古参プレイヤーセブン
結局、ギルマスに目撃したことを全部ばらした。ログも出した。俺が悪かったと思ってると打ち明けもした。ちょっとふざけてみただけだったのに。「あんた、バカぁ?」とか、「死刑だから!」なんて言うのが「設定」だとわからないはずはないと高をくくっていた。
ギルマスには、外国人と思ってと言われていたことを思えば、安全を期して、かなり無難なものを教えておかなくてはいけないということだとわかった。
ニコはいい言い方をすれば「素直」、悪い言い方をすれば「単純バカ」。どこかがすっぽり抜けてて、本人は何かが抜けていることは認識してるけど、あまりにも穴が大きすぎてどこから埋めていいのかわからなくなっている感じだという。必死で本を読み、ネットを検索して、「現代用語の基礎知識」なんて買って必死で知識を増やしているらしい。
なんとしても外の世界になじみたいと思っていても、あまりにも「外」が大きすぎて手に負えないため、この王国でなんとか、練習にならないかとやってみているというのがニコが最初の方にギルマスに打ち明けた話なのだって。きっと礼儀正しく、マナーを守って、悪い言葉を使わず、せめて不快感を相手に与えないように…とかそっち方面なのだろう。
この間はなぜ、人のことを「ばかなの?」ということになったかというのも、ギルマスは後で聞きだしていた。要は、ちょっとからかわれただけらしいが、カッとして喧嘩を売るなら買うぞとばかりに先手必勝叩きつけた、ということのようだ。
あのニコが先手必勝なんて言葉を知っていたとは驚きだ。似合わないことこの上ない。猫パンチなニコが思い浮かんでちょっと笑える。ついでに言うと、言ったとたんにピシャっと雷を落とされて一瞬で頭が冷えて、涙の謝罪となったわけだ。
ニコががっくり来ていたのは、言った言葉が上品ではなかったということよりはカッとなったことの方らしい。今までもムカッと来てそのままに喧嘩上等でつかみ合いとまではいかないが、相手を辛らつな言葉でやりこめて、厳しく諫められたことがあったという。
――というと大したことではなさそうなのに、ギルマスによると多分かなり厳しく叱られているだろうということだった。罰も何度か受けたような口ぶりだったと。
狭い場所で大勢が共同生活をしていて、気晴らしに外に出るわけでもなく、幼稚園から高校まで同じクラスメイトと顔を突き合わせているとなると、カッとなって喧嘩を売るのは致命的だろう。確かに欠点といえるだろうが、もうここは寮のついた学校じゃない。もっとのびのびしてもいいんじゃないかと俺は思う。
気に入らない奴がいれば、そこから離れて他所へ行けばいい。気に入らない奴とは付き合わない。それが大人になる利点でもある。挨拶して、仕事さえ一緒に出来れば、自分のこと嫌いな相手なんか、気にかけなければいいし、ゲーム内なら切り捨てればいい。
デュエルしませんかと声をかけたら合法的にぶち殺し放題だ。まあ、負けたら悔しさ倍だけどな。なんならこっそりキャラ作ってPKに出てもいい。あー。でもニコには無理かも。隠し事が下手そうだものな。ギルマスにばれたら、ギルド追放になりそうだ。
ちなみにニコがアヴァロンの女王様に話をする時、俺のことをMy brother Sevenと言いつけたため、俺はニコのちょっと意地悪なお兄ちゃんということになったらしい。あんまり妹をいじめるなよ、と言われるようになってしまった。ロールプレイ面倒。
でもニコが時々「セブン兄」とか呼んでくれるのはちょっといい感じ。いや、妹属性萌えとか、ないと思ってたけど実際呼ばれるとなんだかなあ。俺末っ子だしさ、昔妹ほしかったことあるし。
俺のギルドタグは今[Call me Seven,BB]。名前がが「7L7」で読みにくいのが理由。知名度は多分BB内で最低。ニコはあっという間にアヴァロンで名が売れたし、なんだかごちゃごちゃと生産キャラを持っていて鉱山の町や、羊畑(羊が沸く場所。フィールド上にあってPKの名所)とか、鹿畑(鹿が沸く、町の外にある広場みたいな場所。NPCのヒーラー小屋がそばにあり、なぜか一部がタウン圏内で、PKが返り討ちに遭うことがある名所)あたりで名前が知れているらしいとギルマスに聞いたことがある。
ロックはルーキーPvPerとして、デュアルグラウンドに出没しているけれど、ギルマスと同じ…とまではいかないが、死ぬのが嫌なら、と寸止めルールで戦う親切なプレイヤーとして知られているとか、ダンジョンの浅い層で初心者どうしカバーしあって狩りをするのでいい人ということで通っているらしい。
俺は偽善者ぽくてそういうプレイは好きではないが、だからこそロックはギルマスに拾われたという。
俺は割と古参プレイヤーで、ソロでフラフラプレイしていたのを、声をかけられてギルドに入れてもらった。めちゃくちゃ長時間プレイして、「いつでもおるなあ、お前」とギルマスに言われたことがある。危うくゲームのプレイしすぎで卒業をフイにしかけたことがあって、ギルマスに(リアルで)ぶん殴られたことがあるのは、ロックとニコには内緒だ。
面白きゃいいというので、ギルマスやシヴァみたいにストイックに強さを追求せず、赤ネーム(殺人カウントが5つ貯まると名前が赤く変化して、タウン圏内に入れなくなる。ゲーム内で一定時間過ごすとカウントは1つずつ減る)になったらキャラ削除で、テキトウなPK合戦に出ていたのであんまり技術がない。面倒くさいんだよね、練習するのが。
最近ちょっとロックの熱心さにひきずられて練習を始めたけど、こういう「結果が出なくても努力する」とか苦手。殺されるとイラつくし、人を叩きのめすのは好きなんだけど。
BBのタグをつけて赤ネームになるわけにもいかないから、このキャラは大事にしてるけど、昔のベータテストの頃が懐かしくなることもある。ベータテストでは24時間に1度、サーバーのバックアップタイムがあった。その1時間前ぐらいにセーブされるので、そこからの1時間は好き放題。
つまり死んでも盗っても殺しても、全部チャラだったので、思い切ったことが出来た。好きなだけ喧嘩して、下品で猥雑なことを怒鳴りあい、絶対ロストしたくないような貴重なマジックアイテムを持ち出して相手を瞬殺出来た。
あの頃は生産キャラなんて、作ってどうするぐらいの話だったのに、今はみんな生産推し。
あんな作業が面白い奴の気が知れないと思っていたが、ニコは全生産スキルをカンストさせたいらしい。嬉々としてインゴットを掘りに出かけている。
もう「Nicole's Big Bro,BB」とかでもいい気がしてきた。その方がモテるとかさ。シヴァとそういう話をした時には「モテたいって、お前それは…」と絶句された。
俺結構やさしいと思うんだけど。
Nicole:ええー?
ニコのセリフが見える気がした。




