オフ、セブン編
ニコは日本語が不自由だと聞いた。アメリカ人のゴンザと同じぐらいだと思って教えてやれとギルマスは言っていたから、何か聞かれたら親切に答えてやろうと思っていた。俺は純粋に日本人だし、大学だって出ているのだから、日本語の初心者に聞かれた質問でわからないのがそうそうあるとも思えない。
でも、ニコを見ているとこう、普通じゃないのがよくわかる。外国人が先生をつけて日本語を習ったらこうなるだろうか。丁寧すぎるし、整いすぎていて、ちょっと別の世界から来たのかと思うような違和感がある。ここを「外」というのもそうだし、時々、それはどういう字だ?というような言葉がさらっと混ざる時もあるから、その時だけ違和感が出る。
どこかで似たようなものを見たような気がして、さっきから考えていたけど、わかった。ニコはAIに似ている。学習型のロボットみたいな感じ。一生懸命俺たちの話を聞き、会話パターンを解析して、言葉遣いを直し、よく出る単語を覚えて、顔の表情を観察して自分の行動を最適化していると言えばいいだろうか。
無表情なわけでも、平坦なわけでもないけれども、丁寧語を少しずつ抜いて、みんなの反応をうかがっている感じがする。「ちがうんやー」となっていたのでちょっとふいた。
「ニコ、それはなまっているだけで標準語じゃないから。『ちがうんだ』だよ」
「せやな、ニコ、俺の言葉は関西弁や。このへんの言葉とはちゃうから、真似せんとけ」
「難しいです、時々男性用の語尾と見分けがつかないんだ」
「『つかなくって』かな」
「見分けが、つかなくって」
「そうそう」
ロックが日本語講座をしている。
顔はそれなり?美人ではない。どちらかといえばかわいいと言われるかな、いや、そうでもないか。こういうのを「ちょうどいいブス」というんだよな。まだなんだか子どもっぽいけど、化粧したら化けそうな子ではある。
胸はもうちょっと上げ底にして、服もかわいいのを着たら…というのはまあ、どの女の子でも同じか。加工前でこれなら、そういうことを覚えたらきれいになるっていうけど、かなりの箱入りだというし、まあちょっと遊べそう…とか思いながら見ていたら、ちらりとこっちを見たニコがすっと目をそらした視線が冷たい。
ちょっと、そんなのも察知できるの?意外と高性能ロボってこと?
そのあと移動する時も、ファーストフードに入って座りなおした時も、そして帰りも見事に一度も声をかけてこないし、隣に絶対来なかった。ロックにもシヴァにもギルマスにもちゃんと話しかけるし、そばに座ったり、隣を歩いたりするのに、俺だけ全避け。
途中から全員気づいてた、みたいな感じでニコはさりげなくガードされて、あとでギルマスと二人残されて、「値踏みしとったんをニコはわかっとったぞ、怖がらせるからやめとけ、避けられたいわけやないやろう」と説教された。
どうも全く経験はなさそうだけど、それが危険であるということは教えてもらっているらしかった。ニコは子どもみたいなところがある割に下心を見抜くところがあると思う、とギルマスは言っていた。「野生の勘」みたいなものだと。
AIに野生の勘があってたまるか!と思ったけれど、みんなニコには甘い。この分だとぶん殴られて追放になるのは俺の方な気がする。
このギルドは順位も高いし、ギルマスも人望があって、このサーバーではギルマスとシヴァのおかげでBlack Brigadesのタグは周りからも一目置かれる。生産のノルマもないし、お金も徴収されないし対人戦も教えてくれるし、最近腕も上がってきて、やめるには惜しいギルドだ。追放されたら多分評判も下がるし、次にこれより順位が高いギルドに入れるかどうかとなると、無理だろうな。「あのイチさんが追い出した人」になってしまうからだ。
ニコの兄貴分に徹すると約束しておいた。
ちやほやされて、いい気になってんなよな。と言ったら泣くだろうか。ニコが来る前はもっといっぱいダンジョンにも行けたし、ギルマスだって深層で狩ってたのに、最近は全然だ。
こないだなんかロックと二人でダンジョンに行って死んだのにrezが間に合わなくて全ロスト。防具も武器も、それほどいいのじゃなかったけどマジックだったのに。マジック武器は深層からしか出ない。次のを手に入れるのがどんなに大変か…。
男ばかりのギルドに女がひとりでも入ると荒れると聞いたことがあるけど、本当だと思う。




