冨木餡の場合⑴
「餡のせいだ。」
この夢を見るのは何度目だろう。今日もこの言葉に起こされた。
毎日がよくわからない。高校も中退し、日常をむさぼっている。
何度も死のうと思った。包丁とにらめっこもした。でも死ぬ勇気が無い。パパもママも好きだけど、この拭えない罪と好きになれない自分が毎日毎日襲い続ける。一度でも無償の愛を貰った人間は死ねないのだ。
22歳になってようやくコンビニエンスストアでアルバイトとして働き始めた。よくパパもママも四年間も目を瞑ってくれていたと切に思う。客の目が怖い、オーナーやパートさんの目が怖い。交代する夜勤の大学生が怖い。パパとママだけが私の精神状態を支えてくれている。
マスクが離せない。自分の息遣い、人の臭いが無意識に防げるから便利品だ。
今日も早朝から夕方にかけての長いシフトを終えた。街中のコンビニだからか、ずっと忙しい状態で、外国人観光客とのコミュニケーションも難しく疲弊するのだ。帰り道、廃棄の袋を持ってフラフラと帰っている途中の横断歩道で知っている人の顔を見た。
「一・・・‼」
声に出して呼んでしまった。でも相手は気にもせずすれ違った。目の前の点滅する青信号を背にして、知っている後ろ姿についていってしまった。その人影は、知らない路地裏へと進んでいった。
「だれ…ついてくるのは…」
その人影は餡に聞いた。
ふと我に返った餡は無我夢中で追っていたため、今自分がしていることが奇行であると自覚してしまった。
「す、すみません・・・。つい友達に似ていたので。」
「それって——」
その人物はゆっくりと振り返る。
振り返った顔面はおどろおどろしい顔をしていた。
『一じゃなかった。』
餡は悲鳴もあげることもできないまましりもちをついた。ゆっくりと後ずさりしながら、小さい声を漏らしていた。
「うまく引っかかってくれたな。トラウマはいい仕事をする。」
「何・・・?」
「俺がどんな姿をしているか自分ではわからないが、お前には自分が犯した罪と最も関連ある人物になっているはずだ。」
そうだ。間違いなくトラウマ。この人は私が殺した人だ。