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ニコ、はじめてのBPK(前編)

 ダンジョンは、うんと浅いところに歩いて行って、群れで出るリザードマンと戦って囲まれて死んだり、初心者を面白半分に殺すPKにやられたりで、ダンジョンはダメだ…と思っていたある日のことです。


 このあたりにはサイクロプスとか、頭が二つの巨人とかが出ることがあって、歩いているのは木材を取りたい木こりキャラぐらい。


 街道沿いではあるので、山賊のようなPKが出ることもありますが、あくまでチャンスがあるぐらい。

 PKスポットと言われるあたりからは遠いので、運が良ければ何度か戦ってスキル上げが出来ればいい、という計画で歩いていたのが、森の町からほど近い街道です。


 スパーリングのほうがずっと安全なのにこういうことをしているのは、つまり相手に時間を使わせるのが悪いなと思うからです。ただ殴られ続けてくれるスパーリングパートナーに1時間も2時間も時間を使ってもらうのは気の毒ですから。


 もうPKにもだいぶ慣れて、regをPKに取られないようにというので各5個ぐらいから10個しか持たず、非常時の移動魔法のスクロールを1本、あとは包帯と、タウンマーカーひとつ、Newbieアイテムのはさみと解体用ナイフ、自作の刀一本と自作の皮鎧。


 殺されても、同じものを揃えるのに大体15分もかからないので気楽な装備でフラフラと歩いて、モンスターが出たら倒して、出なかったら歩いて…。


***

 池の周りに、リザードマンがポップ。このモンスターは群れで出るのが特徴で、うっかり囲まれるとgang-bash、つまりタコ殴り(どうしてタコなのかは不明ですが、言い方は覚えました)にされてしまい、モンスターと重なってしまうとSTAバーが減り、相手を乗り越えられなくなるので囲まれて、ヒールが出来なくなり死ぬ…というのは何度か経験済みです。


 1体ずつだと全く問題がないのですが、8匹単位で出るので、うっかり8体相手にするとこういう装備ではちょっと無理があります。


 ちなみにシヴァのタンク(防御高ダメージ系戦士)に戦い方を見せてもらった時は、防御力の高さを利用してタイミングを見計らってハルバードで一撃で1匹、振りの遅い武器だからなのか、踏み込みとバックステップをタイミングよく使って一度も空振りさせずに8匹を8回で倒していました。


 スタミナが全部残り、なおかつHPのダメージも5パーセント減っているかどうかぐらい。


 ロックとふたりで「無理!」と叫びました。2人でトライしましたが踏み込みとバックステップと武器の速さがマッチしなくて空振りし放題。


 うっかり踏み込みすぎてモンスターに乗り上げ、STAが減って2人とも動けなくなって、うわぁん!となって、タコ殴りになり、お互いにかけあっていた包帯ヒールが敵の攻撃が入りすぎでほとんど効かなくなり、死にそうに。シヴァが残りを倒してくれました。


 「二人とも、カバンにオレンジポーションいれとけ」…と叱られました。

 ポーションって高くて…。おまけに作るとregがいっぱい必要だし、安いのは回復量が少ないしで、私は今ポーションを作るスキルを持っているキャラを育てている途中ですが、なかなか上達しません。


 もちろんシヴァも、ミサ姉もそういうキャラがいるそうなのでregを渡して作ってもらえばいいんですが、あんまり甘えるのもよくないと思うので。


 そんなわけで、一応の対応策として教えてもらったのは、一匹だけ引き付けて、走ってモンスターを引き離して倒して…というのを繰り返す方法。AIに操られているモンスターは足が遅いので、早さ重視の直接攻撃系のキャラならこれが正攻法らしいです。


 大体この刀なら、4撃か5撃…だったと思います(これはしっかり覚えておかないと実は怒られます)6回はいらなかったはずです。


 実はこのモンスターと戦うと、盾のスキルならまだ上がります。攻撃が早くて軽いタイプで、ダガーを握っているモンスターなので、スキルの上がる判定が多いのも特徴です。

 一番手前の一匹をターゲットして、こっちに向かわせて、走って、一匹倒して、二匹、三匹で追いつかれてしまいます。


 池をぐるっと回って…と思ったら、ええ???リザードマンて池の上歩くんですか?人間は歩けないのに!


 あっという間にあと5匹に囲まれます。盾のスキルがどんどん上がるのはいいんですが…木に背中を付けて、3匹を相手にするしかないですね、残り2体が回り込んでこないのがさすがAI。


 ギリギリ…と思ったら、ヒールが飛んできます。池の向こうの小さいプレイヤーハウスから人が出てきて、もう一回ヒールをくれました。


 これでもう大丈夫。残りを何とか倒しきって、お礼を言わなくては。


Nicole:Thank you kind sir

 (ご親切な方、ありがとうございます)

Nicole:*curtsies*

  (礼)

 一応、ワンピースなのでちょっとスカートをつまんで軽くお辞儀をします。

 下に鎧を着ているのですが、そのあたりは、まあ…。


David:it was my pleasure, my lady

 (お礼をおっしゃるには及びませんよ、お嬢さん)

David:*kisses on her hand*

 (手にキスをする)

あ、この方はロールプレイヤーですね。これはある程度会話をしておかないと。


Nicole:It was very nice of you to help me, I didn't expect such a meeting in middle of nowhere

 (助けてくださるんなんて、ご親切でしたわ。こんな人気のないところでこんなにいい方に出会うなんて思いもしませんでした)


David:That little house is my humble abode, I was spending time in the

 (そこの小さな陋屋が私の住処なのです)


 ビュン!と音がして、エナジーボルトが目の前に飛んできます。PKです。

ばっと構えてはみますが、この装備じゃあ、まあ、あんまり…

 でも抵抗せずに死ぬのも悔しいので、戦うしかありません。


 駆け出してきたプレイヤーは、ブルー?なぜ?人を攻撃するとグレーの犯罪者フラグが立つはずです。

 2人組のどちらもブルー。ありえません。Davidさんは危なげなく魔法を打っていますが、相手が2人なのでちょっと押され気味です。装甲が薄めなので多分メイジキャラ…と、ええ?赤ネーム?


 赤ネームは殺人者で、殺人カウントを5つ取るとそうなります。ゲーム内で一定時間過ごすと一つずつ減るそうですが、あんまり繰り返してカウント数が多くなりすぎると「パーマレッド」つまりずっと赤のままになってしまうのだとか…。


 ガードされているタウン圏内に一足でも踏み込めばNPCガードにより瞬殺で、大変プレイがしづらくなるので、この世界の殺人に歯止めをかけるシステムですが、初めて見ました、レッドキャラ。


 口汚く罵りながらDavidさんを攻撃し続ける青ネーム。どっちがいい人だかなんて一目瞭然。ヒール魔法を飛ばそうと思ったら、目の前にすごく大きい表示が出ます。

「This action makes you a criminal, do you really want to do so? yes/no」

 (この行為は、犯罪者としてのフラグが立ちます。本当にそうしますか?)


 つまり、私が犯罪者フラグのグレーになるってことですね、これも初めて見た警告です。

 目の前で、自分を助けてくれた人が殺されそうになっているのに、助けないなんて無理です。


 迷わずyesを選んで、ヒール。そのあと駆け寄って包帯でヒール。

青ネームに攻撃されてガンガンParryスキルが上がります。


David:!! m'lady, you don't have to!

 (お嬢さん、そんなことをなさらなくてもいいのですよ)

Nicole:but I want to *smiles* you are such a nice person

 (わかっています、ただそうしたいだけです。あなたはいい人なのですもの)


 もう、青ネームの罵詈讒謗は無視して、青ネームの正面に陣取ります。物理タイプなら、スタミナぐらいは減らせるし、ヒールスキル持ちならダメージがそれほど入らなくても攻撃が当たることに意味があるんですから。

それにしてもparryスキルが上がりますね、これはもう死んでも悔いはない感じです。


Nicole:don't worry I am get used to be killed, nothing valuable on me

 (もう殺されるのに慣れているのでご心配なく。大したものも持っていないです)

Nicole:do not mind me, just kill them off plz

 (気にしないで、その人たち、死なせてしまってください)

David:your wish is my command *smiles*

 (あなたの望みを叶えずにはおきません(微笑む)


 わあ…かっこいいです。かなり余裕ないですか?

Nicole:*blushes*

 (照れる)

 私もロールプレイに徹しておきましょう。


――と思ったら、シヴァや、ギルマスみたいに連続で魔法をいくつか出して、最後に武器で一閃、ひとり、それからもうひとりも倒してしまいました。早いです。


 多分…ランカー?大体ランカーでスキル構成が同じ人は動きが似ることが多いです。ギルマスとミサ姉、シヴァが戦っているときにかなり似ている気がします。それを思わせるということは多分、そうですよね。


David:Are you all right, m'lady?

 (お嬢さん、大丈夫ですか)

Nicole:yes, sir

 (はい)


相手に包帯ヒール。また警告が出ました。意外にうるさいです、これ。


David:I want to escort you to town, but with this color, I can only go to Brigands'den, and lady, you are flagged too, other towns are not safe for you atm

 (ちゃんと安全なところへ送り届けてさしあげたいのだけれど、この色ではブリガンズデンにしか行けないのです、お嬢さん。あなたもフラグがついているから、他の街は危ない)


Nicole:?

David:if you call into town, nothing happens if nobody sees you, it is just gray. but if any player finds you, you might be attacked.

 (タウンにコールインしたときに誰にも見られていなければ、ただのグレーだから、大丈夫なのだけれど、誰かに見つかったら、攻撃される危険がある)


Nicole:oh, I didn't know that, this is the first time I became gray

 (知りませんでした。私は初めてグレーになったのです)

David:as I thought

 (だろうと思いましたよ)

David:this gate send you at the back of the stable of Brigands' den. stay there for 5 min and you are ok. after you turn into blue again, you can call in to any town safely

 (このゲートはブリガンズデンの厩の後ろに出ます。五分そこで待ったら、もうブルーになるから、どこのタウンでも安全だ)


Nicole:oh, thank you

 (なるほど…ありがとうございます)


 なるほど、グレーになっている私に面白半分にとびかかってくる人が銀行前にたくさんいそうです。私の持っているタウンマーカーは使えないってことです。でもブリガンズ・デンというのは無法者の町といわれていて、確かガードがいなくて…赤ネームでも入れるからそうなんでしょうけど、街中でPKが出るとか、そういう場所だったような!!!行ったことがないです!


 ゲートで送ってもらった先は、確かに、どこかの建物の裏で、すぐキャラクターが見えないようになっていました。なるほど、建物の後ろにコールインするのはこういう時のためなんですね。


ギルマスがくれるマーカーは確かにどこかの裏側が多いです。私は何も考えずに正面の真ん中とかをマークしていたのですが、今度からは裏にしましょう。


 落ち着いてみると、なんだかすごいことをした気がします。殺人カウント、取りましたよね、私!自分のメニューから見に行くと、やっぱり「2」になっていました。BPKですよね、あれは。


うわあ…ギルマスに叱られます…。ギルドルールで禁止で、警告と罰則、でもこれと同じようなことが起きたとき、私はまた同じことをすると思います。KOSで追放?シヴァが、ミサ姉が、ギルマスが…私を見た途端にエナジーボルトを…怖すぎます。瞬殺です。どうしましょう!


でも。事情を説明してもらえば少なくともわかってもらえそうかもしれません。


Nicole:sir?

 (あの)

David:yes?

 (どうしましたか)

Nicole:I do not want to ask you too much, but would you do me a favor?

 (あまり厚かましいことをお願いしたくはないのですが、一つお願いしたいことが)

David:Your wish is my command, I certainly say

 (あなたのお望みを叶えずにはおきませんよ、といつでも言いますよ)

Nicole:would you come with me and talk with my guild master? I took pk counts, and BPK is prohibited by guild rules.

 (私と一緒にいらして、うちのギルドマスターとお話してくださいませんか。殺人カウントを取ってしまったので。ギルドルールでBPKは禁止なのです)


Nicole:I will be punished, may be even kicked out from the guild.

 (処罰になるだけでなく、ギルド追放になるかもしれないのです)

Nicole:If a nice player like you could speak for me, my guild master might soften a bit

 (あなたのようないいプレイヤーが口を利いてくださればもしかして、処分が軽くなるかもしれません)

David:Certainly. Where is your guild house? any landmark?

 (もちろん、構いませんよ。ギルドハウスはどちらに?何か目印は)

Nicole:my guild house is on the edge of the player town, Avalon.

 (私のギルドハウスはプレイヤータウン、アヴァロンの周辺部にあります)

Nicole:look at my tag, I belong to both my guild and Avalon.

 (私のタグを見てください。私のギルドとアヴァロンの両方に属しているのです)

David:Oh, I see. I will visit there with other blue char, then.

 (ああ、なるほど。ではブルーの別キャラでそちらを訪ねましょう)

Nicole:Lady Titania and guard captain Roland vouch for me

 (私の身元については、レディ・ティタニアとガード筆頭のローランドが保証します)

David:other char's name is also David. your name is now blue

 (別キャラの名前もデーヴィッドですからね。名前が青に戻りましたよ

David:you are safe now. see you later, my lady =)

 (もう大丈夫です、ではお嬢さん、またあとで)

彼はコールアウトしていきました。


 虎の威をかるキツネというのはこういうことを言うのでしょうが、あの立ち居振る舞いを見てもランカーだったらまず、有名人を出しておく方がいいでしょう。知り合いということも無きにしもあらずですからね。


 この町のバンクに寄るのはちょっと怖かったので、手持ちのスクロールを使ってカバンの中のタウンマーカーを使いました。


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