種だと思えば、性格が悪いところが見える行動だ。


 人を殺して歩き、討伐隊から逃げず、正々堂々と受けて、がっつり負けるロールプレイもする、そういうキャラも知っている。PKKをねじ伏せ、勝ち誇り、憎々しい笑い声をあげる演技をしつつ去ることもあれば、実力で負けて膝をつき、命乞いをし、幽霊として去る時もある。これはみんなが楽しめるし、PKKしようと思って返り討ちに遭ったら、もっと実力を磨くまで。でも、そのロールプレイPKは、生産キャラなんか絶対狙わない。

 それどころか山を掘っていてモンスターに襲われた生産キャラを助けた話も聞いたことがあるぐらいだ。

 こういうのが名物プレイヤーというんだよな。


 そういう意味では、キャラの強さとは別に、やはりプレイヤーの人間性が出る世界だと思う。

 ニコは見ていると時々イラつくところがある。甘やかされ、よく泣き、正論を出す。

 だから俺はつい、ニコがわからないような猥雑なネタを振って、世間知らずをからかったり、ちょっとニコがひるむようなことを言って、ニコがぐっと詰まるのを見て留飲を下げたりするのだ。

 他のプレイヤーたちのように、やさしくしてやるのが性に合わないというか、そういうキャラじゃないだろう、俺、と思うから。


 でも…ニコはがんばっている。ニコのお父さんもお母さんも多分知らないようなことなのだろうけれど、けれど、ニコは今、自立しようとひとりでがんばっている。それは認める。だからみんな、何くれと助けたくなってしまう。シヴァも、ミサも下に弟妹がいるからだろう、ニコの面倒を見るのがうまい。


 なんでニコだけこんなに甘やかされるんだろうと思う時もある。でも…ニコには親はいないも同然、兄妹もない。今俺たちがいなくなったら、ニコはどこで泣くのだろう。うれしいことがあった時、どこで「よかったね、ニコ」と言ってもらえるんだろう。


 それを思うと、この場所があってよかったと思う。


 はあ…マーカーがこの世界にあればなあ。会社の裏側あたりにマークしてさ、移動スペルをちょっとかければ、もう建物の横、とかいいよな。

 考えるのはよそう。まだ土曜日だ。明日も休みなんだから。


「定例会議をここでやってしまおか。ほな、連絡から」


 おっと、ゴンザは欠席になるけど、いいのか?後で連絡しとくか。


 アヴァロンガードに入った日本人プレイヤーがうちに遊びに来るそうだ。感情表現や、ロールプレイの練習をするらしい。なるほど…。ニコが使う種類が増えているのには気づいている。意味が分かんないのも多いけどな。そういうのを解説付きでやろうというのだろう。

全員のタイプインチャットがきれいにみえるように、散開して話すので、メイン部屋を開けるらしいから、普通のおしゃべりは2階で、ということらしい。


 ニコも立ち直って元気が出たようだ。よかった。

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