プロポーズとチャンピオン
アヴァロンというのは、アーサー王の伝説に出てくる王国の名前で、この物語のファンは多いから、登場人物の名前を付ける人も多い。
同じサーバーに同じ名前の人はいないことになっているらしく、たとえばNicoleとnicoleならいけるので、こういうつけ方をするか、SivasmithとかSivafletのように職業がどれかわかるように自分で足したりすることになる。セブンの7L7みたいな名前はベータテスターに人気でほとんど使われた後なので、名前を見るとベータテスターかもな、ぐらいのことはわかったりする。
アヴァロンガードのUtherは、アーサー物語のアーサーのお父さんであるUther Pendragonから名前を取ったらしい。そういうロールプレイをする。英語が普通のとちょっと違うので、かなりわかりにくいし、英語圏のプレイヤーならともかく、俺たちのような外人プレイヤーには、ちょっと厳しい。
こいつが、かなりニコのところへ来る。アヴァロンガードの一人なので、しょっちゅう見るが、ニコのところへきては、跪いて*kisses her hand*と感情表現をいれ、立ち上がるとIt is pleasure to see you m'lady, your eyes are brown poem、みたいなことを言いだし、詩を朗唱したりする。どちらかといえばli'l oneだの、Little Ladyだのと小さい子扱いで声をかけられているニコには珍しい、淑女扱い。
実はニコに言わせると、ちょっと苦手らしい。Utherよりは、PedroやAntonio、RolandにBlackarmの方がいいと言っていた。Utherはなんだかねっとりしているのだという。ねっとり…?
それでもなかなかロールプレイヤー的にはget lost!と叫ぶわけにもいかず、最近はもう名前がフロートインするが早いか、他の場所へ逃げだしている。UtherはBBのギルドハウスには遊びに来たりしないので、まずギルドハウスは大丈夫だが、アヴァロンの女王の部屋のガードがうっかりユーサーだった時には、今日は早めにお暇しますと、さっさと撤収してきて、女王が心配してなんの緊急事態がBBに起きたかとシンイチにメッセージを送ってきたぐらいだ。
つまり「外交問題」というやつになってきたってことだ。
そしてこの間にはニコはアヴァロン城のすぐ外で取っ捕まって、結婚してくれとプロポーズされたらしい。
つまり、Will you take my hand in marriage, m'lady Nicole?と。
(私と、結婚していただけますか、レディ・ニコル)
ニコはびっくりしたのだが、これはロールプレイだ、と落ち着くように努めて、
It is a nice offer, but I cannot take your hand, I am still too young for such a responsible role.
(素敵なお申し出ですが、そんな責任のある立場に着くなんて、まだまだ無理です、私はまだ、年が足りませんから)
――とかなんとか、断り切ったそう。
一応アヴァロンの女王様からは「おチビさん」的に呼ばれているので、こういう断り方でいいだろう、とおもったらしい。ユーサーはそこで、それではあなたのお父さんの許可を取りましょう、と言ったらしい。
そ…それはやっぱりギルマスになるんでしょうね?とニコはシンイチにメッセージを入れた。
シンイチは頭を抱えたらしい。
ちなみに、王国には結婚のシステムがある。大勢が座れるベンチの列がならんだ、野外結婚式場があって、前もって申し込んでおけば、システム側のgame seerだとかgame counselorだとかが結婚式の司式をしてくれる。指輪に、好きな文句を登録できて、死んでもNewbieアイテムのようにカバンに残る特別なものを用意してくれるということになっている。
別にそれ以上の特別な措置はないのだが、それでも白いドレスを着ている女性と、プレートメールを着込んだ男性が結婚式を挙げているのは時々見る。
ロールプレイヤーは、ブライズメイド役を友人にやってもらい、揃いのドレスを着せて並べて、大掛かりにやると聞いたこともあるし、2人だけで結婚式を挙げるカップルもあるらしいが、まあ、要は気分の問題だ。
***
Ichi:ニコ、ユーサーとの結婚は、いやなんやな?
Nicole:はい、ギルマス、実は苦手な人です。余計苦手になったって言っていいですか?
Ichi:おう、そういうもんやと思うぞ
Nicole:こう、じっとりと来る感じがいやなのです
Ichi:しつこそうやな
Nicole:はい
Ichi:ちょっと、女王と話するから、待っとけ
――というわけで、シンイチは女王とローランドを巻き込み、女王は「あなたは私の騎士であるからには、まず私に許可をとりなさい」ユーサーをまず牽制し、ローランドとシンイチはこんな年若い子を結婚させるわけにはいかない、まだほんの子供なのだから、という方角から行ったらしい。
まあ、ロールプレイを相当、やったらしいが結局、御前試合をやって、ユーサーが負けたらあきらめる、ということになった。相手を誰が務めるか…というと、穏当に行くとシンイチ?一応、Lady's championという名目で、戦えないニコ(つまり貴婦人は戦わないので)の代わりに出るから、男性キャラで、ということだった。
勝てるということで言えばミサが勝率が一番高いのだけれど。Missa is not a lady, she is a mageとシンイチは微妙なことを言っていたが、ともかくロールプレイ的に女性キャラはだめだということだった。まだ、プレートメールを着た女騎士であれば絵面的になんとかなったかもしれないが、メイジはだめだと。いろいろ細分化されているようだ。ミサのフェンサーは軽装だからなあ。革鎧にドレスではだめっぽい。
そしてなんと、シンイチは「お父さん枠」なので出場権がないらしい。そりゃあまた…ロールプレイも大変だ。
ってことは次点は俺だ。
というわけで、俺が出場。シンイチとミサがやけにこう…絶対負けられないと力が入っていて、俺は最近はセブンとロックに稽古をつけることはあっても、自分ではもう、あんまり練習していなかったのだけれど、ミサとシンイチにすごい勢いで稽古をさせられている。ふたりがかりでかかってこられるともう、厳しいって本当に。reskillとまではいかないけれど、ギリギリでポーションがガンガン減る。2対1だともちろん寸止めは無理な話、順位は下がるが、仕方ないだろう。
こんなに真剣にPvPをやったのはいつぶりだろう。ミサはバランス型フェンサーキャラを出して、ユーサー対策を俺にやらせた。百人単位のギルド戦をやった時もここまでいかなかったかもしれない。1対1ではポーションなしでもいけるぐらいにしろと、またミサは無茶を言う。
今のゲームバランスにおいて、この王国では直接攻撃の物理系よりはメイジが有利なので強いキャラはメイジが多く、対メイジ戦に体が慣れている。バランスキャラでもmelee寄りだと調整がいる。セブンなら慣れているし片手間にさばけても、似たスキル構成とはいえユーサーの実力がわからないから、最悪の事態を想定したということだ。
操作を体が覚えるまで、やるしかない。つまり死にながら覚える。
夜中にポーションを作るのは久しぶりだ。敵対ギルド戦の時は毎晩夜なべになったものだ。
100本ぐらいずつこしらえる。regはロックとニコが差し入れしてくれた。ニコはごめんなさい、としょげていたが、これは申し込んだUtherが悪いよな。
ローランドによると、私の手を取らせて見せる、だったかな、なんだかそういうことを言っていて、勝つ気があるようだけれど。まあ、負けたくはないな。ニコのこともあるけど、なんだかそういう「嫌がられているのに気づいていない」ような奴に負けたくない感じというか。あれは粘着質で嫌な感じがする。
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御前試合は、時々やるtourneyと変わらない。従卒クラス、ジュニアクラス、戦士騎士合同、メイジ戦。と来て、いつもなら、エキシビジョンマッチ、ということになるのだが、今回は俺とユーサーの一騎打ちイベント。
いろいろとセリフを出すロールプレイヤーだが、もう正直読んじゃいない。そのあたりは全部女王にお任せだ。「我こそはLady Nicoleのチャンピオン、私の剣はこの方のために…」みたいな英語のフレーズを言うパフォーマンスは勘弁してもらった。
ニコの前にひざまずいて*kneels and bows*を一回、そのあと女王に呼ばれたら立って、観客の側を向き、剣を面前に捧げ持って(これはマクロにあった)*salutes*を1回でなんとか。あとの口上はアヴァロン側から出るそうだ。
これ以上減らすのは、御前試合のロールプレイの都合上無理らしい。俺が黙って棒立ちになると、確かに雰囲気は出ないだろう。
ロールプレイヤーギルドとしては、ちょっとぐらいは、とシンイチは思っているらしい。
試合が始まって、まあ定石通りに戦うしかないわけで…と思ったら、いや、違う?スキル構成が想定と違う。やれやれ、これで勝てなきゃシンイチに殴られそう。おまけにミサにreskillされ放題だ。fencingで、ちょっと遅めの細剣を振っていたと思っていたのに、swordmanshipの刀を持っている。それに武器は低級だけどマジックのようだ。katは振りが早いし7thは妨害されそうだから、キャストが少しでも短い6thか、いっそ5thを中心にしたほうがいい。
これはもう、ちょっと卑怯扱いになるしかないか…ポーションを飲み、紫も使用。なんとか削り切った。まあ…それほど強いキャラでもないし、ミサとシンイチに比べると見劣りする。ごく当たり前のフルキャップという感じだ。おまけに一人なら、まあ。練習がミサとシンイチ2人がかりだったのがやりすぎだったともいえる。
PvP、それも一騎打ちにおいては、ポーションを使わないことにこだわる流派みたいなのがある。なんでもいいから勝て!という場合は、ポーションはどんどん消費するが、こう、美学?みたいなのがあって、剣と魔法だけで勝負だ!みたいなストイックなプレイヤーが一部いる。
相手がそういうプレイヤーだった場合、物言いがつくのを避けたかったから、ポーション抜きで、と相談してあったのだが、スキル構成が違うのは、想定外だし、今回はしょうがなかった。
ユーサーは破れたからには彼女をあきらめるというロールプレイを出し、傷心のポエムっぽいフレーズを出しながら退場。
ふう、勝ててよかったけど、ちょっと疲れた。
スキルは大体1000回スキルアップをしないとカンストしない。50ぐらいまではすぐあがるが、90から上が本当に上がらない。スパーリングを一日中やって一週間で入れ替えられるかどうか、というようなもので相当面倒。つまりユーサーは、俺たちを出し抜くためにスキル替えをやったということか。すごい努力と称賛すべきか、かなり気持ち悪いと唾棄すべきか。
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ギルドハウスでみんなでしゃべっているとセイドがやってきた。このキャラはアヴァロンガードの一人で、ニュージーランド人らしい。タイムゾーンがアメリカよりはこっちに近いのでよく会う。
名前が「サド侯爵」から来ているらしいのがPKくさいと思っていたのでちょっと警戒していたのだけれど、ニコに言わせると英語の間違いを辛抱強く直し、言葉を教えてくれるらしく評価が高いから、実はいい人なんだろう。
アヴァロンの周辺警戒をしているのはよく見るけれど、うちのギルドハウスへ遊びに来ることは滅多にない。伝言だのなんだので来たことはあるから、今日も女王の伝言?メッセージ機能があるのに、こういうのを出してくるところがロールプレイヤーだ。
DeSade:greetings, friends of Avalon!
(アヴァロンの友に挨拶を)
Nicole:oh!*smiles* nice to see you, m'lord, how art thou?
(閣下、いらっしゃいませ。ご機嫌いかがでいらっしゃいますか)
Ichi:hiyas, any news?
(なんか、ニュースは?)
DeSade:fine thank thee, Little lady
(おかげさまで、息災ですよ、リトルレディ)
DeSade:and no news, BB
(BBの、ニュースはないな)
DeSade:but I need to talk with you
(ちょっと、話しておきたいことがあってな)
とりあえず挨拶が済み、何やら用があるらしいとわかった。
DeSade:Sorry about Uther, Nicole, I think he wanted your kat
(ユーサーの件は、すまなかったな。どうもユーサーはあの刀が欲しいようだ)
Nicole:! that magic, you gave me?
(あの、私に下さったマジック刀ですか?)
DeSade:yep, that one, he kept asking me to sell it to him before
(そのそれだ。前から売ってくれとうるさかった)
DeSade:but I didn't sell him, I did not feel like it
(売る気にならなくてな、結局売らなかった)
Nicole:oh, then I will get it for you, it is in the bank
(銀行に入っているので、持ってきます)
DeSade:No, no, Nicole, it is not that
(いや、そうじゃないんだ、ニコル)
Nicole:?
DeSade:you do not have to give it to anyone, keep it, it is yours
(誰にも、渡さなくていい。お前のものだからな)
DeSade:just want to make sure not to sell it to Uther
(ユーサーに売らないようにと言いに来たんだ)
Ichi:so all he want was Nicole's magic kat
(あのマジック刀が欲しかっただけ、か)
Ichi:He proposed to Nico, and thought to get that kat from her, I guess
(ニコにプロポーズして、刀をもらうつもりとかだったんだな)
DeSade:He doesn't and won't say so, but I feel it in my guts, you know
(そんなことを口には出さないんだが、こう、な。わかるんだ、勘で)
Ichi:Thank you for telling us, we will explain it to Nicole
(教えてくれてありがとう、ニコにも説明しておく)
Ichi:she is still young in RL, she's real teen
(まだリアルでティーンエイジャーでは、ぴんと来ないかも)
Nicole:I felt something scary and hmmm do not know the word
(なんだか、怖い感じというか…これを言い表す言葉がわからないです)
Nicole:feeling something bad, shiver on my back, do not want to see him
(よくないもので、背中がぞわっとして、会いたくない、そういう感じ)
DeSade:Nicole,check the word "creepy" in your dictionary
(ニコル、辞書で「creepy」を調べてごらん)
Nicole:wait for me
(待ってください)
Nicole:yes, I think that is close enough
(はい、こういう感じだと思います)
Nicole:he is creepy
(「彼は、気持ち悪い」)
DeSade:*smiles* yep
(そうそう(微笑))
なるほど…こうやって教えてもらっていたんだね、よかったね、ニコ。辞書で調べると「不気味」「気持ち悪い」とかそのあたりだった。
DeSade:Nicole, do you know the saying "creepy crawlies"
(この言い回しはしっているか?「creepy crawlies]」
Nicole:let me check the dictionaryreepy crawl
辞書を見ます
Nicole:"he gave me the creepy crawliies"
「彼を見るとぞっとする」
DeSade:good, that is it
(そうそれ)
しばらく英語教室をやって、セイドは帰って行った。
Ichi:つまりやな、あいつはニコのマジック刀がほしかったんやな
Nicole:結婚申し込むより、刀が欲しいの方が、気持ち悪くなかったと思います
Siva:多分、仲良くなったらせびり取れると思ってたんじゃないかな
Nicole:せびり?ちょっと待ってください
Ichi:ニコ、「せびる」や。
Ichi:無理にくれくれということやな
Siva:スキル入れ替えはそれでか
Siva:刀使いになってたからな
Ichi:もう、もらえるつもりになっとったんやろ、厚かましいな
Nicole:あんな感じに来ずに、普通にゆずってほしいといわれたら
Nicole:セイドに聞いて、いいと言われたら渡してもよかったのです
Ichi:つまりあれはな「財産狙い」いうやつやな
Ichi:ニコと、結婚したかったんやないぞ、持っとるもんがほしかったんや
Nicole:そっちの方がましだとおもいます
Ichi:コラ、まじめに聞け
Nicole:?
Ichi:結婚をな、申し込むいうことはや。相手が好きや、ということや
Ichi:その人を大事に思うから、申し込むんや
Ichi:ずっといっしょに仲良くしたい、ということやな、わかるか
Nicole:*nods*
Ichi:それがな?本人はいらんけど、持ってるものは欲しい、いうのが
Ichi:おかしいんはわかるか
Nicole:もし…誰か私が好きになった人がそう言ったらがっかりすると思います
Ichi:そういうやつがおったら、振ってええ。仲良うすんな、いうことや
Nicole:見てもわからないかもしれないです
Ichi:せやな。でもな、ニコ、多分お前そういうんわかるぞ?
Ichi:あいつのこと気持ち悪い言うとったやろ
Ichi:じっとりして、嫌な感じやというとった
Nicole:*nods*
Ichi:ニコはどっかで、あいつがニコのことが好きなんやなくて、
Ichi:持っとるもんが好き、いうことがわかっとったんや
Ichi:RLでもな、そういう感じがする時は気を付けろ
Nicole:リアルでも?
Ichi:そうや
Nicole:同じようなことを考えるやつはリアルにもおる
Nicole:わからなかったら、どうしましょう
Ichi:俺らに会わせろ。結婚しようかと思ってる相手をな
Ichi:友達に見せるんは別にめずらしいことちゃう
Ichi:なあ、シヴァ、よくあるよなあ?
Siva:うん、友達の婚約者に会ったことあるよ
Ichi:俺らが見抜いたる
Ichi:もし「財産目当て」やったらぶん殴る
Nicole:EV and gang-bash?
(EV撃って、タコ殴り?)
Ichi:you bet ;)
(だな!)
ここで、こういう経験をするのも、いいかもしれない。ここならEV andganb-bashでいいわけだから。
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それからしばらくの間、シンイチ、ミサ、俺の三人は、PvPの練習という名目でアヴァロンガードの詰め所に顔を出した。
セイドとアントン、ペドロ、ブラッキー、そしてローランドは(多分)結託してユーサーを俺たち三人の練習相手にあて続けた。
ミサとシンイチは瞬殺しているし、3人の中じゃ最弱の俺でもスキル構成と武器がわかっていれば、気を付けて戦えば負けない。心が折れて、ニコに近づく気がなくなるまでにそうはかからないだろう。礼儀正しい挨拶ぐらいはさせてやるが、そこまでだ。
文句を言えるものなら言ってみろとあとでシンイチは笑っていた。
あのニコが「私が好きになった人が」と言っていたことに、あとから気づいた。
そんなことも、考えるようになったんだ。小学生みたいなおチビだと思っていたのに。
人の好意に、そして悪意に。触れて育っていく。
This is just a game, but our feelings are real. 確かにね。




