おいおい、べらべらやな
プレイヤーが着飾って立ち話。英語と日本語の両方が飛び交い、モンスター狩りが好きなプレイヤーは王が主催の「狩猟大会」という名目のダンジョンクロールに出かけて、残っているのは生産系か、プレイヤー同士の交流が好きというプレイヤーばかり。つまりこれは「お披露目のあとの懇親パーティ」ということになっとるんやな。
ニコとロックは顔を売るええ機会やが、シヴァとセブンは面倒だと生産キャラで材料採りに出かけて、プレイヤーイベントには参加してへんかった。
日本語でニコが女の子と話せる機会は多いほうがいいやろう、と見守ることに。
ロックはプレイヤーの店をひやかして回っていた。
Nicole:あんた、ばっかじゃないの?
ログは開いて画面の端に寄せてあったが、ニコのカラーであるオレンジで表示されたログを見て驚愕。
Ichi:こら、ニコ!なんちゅう口をききよんじゃ!
慌てて大雷を落としながら、手持ちの武器で一発殴る。
Ichi:うちの子が失礼を。叱っておきますので、どうぞ許してやってください
頭を下げる。
HPだけぎりぎりに削っておいたが、なんでまた?
ニコは自分で包帯を巻いて、HPを回復させている。
Ichi:ニコ!なんや、今のは
Nicole:セブンが真似したらいいっていう本を教えてくれて
Ichi:つまりそのまま真似をしたらこうなった、と。題名は?
ロボットアニメものとラノベか。大体どのキャラか俺にもわかるぐらいには有名な本やった。
Ichi:お前はー。こういうとこでそういう実験をすな!
弱めの雷を一発、そのあと解体用ナイフで一撃。
Nicole:ごめんなさい!
ニコがひるむ。今回はSTAバー2割ぐらいまで落としたからな。
Ichi:ギルドハウスへ戻ってしばらく謹慎。バンクアクセス禁止。つべこべ言うたらもう一撃入れる
もう一撃入れたら、間違いなく死ぬからな。ニコは死ぬのが大嫌いで、PKが出たら抵抗するよりも逃げることを考えるタイプ。こうなって逆らうとは考えにくい。
まずここでガツンと怒られているところを見せておく方が多分、後々評判が悪くなりづらいやろ。多分これ一回で済めば、それほどはまあ…。しかし評判が一番問題になりそうな初対面でこれかい!失礼な奴と思われたら後々が面倒くさいやろが、と俺がため息をついたら、話しかけられた。
Lady Titania:What's wrong,Ichi? Does anyone hurt?
(どうしたの、イチ。誰かが怪我でも?)
おう、女王か。やれやれ、しゃあないな。
Ichi:Our honor does, your majesty, this one's our new member, and still rather young to go out and mingle with those respectable people of Avalon.I thought she was ready, but she isn't, I suppose.
(傷ついたのは私たちの名誉です、陛下。これはうちの新参ですが、アヴァロン市民のようなちゃんとした人たちにお付き合いをお願いするにはちょっと年が小さすぎたようです。もう大丈夫かと思って出したのですが、まだ早かったのでしょう)
Lady Titania:Oh,Little one,what was your mishap?
(一体どうしたの、おちびちゃん?なにがあったの)
Ichi:I send her back to the guild house and punish her severely, so she will learn. Go, Nico,you will regret this
(ギルドハウスに送り返してきびしく仕置きをしておきます、ちゃんと覚えるように。後悔させるからな、さっさと行け、ニコ)
さっさと送り返すことにして、ゲートを出した。行け、ニコ。
Nicole:May I speak, your majesty?
(陛下、お話してもいいですか?)
Lady Titania:Yes, of course, little one, Queen always listens, that is my job.
(もちろんですとも、女王の耳は話を聞くためにあるのですよ、それが私の仕事ですからね)
Nicole:My brother Seven told me to read several novels so I may learn popular speech patterns.I am rather shy and felt too little to be talked with, so I read those books and memorized phrases. Some look a bit vulgar and outrageous, but I tried them, because...I lost my temper, and you see what happened...ma'am
(私の兄さん、セブンが読んで参考にしてしゃべるといいと何冊か有名な小説を教えてくれたのです。私は小さくて話しかけてもらうのに足りない気がして気後れがしたので、その本を読んで、フレーズを覚えたのです。ちょっと乱暴に聞こえたり、ひどく見えたりするものもあったのですが、ともかく試してみたのです。その…つい、カッとなってしまってそれを使って…どうなったかはごらんのとおりです、陛下)
Lady Titania:Oh, I am sorry, little one, you are deceived, I guess? Big brothers are somewhat mean to little sisters?
(まあ、それは大変だったわね、お兄さんは妹にちょっと意地悪で、だまされたってところかしら)
Nicole:Yes, but I know I was to blame, ma'am, I behaved vilely, my speech was not polite,I am ashamed myself, I disgraced my guild and friends. I deserve to be punished and cast out by respectable people like yours. Your majesty, I humbly beg your pardon and ask for your forgiveness.
Nicole:*tears*
(はい、でも…私がいけなかったのです。ひどい行いでした。口にした言葉も品がなくて、恥ずかしく思っています。私のギルドと、友人たちの顔に泥を塗ったのです、罰を受け、女王様のところにいらっしゃるちゃんとした人たちからは顔を背けられるのも当然です。へりくだって、許しを乞います。どうぞ、お赦しをくださいませ(涙))
意外やな。べらべらいきよる。こんなにしゃべれたんか。
ニコは女王の前に膝をついていた。
Lady Titania:Of course, I give your pardon freely.You are still young and didn't mean to be impolite. It is just a small mistake, don't fret so, little one, you may rise. Let me hug you.
(もちろん赦しますよ、まだ小さいのですもの、無作法な真似をするつもりはなかったのでしょう、ちょっとした間違いですもの。そんなに震えて。ほら、立って、おちびさん。抱きしめさせてちょうだい)
立ったニコを女王が抱きしめる。さすがロールプレイヤー。ついていきよるニコもニコや。
Nicole:I also need to earn his pardon. It might take ages. When I see the light of the sun again, it will be next year.I will be confined for a long while, may be even beaten.
Nicole:*sobs*
(それに…ギルドマスターの赦しもいただかなくてはならないのです。何年もかかりそうです。次に日の光の下に出る時には、来年になっているでしょう。ずいぶん長くとじこめられるでしょうし、ぶたれるかもしれません)(すすり泣く)
おいおい、そこでそうくるか。俺がいけずみたいやないか。
Lady Titania:Ichi? her apology is sincere, her shame overwhelming, We gladly give her our forgiveness. Please let her go lightly this time, will you?
(イチ?彼女も一生懸命謝っているし、自分の行いを恥じていることがよくわかるわ。私の方からは喜んで赦しておきましょう。今回は軽くで許してあげてもらえないかしら?)
Ichi:as you wish, your majesty.
(陛下のおっしゃるとおりに)
Ichi:しゃあないのう。半分は堪忍したる。バンクアクセスは許可。謹慎は日曜夜まで。
Nicole:Thank you your majesty, he said I was to stay in the guild house in this weekend, but not longer than that.
(ありがとうございます、陛下。彼は今週末は外出禁止だけれど、それ以上にはならないと)
Lady Titania:Well, I think that is still severe enough...oh,then I will visit in your guild house on Sunday and have a nice talk, so he can't beat you. Don't worry, sweetie. It will be fun! Fare thee well,little one and Ichi, it was nice to talk with you. oh, and among friends, my name is Lady Titania, not "your majesty", Nicole.
Lady Titania:*smiles*
(それでも十分それでも厳しいと思うわ。そうね、日曜にギルドハウスへ行くわ。そっちでお話をしましょう。彼があなたをぶてないようにね。心配しなくてもいいのよ、おチビさん。楽しいと思うわ。じゃあまたね、おチビさんも、イチも。話せて楽しかったわ。そうそう、お友達には陛下、ではなく、レディ・ティタニアと呼んでもらうことにしているのよ、ニコル(微笑))
ニコを魔法でヒールしてから、女王様は去って行った。日本人のアヴァロンメンバーも俺もポカーンだ。ニコは日本語で「失礼をして申し訳ありませんでした」と謝りなおして、日本人プレイヤーは、いいんだよ、こっちも口がきつくて悪かったね、とニコを許してくれた。
この事件が起きてから、ニコはアヴァロンの日本人プレイヤーからは「英語の出来る人」として通訳に駆り出され、英語圏のプレイヤーからは「女王のお気に入り」と認識されることになった。
ニコが言うには「色々な本から引用したので…」ということやけれども、なかなかこうはいかんもんや。ニコのギルドタグはその後女王と協議の上、[Little One Ava,BB]となり、アヴァロンの名誉市民ということになったのは、ちょっと驚きやった。
控えめで、いい感じのnice playerやと評判が立ち、ニコの鍛冶屋キャラは[Little Apprentice BB,Ava]とタグをもらってアヴァロンに所属。
アヴァロン中どこへ行っても声がかかり、鉱山で殺されそうになったとこをアヴァロンのパトロールに助けられてエスコート付きで帰ってきたり、女王を名前で呼べることから、Little Ladyと呼びかけられているのもちょくちょく目にした。
Black Brigadesのメンバーの中では間違いなく、一番プレイヤータウンの恩恵を受けたメンバーはニコで、そのおかげというべきか、そのせいでと愚痴るべきか、BB全員英語での意思疎通が上達することになった。
文法的にはどうやかわからんが、通じれば勝ちでいいなら案外いけて、英語のけんかの仲裁ぐらいなら出来るようになってしもうて、俺は余計にあちこちから呼ばれるようになったのは、まあしゃあないことやろう。




