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初めての、手芸店

 時々、こう、ああ、やっぱりちょっと、違う世界で育ちよったんやな…ということがはっきり見える時がある。ちょっと前にこんなことがあった。


 Nicole:ギルマス、いまいいですか?


 Ichi:おう、どないしてん


 Nicole:泥棒は、悪いことですよね


 Ichi:そやな


 Nicole:あの銀行の前で、人のカバンをのぞいてくるとか


 Nicole:カバンの中のアイテムとかを取っていってしまうあれは


 Nicole:楽しいことなんでしょうか。


 Ichi:この王国内に限ってやがな


 Ichi:あれをやるとDEXがあが(dexterity)るんや


 Nicole:知りませんでした


 Ichi:hiding stealing, peepingこの3つはdexが上がるスキルやからな


 Ichi:インゴット掘ってHPとSTAをあげて、そのあとDEXをあげてな


 Ichi:ほんでStealing peeking hidingのスキルを下げて、


 Ichi:fencing, fighting, anatomyとかを上げて


 Ichi:ロックとか、ニコみたいなDex-Meleeタイプになるわけや


 Ichi:人にいやがらせするんが嫌と言うプレイヤーは


 Ichi:友達と組んで、お互い盗みあいとのぞき合いをやる。


 Ichi:他の人に迷惑かけんでもいいから、日本人ギルドではこっちが推奨になっとる


 Nicole:日本人ギルドで見たことあります


 Ichi:もちろん「悪い盗賊」のロールプレイをやっとるつもりのやつもおる


 Nicole:ギルマス、外では?


 Ichi:外で、物を盗む、ということか?


 Nicole:そうです


 Ichi:お店で売っとるもんを、お金を払わずに持って帰るんが盗む、やな


 Ichi:人のもんを勝手に取るんも盗む、や(これは王国でも同じ)


 Nicole:ここで、そういうことをやっている人は


 Nicole:外でも、やりたくなるんでしょうか


 Ichi:わからんな。でもやりたなって、やるとするやろ?


 Ichi:ほんなら、おまわりさんにつかまるわけや


 Ichi:犯罪やから、逮捕やろ?ほんで刑務所へいってな


 Ichi:罰を受けて、つらい目にあうわけや


 Nicole:全員?


 Ichi:まあ、そう思といてええぞ


 Ichi:そこまでして、盗みたいか、というとな


 Ichi:ほとんどの人は、そこでやめとこうと思うんや


 Nicole:思わなかったら?


 Ichi:遅かれ早かれ、手が後ろに回るやろな


 Nicole:手が、後ろに回る?


 Ichi:ああ、逮捕されることをそういうねや


 Nicole:お店に買い物にいって…。


 Ichi:ん?


 Nicole:目の前にあるのが全部欲しいなって…


 Nicole:初めてです。あんなにいっぱい、並んでいるのは初めて見たのです


 Ichi:あー。「ええな」「すごいな」と思ったいうことか


 Nicole:お店で、全部手に入れたいと思ったのです


 Nicole:でも、編む速度を考えたら、絶対2つ以上は買わないものなのです


 Ichi:編む?


 Nicole:糸なんです、レース編みの糸


 Nicole:見たことないような色がいっぱい


 Ichi:お金出して、買うたらええやないか


 Ichi:2つ選んで買うてくる、いうのはあかんのんか


 Nicole:選べなかったのです、多すぎて


 Nicole:全部あったら、うれしいのになあ、って思って


 Nicole:持って帰りたくなったのです


 Ichi:そんでどないしてん


 Nicole:怖くなって、帰ってきたのです


 Ichi:ええと、お店の物は持ってきてへんな?


 Nicole:何も持ってこなかったです


 Ichi:*phew*


 Ichi:一応聞いとくが、お店に置いてある物を


 Ichi:お金を払わんと持って帰ってくんのが、あかんのは知っとるな?


 Nicole:一瞬、そうなったらどうしようって思ったのです


 Ichi:ほしいな、思うんは別にええんや


 Nicole:いいんですか?


 Ichi:別に問題ない。思うだけなら自由やからな


 Nicole:でも、そういうことが頭に浮かぶのが罪深いと思って


 Ichi:知っとるか、ニコ。それは外では「当たり前」や。


 Ichi:もちろん実際に盗んだらそれは犯罪や。


 Ichi:「ええなあ、ほしいなあ」と考えるのは罪ではない


 Ichi:少なくとも、外では、思うだけならOKや


 Nicole:貪欲でも?


 Ichi:実際誰かのものを盗んだり、取ったりしたらあかん


 Ichi:そういうことをしそうか、ニコ?


 Nicole:多分そういう風にはならないと思います


 Nicole:でも、あんなにたくさん目の前で見たのは、初めてだったのです


 Ichi:学校におる時はどうしてたんや


 Nicole:ほしいものを目録から買っていました


 Ichi:あー。冊子で選んで、いくつ、と決めて買うとかか


 Nicole:そうです


 Ichi:目の前に、ずらっと並んでたんで、ぽーっとなったんやな


 Ichi:ええか、ニコ。おぼえとけ。


 Ichi:「今日は、見てるだけ」そう思って行け


 Ichi:見物(けんぶつ)や。すごいなあ、いうて見に行け


 Ichi:見慣れたら、欲しいもんがわかる


 Ichi:そうしとるうちに「今日は買う日」やということがわかるんや


 Ichi:心配やったらな、両手を後ろで組め、組んだまま見るんや


 Ichi:絶対手を離さんように。手が前に出んようにな


 Ichi:手に取らんかったら、盗めはせん


 Nicole:そうします


 Ichi:ああもう、しゃあないのう。週末に一緒に行ったる


 Ichi:どこやねんその店いうのは


 Nicole:家の近くの商店街のお店です


 Ichi:わかった。ほんでもしそのお手々に持っとって


 Ichi:金払わんと外へ出そうなったらしばきゃええんやろ


 Nicole:そうはならないと思うのですけれども、


 Nicole:もしかしたら、と思いついてしまったら


 Nicole:その考えが頭から消えなくなってしまったんです


 Ichi:あほやのぅ、ほんまに。ならんと思うぞ、俺は。


 Nicole:are you sure?


 Ichi:yep,pretty sure



 ――というような会話を交わした週末、俺はニコと一緒にその商店街の店へ行った。まあ、女子供の好きそうなもんをぎょうさんに売っとる店で、多分名称は「手芸店」やと思う。五階建てで、全部それ。男はものすごい場違いや、ということがよくわかる感じで。正直どっかがむずがゆい感じや。


 そこの 糸の玉が問題らしかった。

 ずらっと並んだカラーの糸玉が、大小サイズがあったり、糸の太さが違ったりするらしい。

 小さいんは、それこそ鶉の卵ぐらい。大きいんはガムテープぐらいはある。


 ニコに後ろに手を回すのを教えて、見守った。


 ニコが戻ってきて、

「しばらく見ていたら、怖くなくなりました」やと。

 よかったのぅ。しばらく見とったら、自分の頭が考えとることがどうなっとるか、わかったんやろう。


 ほんまにこのチビはもう…。機会がなかっただけで、そういう癖が実際あるとかやったらどないしてやったらええやろと思て、俺はしばらく寝れんかったんやぞ、アホが…。


 盗癖というのは、病気や。つまり脳のな。もともとそういう風に生まれつくこともあるし、遺伝もあるいう話やから、治療やのカウンセリングやのがあるんや。


 ニコには、そのあと「迷うぐらいなら、買うな」と教えておいた。

「絶対これや」とわかってから買うんでええんや、と。

「迷った時点で、見てるだけモードに変更や」


 そういうと、今、そういう話を初めて聞いた、という顔になっとった。

 やっぱり、こう…どこか地に足がついとらんな、と思う。


 決心はついたらしく、手の平にのるぐらいのを1つ買うとった。

 買い物が好きな女は多いからな。


「またなんかあったら、ちゃんと言え、今回は言えて偉かった」

 そや、褒めるときは褒めとかないかんやろ。隠されたら困るからな。


「Thank you sir」


 えらい発音ええな。You are welcomeと返しておいた。

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