プロローグ
2020年4月14日七条駅東京環状線ホームにて。私はこの世界に大いなる遺恨を残そうと思う。私は今更死ぬことを厭わない。
「間もなく3番線に下り列車が参ります……」
1,2,3......1,2,3......1,2,3......1,2,3......1,2,3......
呼吸を整えて……ほーら、騒がしい警笛が私の門出を祝っているぞ!
「おさがっ………………いいいいいいっっっ……………!」
鳴りやまぬ客たちの悲鳴と怒号……私は遂に死んだのだった。
死後の世界には大きく分けて天国と地獄があるという。私の進路は大方決まっているのだが、それでも一応神様とやらの事情聴取を受けなければならないらしい。今は、天使みたいな白装束を着て、神様がやってくるのを待っている。
「やあやあ、遅くなってすまない……」
えっと……ラーメン屋の店主とかじゃなくて、神様なのか?
「それはそうと、随分やらかしちゃったみたいだね……」
エンマ大王が持っている閻魔帳的なやつなのだろうか、神様はなにやら分厚い本に目を通していた。老眼ゆえか、時折目を細めるのがチャーミングだった。
「自殺なのか……それにしても人身事故っていうのはね、相当なマイナス評価になっちゃうんだわ」
「やっぱりそうですか……」
「そりゃ、それだけ人に迷惑をかけているってことだからね」
「ですよね……」
これで地獄行が確定したと思った。
「ところで、人身事故を起こした理由は何なの?」
「その答えによって、私の地獄行が回避される可能性があるんですか?」
「うーん……立場上答えられないな……」
この神様、なんだか不思議だ。回避できる可能性があるのか……まあ、私の悩みなんて未来永劫忘れ去られるのだから、愚痴っても文句は言われないよね……。
「私はね、頭もスポーツも、そして就職も、全部最下層なんですよ」
「うんうん、分かってる」
面と向かって言われると、傷つくなあっ……神様。
「別にこれだけを理由にしたら、どこぞやのバカ死刑囚と同じですからね、私、本当はもっと利口なんですよ」
「……そうなんだろうね……」
えっ、どうして分かるんだろう?
「ここに全て書いてある。原因はまず、親の離婚に始まるね。その後は学校での虐めだ。おまけに無実の罪を擦り付けられて、ひたすら蔑まれる人生だったのか……なるほどね……」
現世の裁きは何も融通が利かない。私が最下層の人間だと分かった瞬間、人は蔑む。最下層というレッテルが積み重なって、再起不能になる。成れの果てが私ということだ……。
「君は……世界に復讐したいと思っているのかね?」
復讐……神様の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。私にチャンスを与えてくれる……わけないか?
「そなたの願い、叶えてやろうか?」
復讐を叶えるだって?そんなこと……。
「そなたの目は光の行き場を失っている。あるいは、世界を変えることができるかもしれない……」
神様は懐から全て黒く塗られた本を取り出した。
「悪の神を召喚するのは、十年ぶりか……」
悪の神……復讐?
はははっ、そんなファンタジーみたいな話、あるわけない……えっ、悪の神?
「待たせたな。そなたが復讐を望む迷い人か?」
今度は……そうだ、神様って感じの雰囲気だ。しかしながら、どうして神様が世界を変えようとするのか?世界の秩序を維持するのが神様の役割じゃないのか?
「そなたは……なるほど、世界を変えるのに十分な力を持っているようだ……」
うそっ、本当にそんなことできるのか?
「この悪しき世界を構成するメンバーを駆逐せよ」
悪の神は私に手を差し伸べた。