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17:ニコ、初めてのPKK

 ニコは生産スキルを上げて、全部のゲーム内アイテムが作れるようになりたいという野望を抱いているらしい。材料のうち、取りに行かないといけないのは鉱石を掘って溶かして作るインゴット、木を切って削って作る板、動物を狩って、解体して取る皮、それから矢を作るのには鳥を取って羽。

  布は羊か、綿の木みたいなのを刈って、それを紡いで糸にしてから布にする。大体このぐらいの材料でゲーム内アイテムのほとんどが自作できる。


 ゲーム内のリソースである木とか鉱石は道具とスキルを使って、画面上の木とか、鉱石が掘れる石の洞窟の壁とか、灰色の山肌とかをクリックすることで採る。一度取ると、10分から15分ぐらいは再生しないので、広い範囲を回りながらリソースが取れる場所を探ることになる。


  タウンの安全圏にある場所は人気だが、すぐにリソースが枯渇するので、都合周辺のタウン圏外へみんなが出ていくことになる。


 そこに出るのがPK。森は王国のほとんど…つまり街や、鉱山でないところは全部を覆っており、モンスターもでる。木こりがあちこちに散らばっていていても出会いはかなりの偶然で、わざわざ走り回って探して襲うほどでもない。


  だけど鉱石の掘れるところは少ないので人が集まる。鉱石は重いが、インゴットは軽いし、武器と防具は壊れることも多い。NPCの店で売っているものよりもプレイヤーの鍛冶職人が作ったものの方がHQ、つまり「ハイクオリティ」になるので、みんな作って欲しがるし、作れる人は材料を集めるのが一番面倒くさいので、材料持参を求めたり、支払いをインゴットでほしがったりする。


 鉱石掘りや木こり作業は、たいへんコツコツした単純作業で、戦うのが一番好きというタイプのプレイヤーはそういう作業を嫌う。だから簡単にインゴットを奪ってやろうというような気を起こすプレイヤーがいて、鉱山にはしょっちゅうPKが出る。


  鉱山にいるのは、生産用のキャラクターで戦う力がある人が少ない。たいていやられっぱなしになる。街まで駆け戻って宿屋でログアウト、戦士キャラを持ってきて返り討ち…というのは間に合わないことが多い。まあ、間に合えばそうするのだけれども、タウン安全圏と圏外にまたがっている鉱山の場合は、PKが青ネームに戻ってからタウン圏に入られてしまうと攻撃するとこっちが無敵のNPCガードにやられてしまうので返り討ち不可。


 タウン圏外でPKをしてから、タウン圏に戻ってきても、タウン内で犯罪者にならなかった扱いなのでガードで瞬殺も出来ない。あくまで攻撃したときに立っている地面がどこかで判定されている。


  うまく逃げて追いかけさせ、タウン圏に誘導して「ひっかけて瞬殺」出来れば最高だけど、いつもうまくいくわけではないし。タウン圏と圏外は直線的に定義されているわけではないようで、このあたりかな?というぐらいはみんな知っているのだけれど、Guard!と念のため連呼することにしているプレイヤーは多い。


 ニコは鉱石掘りをかなりの頻度でしている。「鍛冶スキルを上げようと思うと湯水のように消費するので、どんなにたくさん手に入れても多すぎるということはないです」ということだから、空き時間のかなりの部分をこの鉱石掘りと、裁縫スキルを上げるための鹿皮狩りに使っている。そしてその両方のスポットが、まちがいなくPKの聖地…というわけ。


 鉱山はインゴットが手に入るため、鹿狩りスポットはプレイヤーが弱いためにそうなっている。鹿狩りスポットは、鹿ぐらいしか相手に出来ないnewbieや、生産キャラがたくさんいる。このゲームで一番弱いのはウサギとか鳥。その次が乳牛と羊で、次に弱いのが牝鹿で、ちょっと強いのが牡鹿。それより強いのは牡牛と熊で、これで動物は打ち止めで、モンスターに挑戦するのが通例だ。


 ニコのように「皮が欲しい」という目的で通うキャラクターは大体が裁縫キャラで、その場で皮を消費してアイテムを作り、アイテムを売るのはあきらめて地面に適当に捨てる(15分で消滅する)。


  裁縫道具をカバンに入れて、鹿が何とか倒せる…ぐらいの強さで倒しては縫い、倒しては縫い、とスキル上げに励むわけだ。裁縫道具はNPCの店売りで30ゴールドと価値はないし、あとは持っているのはハサミとか、店売りの剣1本ではPKしてlootしても金銭的には引き合わない。


 それでもPKが横行するのは「人殺しが楽しい」というプレイヤーがいるから。自分が強いような気になったり、人が逃げ惑うのをおいかけてなぶり殺したり、卑猥な言葉で罵ったりする子供っぽいプレイヤーが多い。


 本気で戦うキャラクター同士でデュエルグラウンドで勝負するほどの気概はなく、技術も磨かず、スキル上げも面倒くさいが、強い自分に酔いたい、というようなことを考えるとそうなるんだろうと俺は思っているけど、そういうキャラには、まともに鍛えたキャラで一騎打ちに持ち込めばまず勝てる。ただし数が来ちゃうと俺の場合はまだ技術が足りない。


 シヴァやギルマスの場合は技術があるので、相手が数人いても一人で勝てたりするし、ギルマスだったら5人ぐらい、うまく集団から一人ずつ引き離して倒してしまったりする。一人じゃなくてシヴァとギルマスのペアだったらそういう弱いPKなら10人ぐらい行けるんじゃないかと思う。まあそこまで多人数の時は滅多にない。嫌がらせめいたことをするようなプレイヤーは協力が出来ないのでグループ戦闘にならないから。


 なんとなくつるんでいてもグループとしてサポートやカバーが出来ないから、結局うまく連携が取れているペアやトリオにボロ負けになるのが通例。だからこそ、ギルマスはそれほど強くはない俺にも誰かと一緒に戦う訓練をするわけだし、ニコが戦うのはあんまり好きではないと言っていても、武器の持ち替えのタイミングとか、スクロールキャストの練習、ヒールのタイミングを見て立ち回る練習をさせている。


 そんなある日、ニコからメッセージが来た。minin pkと。短いけれど必要な情報は入っている。つまりmining pkというのは鉱山PKのこと。mining=鉱石掘りスキル。あわてて準備して鉱山町へコールインしたら、ギルマスとシヴァも飛び込んできた。一斉メッセージを送ったらしい。


 野天の炉床のまえにニコがいる。気づくと走ってきた。*smiles and waves*となっている。この書き方はロールプレイヤーの間では共通の顔文字代わりの説明書きで、「笑顔で手を振る」ということ。PKされたにしては、ご機嫌だ。


 Nicole:we won! thank you for coming,sir, Siva and Rock

 (勝ったのです!来てくださってありがとうございます)


 ええ?見るとPKのだろう死体がある。

 周りの人たちも随分盛り上がっている。


 Nicole:Miners United! Yay!

 (鉱夫達の団結が、実を結んだのです!やりましたー)

 ニコにしては珍しいはしゃぎっぷりだ。イエーイ、だって。聞いたことない。


 *applause*

 (大拍手!)

 *claps*

 (拍手)

 *dances around*

 (踊りまわる)

 *cat calls*

 (声援!ヒューヒュー)


 拍手したり、叫んだり、踊ったり。周囲のキャラクターの頭の上に浮かぶ感情説明はどれも喜びと称賛をあらわすものばかり。


 Nicole:When a pk came over, I had a lq katana in my pack, so I attacked him. I hand over ingots to other ppl around here, since I do not want give any ingots to pks. It is better to gift them to other nice players, you know.

 (PKが来た時、店売りの刀がカバンに入っていたので攻撃したのです。PKに取られたくなかったので、親切な人に差し上げるほうがましだと思ってインゴットは配りました)


 興奮してるなあ…。ものすごくタイピングが早い。


 Nicole:and he made HQ katana on this spot, hand it to me. then, other players made me armors, gorget, shield, gauntlet, and even a helm. I wore them and kept fighting, everyone heals me and

(そうしたら、その場でハイクオリティの刀を作って、くれた人がいたのです。鎧に、首あてに、盾に、手甲に兜まで!身に付けながら戦い続けて、周りの人がヒールもかけてくれて)


 Ichi:so, you could kill him, eh? good job,Nico, I am proud of you.

 (で、殺せた、というわけか。がんばったな。えらいぞ)

 Ichi:*smiles*

 

 Nicole:thank you sir

 (ありがとうございます)

 Nicole:*beams*

 (キラキラ)


 つまり、鹿狩りの時に使っていた店売りの低級の刀一本でニコはPKに特攻かけたってこと。どうせ殺されるなら、とスキル上げに走ったのだろう。

 ついでにインゴットはPKに渡したくなかったので近くの人に配りまくったら、鍛冶スキルを持っている周りのプレイヤーが武器と防具を作ってくれて、それを身に着けたニコが周りにヒールをもらいながらなんとか勝てたと。


 今、ニコはスキル配分的にはほとんど戦士型だ。これで魔法と魔法耐性がつけば純粋に戦士といえるのだけれど、魔法系統は本当に上がりづらいスキルだから、まだスキマがあいている。そこに鉱石掘りと精錬スキルが残っているという状態になっているわけだね。


 鍛冶スキルを持ったニコの生産キャラもいるのけれど、鉱石掘りスキルは上げている最中で、この戦士キャラのほうがまだ鉱石掘りのスキルは高いのでこっちを使用していたのが功を奏した。


 ギルマスのような本当に強いプレイヤーには手も足も出なかっただろうが、面白半分に戦闘能力がないキャラクターだけを狙ってくるようなPKなら、物理攻撃だけでもいい勝負だったに違いない。


 普通の生産キャラなら、下手をすると二、三撃で倒されてしまうのを、盾で攻撃をいなして数撃耐えて、鎧を付けたらまあ…物理攻撃系なら防御が高ければそれなりにいけるはずで、攻撃の軽いニコでも、時間をかけたら倒せる。PKはたかが鉱石掘りの生産キャラにぶちのめされて逃げだすなんて恥ずかしい真似は出来なかったとみた。


 こういうところに人殺しに来るプレイヤーは弱い者いじめの卑怯ものだというのはこの王国の常識だ。本当に強いプレイヤーはそういうことをしないとみんなが知っている。強ければ、モンスターが討伐出来て、珍しいアイテムや、お金が手に入り、インゴットをプレイヤーから買い取るとか、職人に注文するとかそういうことが出来る。つまり金持ち喧嘩せずな話なんだ。


  ニコはswordmanshipとかfightingとかも上がったと喜んでいた。よかったね、ニコ。

 でもギルマスは、あとで「ハラハラする」と愚痴っていた。

 ニコが鉱山町で友達とか知り合いを作り、協力してもらえるぐらいの信頼関係を作っていたのが見えた。

 ニコの初めてのPKKは、シヴァに言わせると「予想外の作戦」によって成功した。

 確かに、ちょっと俺達には無理な作戦だと思う。


 不思議なのは英語で話していると、全然違和感なく普通の子みたいに見えること。日本語のほうがちょっと微妙なんだよね。ニコが今日「イエーイ」と言っていたという話をしてもセブンは信じてくれなかった。


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