ニコの質問
ニコが入ってしばらくたった。ロックもだいぶスキルキャップになるスキルが増え、ニコは鉱石掘りと精錬を落とし始めた。魔法耐性やっと半分を超えて、魔法のスキルが5割に乗るか乗らんかぐらい。盾のスキルは一応盾を外した時とはっきり違いが判るぐらいには上がったようや。
ニコの言葉遣いも、かなりAIっぽさが減ってきた感じがする。ミサが入ったからやろな、学校でもかなりわかってくれる人が出てきて、前よりずっとましになっていると、ずばずばいう友達から指摘されて、喜んだものだか、それとも失礼と思ったほうがいいのかようわからんようになったと言うとった。
ニコは相変わらず、一生懸命本を読んだり、ネットを調べたりしているらしいが、それでも検索に引っかからないことや、引っかかっても「そういう意味にもなる」みたいな細かいところがわからんことがあるらしい。
なんでも聞いていい、どんな質問でも受け付けるし、もし俺も答えを知らんものなら、一緒に調べるし、もし答えられんタイプの質問であれば、答えられる人を探すか、この質問は問題の性質上答えられない、と言うか、どれかだと言っておいたので、ニコは時々、どこから思いついたんだろうと思うような質問をしてくる。
今日のはこうだった。
Nicole:ギルマス、ロックとセブンは「ぶっとばすぞ」で
Nicole:私だけどうして「ケツひっぱたくぞ」になるんですか?みんなと同じでいいのに
Ichi:女が「ケツ」とか言うな。その言葉は男性用や
Nicole:じゃあ「おしりひっぱたく」?
Ichi:お前が口に出すとしたらそっちが近いやろな。標準語では「ぶつ」や
Nicole:私も「ぶっとばすぞ」でいい気がします
Ichi:俺はな、実際に出来ひんことを言う気はないからな、これでええんや
Nicole:ひっぱたくとぶっとばすの差はどのあたりにあるんですか
Ichi:ぶっとばすはな、手が、じゃんけんのグーの形になっとるんや、わかるか
Nicole:チョキは?
Ichi:チョキはない
Ichi:パーが、しばく、ひっぱたくになるわけや
Nicole:痛そうです
Ichi:まあ、せやろな。グーの方が痛いわけや
Nicole:パーのほうが痛くない、であっていますか?
Ichi:通常はそうやな
Nicole:じゃあ…セブンはギルマスにグーで
Ichi:おう、顔をグーで、なぐったわけや、人が殴られるんは見たことあるか
Nicole:目の前で本物を見たことはないです。映画なら見たことがあります
Ichi:まあ、あとは頭をこう、グーで上からガツンと
Nicole:うう
Ichi:まあな。つまり、セブンやロックはええんや、男やからな
Ichi:ほんまに必要ならガツンといくのに問題はない
Nicole:痛そうです、無理です!
Ichi:目的は痛い目を見せることにあるんやから、それでええんや
Ichi:ただ、女の場合はな。さすがに俺でも殴らんぞ
Ichi:男のほうがずっと力があるんは知っとるな?
Nicole:どのぐらい差があるかは知らないです
Ichi:まあ、お前ぐらいの大きさやったら片手で持ちあがるぐらいには、差があるな
Ichi:つまり、そのぐらい差があるもんをやな、殴るわけにはいかんのや
Ichi:女と子供というのは殴らんのが男というわけや
Nicole:女同士の場合にはどうなりますか?
Nicole:または子供どうし?
Ichi:女は殴り合いをせんもんや。子ども同士は殴り合いになることもある
Nicole:小さい頃は、そういう手出しもありましたけれど
Nicole:すごく厳しく止められましたよ
Ichi:そうやろなあ。それで普通やと思うぞ。特に女子はな
Nicole:でも、ここでは「ぶんなぐる」でも大丈夫なのではないですか
Nicole:私は刀とか盾とか持っているのでギルマスがグーでも
Ichi:ニコ、混ざっとる。ちょっとわけろ
Nicole:??
Ichi:整理するぞ?
Ichi:セブンとロックは、リアルでもここでも「ぶん殴る」
Ichi:ニコは、リアルでも、ここでも「ケツひっぱたく」
Ichi:こうなっとるわけや
Nicole:ギルマス、あの、リアルでって
Ichi:おう、ええ子にしとかな、しばくぞ
Nicole:!!!
Ichi:なんや、知らんかったんか
Ichi:ガキとはいえ女やからな、顔はたたくわけにいかんから
Nicole:ギルマスは、リアルでも私のおしりをぶつつもりだった、で合っていますか?
Ichi:Correct
Nicole:怖いです、ギルマス
Ichi:おう、ちゃんとびびっとけ、ええ子で勉強せえよ
Ichi:あかんと言われてることをな、せんかったらしばかんから
Nicole:いい子にしておきます
Ichi:それがええ。ここでも、外でもな
この会話を交わしてからしばらくは音声チャットだとわかりやすくこっちをうかがっている風やった。まあ、ほんまにしばくとまではまず、いかんやろとは思う。
勉強もあの成績なら卒業がどうこうという心配はなさそうやし、大体どうやっても逸脱出来んような造りになっとるとこで囲い込まれて育ちよったんやから、そういう悪さをするという選択もまず思いつかんぐらいやろ、あれは。
まあええとこ授業をさぼるとこまで、行くかいかんか…
ゲーム内の悪さはまあ、安全に試せるわけやしな、別に説教と雷で問題ないやろ。
あとはギャンブルとかに手を出さんようにするぐらいか…。金持ちな感じもするから余計な世話かもわからんが、ああいうもんは何千万と借金が出来ることもあるらしいからな。さすがにいくら金持ちでも親御さんが小遣いに数千万はやらんやろ。それでまた、そういうことせんように、学校に戻されてもかわいそうやしな。
ほんまやったら、悪さをしたら親にしばかれるぐらいのこと、経験しててもええんやろけどな。多分そういう手ぇはかけられてへん感じやな。俺らが当たり前と思てることを、どんだけ持たされてへんねやろ。神さんはおっても、親はおらん、か。つらいとこやな。
***
この会話の話をして、見といてやらないかんと思うんやという俺に、シヴァも、ミサも同意した。うっとおしいぐらいの関心を寄せられた十代の頃の自分が幸せに思えてくる。反抗したり、いらいらしたりしたけれど、全く…本当に全く親が関心を寄せなければそれはそれで寂しかったやろう。
ミサは、すごく甘やかしたくなる、と言っていた。
ええんちゃうかなあと俺は思う。ここでしてやれることなんて、そんなにない。
*hugs*
ミサには、この感情表現をみると、泣きたくなるのだと打ち明けていたらしい。
画面の文字を見ることで、ニコが幸せな気分になるなら、いくらでもそうしてやったらいい。
「たかがゲーム」だけれども、感情は本物。俺はほんまにそう思うんや。




