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18:ニコの言葉遣い

 言葉遣いというのはなかなかに直すのは難しいらしい。もちろん子どもと大人の口の利き方が違うということはみんなが知っているわけだから、全員がそれなりに話し方を変えて大人になったということだけど、ニコの場合は逆向きというのか、社会人向けというより、どこまで行っても「外部向け」の対応というのか、カジュアルに対応するのが難しいみたいだった。


 ありがとうございますではなく、ありがとう。申し訳ございませんではなく、すみませんとかごめんなさい、ですます調ではなく、もっと砕けた感じの親しい人の時に使う言葉が出にくいようだった。


 日本語講座よろしく俺もギルマスも言い直しをさせていたけれど、その線引きがよくわからないというので、割と解説は必須。


 ニコと同世代の俺と、ニコの教育を引き受けている(としか思えない)ギルマスは、ゲームの中のアクティビティというよりはただのおしゃべりに時間を使っていた。


 ギルド内で謝る時は「ごめんなさい」だけれど、通りすがりの人にぶつかったときとか、人混みで通してほしい時は「すみません」で、トラブルを起こしてほかのギルドの人に謝るとか、仕事先の人、学校の先生に謝る時は「申し訳ありません」であり、大問題になって、こちらに非があり、真摯に謝らなくてはならないときは「申し訳ございませんでした」である…というようなことも解説したほうがよくわかるみたい。


 ニコはゲームに入ってきて間がないからわからないことが多いからだろう、しょっちゅう謝っていて、まずはギルドメンバーや友達に謝る時は「ごめん」またはよほどのことでも、「ごめんなさい」だというのはギルマスが徹底させた。

 申し訳ありませんとか言われたらこっちがいたたまれない。


 ありがとうございます、というのもやめて「ありがとう」で統一。これはリアルでもそうだと教えておく。

身内、友達は「ありがとう」でいいんだ…と言うと、「身内…」と考え込んでいた。


 ニコに身内は多分いる。ニコはバイトをしていないけれど、大学に通っているから多分そう。

でも、ギルマスによると「いないも同然」らしい。

つまりお金だけは出すけれども、他は出さないタイプということだと、あとで聞いた。


 親と同じ家に住み、ほめられたり、叱られたりして育てられてきた俺たちには想像がつかないことも多いが、「ギルドのメンバーは身内やからな」というセリフに俺はちょっと目を見張った。

こんなゲーム内の関係でも、ニコが知っている関係よりも親しいのだろうか。

ギルマスがニコを連れてくる前にも何日か遊んでいたらしいけど、何日間?


 俺とかわした会話のほうが、親と全人生で交わした会話より多いという話をぽつりとニコがタイプしたのを見たときには何と言っていいかわからなかった。

覚えている会話は小さいころに、お世話してくれた人と一緒に手をつないで「おかあさま、ごきげんよう」とあいさつに行ったことらしい。お父さんとも似たような感じで。つまり小さいころに親を亡くしたのと同じ状態だということか。


 ごきげんよう、ってなんだよそれ。どこの国だ。「おかあさーん、だっこ!」とかじゃないのか。三歳前後らしいけど、なんだか小さいニコが困っているところが思い浮かぶようだ。


 でも学校にはやさしいシスターがいっぱいいたらしい。きっとニコにとっては身内というのは同じ学校にいた友達とか、シスターのことなんだろうな。

 あ、でも、そこでは「ありがとうございます」だったわけか?うーん。なるほど、カジュアル全滅なのも無理はない。


 ニコは必死で本を読んでいる。小説、それも現代が舞台のものは学校にあまりなかったため、読んだことがなかったらしいが、話し方を覚えるのに参考になるそうだ。

ですます調ではないものを参考にして、タイプインチャットで字面を確認しながら使ってみているらしく、おかしいところは直してほしいと。


 時々変に男っぽくなるのはそれでらしい。現代の女の子らしい口調というのはもう一段難しいのだろう。姉のしゃべり方を思い出して教えているけれども、いろいろなことを話題にしておかないと挨拶とよくあるゲーム内の雑談だけが現代女子風で、あとはいきなりお嬢様化するようなことになるのですごく面白くなってしまうのが、ちょっとかわいそうになってくる。

 お嬢様…というよりは、AIのほうが近いかもしれない。翻訳物の小説のような、ちょっとした不自然さがある。


 ニコは近隣のギルドの人と話をする時は、英語しかしゃべれないふりをしているらしい。なるほど…名前もアルファベットだし、バレにくいだろう。

 そして女の子がタイプインチャットをしているのを凝視して、ログをとって研究して、データが大分たまってきたらしい。


 こういうSFを読んだことがある。オタクの研究者がアンドロイドの女の子を開発して、アンドロイドはデータを集めて解析して、自律的に動けるようになって、人間と遜色なく…というか人づきあいという点では自分を作った男よりもずっとうまくなってしまう話だった。


 ニコもそうなればいい。人間なんだからアンドロイドより優秀だろう。しゃべり方さえ気を付ければ頭はいい感じがする。古典なんかも引用したり、ずっと年上のギルマスと話し込んでいる時もあるから、もともとの頭がいいのだと思う。ただ今までの環境が狭かっただけだ。


 ただ、せっかくの初の女子メンバーなのに全然色っぽい感じはしない。どちらかというと突然中学生が紛れ込んできたみたいな感覚だ。このゲームは18歳以上しか遊べないという建前にはなっているが、規約違反の子どもも遊んでいる。話をすると大体アンダーエイジ(というらしい)かどうかはすぐわかるが、ニコもどうかするとそういう風に見えてしまう。


 ギルドに入れてすぐ、ギルマスは、「ほんまは年齢はいくつやねん」と聞いたらしいが、ニコは18歳だと言って譲らず(それはそうだろう、本当にその年らしいから)、これはずいぶんな強情っぱりだと思ったと言っていた。

 今までギルマスが世話した子たちはたいてい優しくしてくれるギルマスに本当の年齢をばらして、ある程度おとなしく、運営側にアカバンされないように遊ぶことに同意してそれなりのギルドに紹介されることが多かったというから、ニコはちょっと、規格外だ。


 ギルマスがギルド員を選ぶとき、どういう風に決めているのかを聞いたことがある。俺の入会は自分で作れるアイテムだけで武装して、自分の身の丈に合ったダンジョンで、そこに居合わせたプレイヤーと助け合って狩りをしているので決めたそう。


 助け合えるプレイヤーというのが理由だったらしい。ほかのプレイヤーがターゲットしたモンスターを横取りせず、HPが低くなったプレイヤーがあれば目につく限りはヒールしたり、MPKに遭って死んだプレイヤーの荷物を取りに行くのを手伝ったりしていたのが決め手だったと言われた。


 そういうプレイスタイルというのは教えてもなかなか出来ないものだとほめてもらったのはうれしい。

ギルマスにが言うには「いやなやつ」というのはギルドに置いておくと、強くても面倒なのだそうだ。PKをするようなメンタリティのプレイヤーを入れると何がどうでも揉めるのだそうで、もううんざりしたのだと。きっと昔に何かあったのだろうけれど。


 セブンはもう腐れ縁で、弟みたいなもので、目を離すと何をするかわからないから手元に置いていると言っていた。セブンは一体、なにをやったんだ?ギルマスは教えてくれなかった。

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