ゴンザをのぞく全員集合オフ(前編)
ミサを入れてのオフが何とか開催できた。カラオケボックスの広めの部屋だ。
毎日、中では会っているので、目を閉じて音声だけ聞けば、全く違和感がない。
ニコはミサの口調がだいぶ感染してギルマスの目論見通り、かなり普通の女の子っぽくなった。
「セブンて、意外と普通」
何それ、ミサ。「意外」部分は要らんでしょう。
ミサは、ニコに意地悪をいうことがある俺をもっと陰険だと思っていたらしい。ニコは、これでも前よりずっとやさしくなったのよと俺のために墓穴を掘っていた。
セミロングのミサは、かわいいというよりはきれい系、ミサ姉となつくニコをずいぶんかわいがっているようだ。あんまりいじめるとぶち殺すわよ、とは威勢のいいことだ。
ロックはミサをニコと同じようにミサ姉と呼んでいるが、俺は年上だとわかっていてもミサ姉なんて呼んでやらない。勤め先にこんな感じの上司はいるが、女のくせに…と今の時代はセクハラに引っ掛かるからダメと言われるけど、別に何が出来るかなんていうこと、こっちはちっとも興味がないのに、見せびらかすみたいにするところが腹が立つ。
有能なんだろうとは思う。俺とちょっとしか年が違わないのに、もう部下がいるわけだし。でも俺が何をしたでもないのに、当たりがきついんだよな。その上司と同じ感じがミサからする。ミサも優秀なんだろう。
ニコにここで初めて正座を経験させることになった。生まれて初めての正座というぐらいのもので、ミサとシヴァが座って見せる。形が観察できたところで、レッツトライ。
「まずひざまずいてな」
ニコがすっと腰を落とした。きれいな動作で慣れた感じがする。左手を胸にあて、なぜか右手が上に、あ、そうか、ニコは創神教だからだろう、片膝付きか、両膝つきで祈る姿勢もあるのだろうな。片膝が床すれすれまで来た時に、はっとしたように右手をおろした。
「両膝を下につけてな」
「足の裏が天井の方を向くようにしてみろ、足の甲が床につくんや」
「尻を上からのせてな」
途中まではよかったのに、このぎこちなさ。座ったニコの前に、ギルマスが座る。
「よし、ちょうどええわ、今日の説教第一弾はニコ」
目を見張るニコ。困った顔でミサとシヴァの方を振り向いた。
並んだふたりがやさしく見守っている感じだ。シヴァが「そっちを向いておけ」と合図をしている。中と同じだよな、これ。
ニコがギルマスに「コラ、ニコ!」と言われているのを、後ろからシヴァとミサが眺めていて、ニコがちらちらとふたりの方をうかがいながら、「行きなさい、ニコ」と声をかけるのはいつもミサかシヴァ。
ギルマスの前に出て、説教をされながらナイフだの剣だの、魔法だのでHPを減らされているのを、時々シヴァやミサが後ろからヒールしたり、ロックが横について包帯を巻いていたり。
説教が終わりそうになったら、シヴァとミサが近づいてきていて、ニコを慰める。
*pat her back*
(背中をぽんぽん)
*hugs*
(抱きしめる)
*wipe her tears*
(涙を拭く)
こういう感じだ。
「女は膝を合わせろ」
ニコがぎゅっと目を閉じて、慌てて膝を合わせた。
「こっちをちゃんと見る」
ギルマス、これはちょっと無理ゲー…。ニコはすでにもう、かなりいっぱいいっぱいという顔だ。
猛禽類ににらまれた小動物とでも言いたいような状態で、ギルマスの説教は、集団狩りの話だった。なるべく、全員が死なずに狩りをするほうが全員の安全のためにいいこと。昨日のように、初めてのダンジョンに浮かれて突っ込んで即死というような阿呆な真似は本当は許されないことを言い聞かされている。
昨日は、ニコが羽のついた大型のモンスターに突っ込んだ。そのモンスターは体の大きさ判定では、広がっている羽は含まれないが、閉じたときの羽は含む…というようなことになっているため、開いたときに届くところと、閉じたときに届くところの「隣接判定」が分かりにくい。
慣れれば、画面上のどこに陣取るべきか…というようなことがもちろんわかるし、モンスターの胴体とか、足の位置からそれがわかるようになったら、別に意識しなくても近づいたり離れたり出来るようになってしまうのだが、初見では無理だ。
Ichi:nico, walk out and get rez
(ニコ、外へ出て蘇生)
Ichi:missa out n rez
(ミサ、外でrez)
Ichi:rock, pick her stuff n out
(ロック、死体からアイテム拾って外へ)
英語で指示を出すのは打鍵数が少ないためらしいが、このまま全員で走り出ると、モンスターがルート上のプレイヤーを殺してしまう危険があるため(MPK)残りの俺、シヴァ、ギルマスでモンスターを始末しないといけない。
不運なことに、普通は一匹ずつポップするはずのモンスターが、蓄積して4匹いたのがニコの即死の原因でもあった。シヴァとギルマスとミサ、という組み合わせの三人ならともかく、この場合俺がぎりぎりになりやすい。
何とか死なずに全部倒して、ダンジョンから出て合流。もう一度入りなおして、しょんぼりしたニコはさすがに今度はちゃんと歩いてスポット前まで行き、湧き待ちをしてなんとかロックとニコに経験を積ませて帰ってきたのだった。
ニコは帰ってからギルドハウスで「明日は説教な」と叱られ、オフに行きたくないとミサに駄々をこねたと聞いた。今日は着いたらうれしくなってその話を忘れていたのだろう。
ニコもちょっと懲りたほうがいい。ついnewbieのニコにはみんな甘くなって、ヒールだの、包帯だの大盤振る舞いにするものだから、正面切って突っ込むくせがある。後ろからロックが包帯を持ってついて回り、シヴァがヒールを自分にじゃなくて後ろのニコにかけながらモンスターを倒して、うっかりシヴァのHPが半分ぐらいに減っていることもあるぐらいだ。
下がれ、と言われたら下がる。止まれと言われたらぴたっと止まる、距離の取り方は今度練習する、後ろに下がりながら戦う方法や、一撃入れて下がる、また一撃入れて下がるというヒット&アウェイも練習する。そういうことを約束させているギルマスは、わざとだろう、ちょっと声を怖くしている。
すっかり雰囲気に呑まれたニコは、半泣きで座っていて、お説教としては「効果はばつぐんだ!」といったところ。
「今日はこんくらいで堪忍しといたる。このまま、せやな、5分正座、シヴァ、ミサ」
シヴァとミサに慰められて、べそをかいたニコはあと5分ぐらいは泣かされるのだろう。
「次はお前やな、ロック」
ロックはすっかりあきらめていた、という顔で反対側へ向き直ったギルマスの前へ正座した。日本人らしい、慣れた座り方だ。これはちょっと前のギルド会議のテストスコア問題で、ロックは1科目落として残りが「通るだけは通った」ぐらいの成績だったということに由来して、前から予告されていたものだった。
入試を突破してから、気の緩むやつは多いが、一年生でこの成績はけしからん、というタイプの正論な説教で、まず点数の底上げをしないといけないから、授業概要に載っているはずの成績の計算の仕方をまずちゃんと読んで、どうやったら点数が取れるのか確認しておくこと、授業の出席点が多いものは取りこぼさないこと、特に一限のものをさぼらないこと、宿題課題のチェック、エクストラでくれる点数のつく課題を面倒でも取ること…。
どっちかといえば説教というよりノウハウだったが、この状態では正面から受け止めるほかないから、聞き流すよりいいだろう。ロックは拳骨をひとつ食らい、今度の成績が悪かったらしばくぞコラ!と迫力をかけて怒られていた。
ちなみに、ロックは、ぐっとなっていたものの当然泣いたりしなかったが、その勢いにひくりとおびえたニコが本気でえぐえぐと泣いていて、ギルマスは、
「もうそろそろ限界やな、シヴァ、ミサ、立たせてええぞ。そっちでかばっといたれ」
という指示を出した。ミサはニコを抱き寄せて避難。ニコの視線が通りづらいようにシヴァが前に立っている。
ロックの説教が終わり、そのまま30分正座になっていた。厳しい。
ニコの6倍あると思ったらひどく厳しい感じはするが、今はソファの上ですっかりしょげてミサとシヴァの間に挟まれているニコと、目が合うとにやりと眉毛の上がるロックとの差は歴然で、これは多分、慣れも含めてのギルマスの計算ということなのだと思う。




