25:ファミレスでオフ
ロック、ニコにとっては初めてのオフ。全員で5人にしかならないミニオフなのでそれほど気負わなくてもいいだろう。シンイチはごついからな…女の子に声かけたら事案になりそうな気がするとちょっと弱気な発言をしていた。でもここはやっぱり副ギルドマスターの俺よりも、ギルドマスターのシンイチが声をかけるのがいいだろう、やっぱりまとめ役は長がやるのがいい。
セブンとロックはスマホに自分のキャラクターの画像を出して駅のホームにいる間にマッチングさせたらしく同時に階段を下りてきた。ニコはシンイチが入場券まで買って改札内まで迎えに行くという過保護ぶり。すっごいデブとか、すっごいブスだったらどうしようかというセブンに「別に友達にまで容姿の良さは求めないから」とさらっと返していたロックは案外雰囲気イケメンだ。
ニコは小さかった。シンイチが「チビ」と呼んでいたのはこれを知っていたわけじゃないだろうが、細くて、小さくて胸が全然ない。キャップにパーカーにデニムという格好だと中学生の男の子に見えないこともないぐらい。かなりのショートカットで化粧もしていないし、これで年齢は18と言われても詐欺だとしか思えない。本当は15でも微妙に聞き返したくなるぐらい。合法ロリだ、とセブンがつぶやいたのはニコとシンイチには内緒にしておこう。
「はじめまして、いつもお世話になっています、ニコです」
…すごく変な挨拶だ。オンラインゲーマーでなければだが。
「これがシヴァ、こっちがロック、こいつがセブン」
「ニコ?なんか、イメージがこう…」
ゲームキャラはスカートをはいているし、髪も長いからな。ロックが言うのももっともだ。
「ほな、いこか」
シンイチはマイペースにニコの両肩に手を置くと、ニコをぐるっと回して歩かせた。ファミレスはもう見えているぐらい近い。
ファミレスに入って席を取り、メニューを見る。
「緊張しとるな、ちょっと、目ぇつぶって声を聴いてみい。いつもと一緒や」
ニコはしばらく目を閉じて、俺たちが話すのを聞いていた。
音声チャットはしょっちゅう使っているから、グラフィックだけがいつもと違うだけと言えば違うだけ。
「ニコは、こういうとこは初めてか」
「いえ、一度来たことがあります、大丈夫です」
一度ってとこがミソだな。ニコはデザートの載っているページをうれしそうに眺めていた。
「前に来た時は、決まったものしか頼めなくて、こういうのが頼んでみたいと思っていたのです…」
「学校から来たんやな?」
「そうです、課外学習で来ました」
なるほど、学校の遠足にファミレスが入っているってことなんだろうか。それはまた…よほど田舎か、外国かってとこか。
イチゴパフェを食べますと喜んでいるニコだったが、シンイチはニコを止めていた。
「あかん、ちゃんと飯を食うてからや、デザートはあとでな。寮の食事でもデザートは最後に出たやろう?ご飯が先や」
ニコは不満気だったが、そんな顔してもあかん、ときっぱり拒否されて、他のメニューを頼むことにしたようだ。
大丈夫、ここの料理は小さいからね。パフェは後でも入るって。ドリアだ、ピザだ、パスタだとみんなが注文をして、全員分のドリンクバーも注文。
「ニコ、取りに行こう、おいで」
ロックはすっかりお兄さんみたいな顔になっている。
「えらい遅いな、ちょっと見てくるわ」
シンイチが席を外した。
そのころ、ロックはドリンクバーの解説をし、ニコはドリンクバーの多さにちょっと圧倒されていたらしい。お茶だけでも20種類ぐらいあるし、ジュース類で10種類以上、それにもちろんミックスすることだって出来るドリンクサーバー。ドリンクバーを初めて飲む幼稚園児でもこんなに目が輝かないだろうというぐらいの喜びようだったとか。幼児用のおもちゃにそういうのがあった気がする。ジュースやさんとか、アイスクリームやさんとか。ああいう感じだと思ったのだろう。
冬ならお茶にしただろうが暑い時期はやっぱり冷たいドリンクバーだろうというわけで、まずはロックが見本を見せた。ちょっとずつ何種類かを注いで、ストローを取り、飲んで目を白黒させるニコを見てロックは爆笑。ロックはフルーツ系の飲料にアイスコーヒーや、ウーロン茶を混ぜようとしたニコを止めてやらなかったらしい。
「はしゃぎすぎや」
ロックはこづかれ、ニコは「めっ」とされていた。
笑いをかみ殺したロックと、ちょっとしょげたニコが席に戻った。
「それは責任もって全部飲め。ドリンクバーは混ぜたらあかんというルールはないけどな、全部飲み切るルールがあんねや」
ニコは、まじめな顔をしてそれを聞くと、すましてグラスを空にした。顔だけ見ていれば、ドリンクが変な味だったとはだれにもわからなかっただろう。こういうところがニコは不思議だ。
セブンと俺は、ドリンクバーは混ぜるのならフルーツ系だけにしておいた方がいい、とコツを伝授して、みんなはどれとどれがおいしいか、とわいわい話しあい、食事をした。
ただでさえ小さいドリアなのに、ニコはきっかり半分を食べてしまうと、ごちそうさまでしたとスプーンを置き、「パフェを頼みたいです」とシンイチを見上げた。全部食べろと言わなかったあたり、やっぱり甘やかしている感じがする。
こんなにうれしそうにイチゴパフェを食べる子はあんまりみたことがない。多分生まれて初めてのパフェなんだろうなあ。普通の女の子なら小さい頃に食べさせてもらっているんだろうけれど。俺ですら小学生の頃に食べたというのに。
パフェは混合する派と、上から順番に食べる派があると思うけれど、ニコは縦に半分を食べようと頑張っているような…?崩れるから無理だと思うけど。見ていると不慣れなのがよくわかる。なるほどなあ…細くて背の高いグラスに入っているパフェを食べるのは実は技術が必要なんだな。慣れるとわからなくなるんだろう。
「もう無理な感じがします…」
とても残念そうにニコがスプーンを置いたときには、かなりの量が残っていた。
まじめな顔をしてパフェグラスを見て、再挑戦で一口。
やっぱりだめらしい。セブンは笑っちゃ悪いなとばかりに横を向いてこらえているし、ロックは助け舟をだそうかためらっている。
「そのへんにしとけ、腹壊すぞ」
さすがシンイチ、お父さんのようだ。
「また、今度来た時に食べたらええ。また来たええんや」
ニコは「それには今気づいた」みたいな顔だった。
「俺、残りもらっていい?」
これが言えるとは、さすがロック。姉ちゃんがいるのは伊達ではない。ニコはちょっと驚きを隠しきれず、でもうなずいている。いいらしい。
ロックの胃袋はまだ余裕があったらしく、イチゴパフェの残りと、ドリアの半分はロックが食べた。
ニコはどっちかと言えば無口なようだ。じっと話を聞いているその顔が、とても真剣で、あまり馬鹿話なんか出来ない気がして、ゲーム内の問題解決的な話題に終始した。




