私のために争わないで
グランドの海賊船に乗り込んできたのは、キラキラをまとった攻略対象だった。
俺は、グランドの背中に隠れながら、その男を見た。
すると、そのハシバミ色をした目の男は、俺にウインクしてみせる。
「大丈夫ですよ、レディ。すぐに助けてあげますからね」
そう言われても……。俺は、胡散臭そうにその男の後ろの男達を見た。やはり、20人くらいいそうだ。
「おい、パリスが借金を返すまでは、この女は俺の女だ」
グランドが言う。
「え……私、あんたの女だったの!?」
俺が軽くパニクって言うと、グランドは呆れたように俺を振り返りながら
「借金を返すまでは、な」
と答えた。
「いや、力ずくでも、その子は返して貰う」
と、その男は言った。屈強……ではないが、各々が武装した男達が、前に出る。
「噂のドリード山賊団の皆さんか」
グランドが面倒そうに言うと、その男は力強く
「義賊団だ!山賊って、なんか、響きがかっこわるいだろ!」
と答えた。
なるほど。この男はドリードという名前か、と俺は覚えるようにした。
「しかし、オリヴィエの家と、ドリード山賊団は犬猿の仲だろうが。何故、この娘を助けようとする?」
グランドが言うと、ドリードは、
「頼まれた。ドリード義賊団は弱者の味方だからな。あの悪名高いオリヴィエお嬢様だろうが、頼まれたことはきっちり遂行してみせる!」
と答える。
すると、ドリード義賊団の後ろから、線の細い、長い髪の見知った男が進み出てきた。
「パリス!?」
俺は、声を上げた。まさか、助けを呼びに行ったのは、パリスなのだろうか。
「お嬢様、もう大丈夫です。怖い思いをしましたね。さあ、こちらに」
と、パリスは両手を広げる。俺は、一度グランドの顔を見た。
「……これから危険なことになる。行け」
と、グランドは俺の目を見ずに言った。
俺は、小走りでパリスの腕の中に飛び込んだ。
「パリス……どうやって……」
「あの後、周りにいた浮浪者たちに手伝って貰って、手分けしてドリード義賊団の居場所を探し出したんです。遅くなってすみませんでした」
そう言うと、パリスは俺の乱れた服と、びしょびしょになった姿を見ると、
「……本当に、遅れてすみません。もしかして、間に合わなかったでしょうか?」
と心配そうに聞いてきた。
「私は大丈夫。でも――」
と、何かを続けようとしたところで、俺は、パシッ、という軽い音を耳にした。
顔を上げると、ドリードが自分のしていた左手の手袋をグランドに投げつけているのだった。
「ドリード、その仕草は――決闘では……」
パリスが慌てたように言うと、ドリードはこっちを見て、
「俺、生でオリヴィエ様見たら、欲しくなっちゃった。グランド、決闘だ!勝った方がオリヴィエ様をいただけるってことでどうだ!?」
と叫び、
「ね、お嬢様?」
とにっこりと笑ってみせた。
「決闘って、どうするの?」
と、俺がパリスに聞くと、
「決闘者は、腰に短銃を一丁さして、振り向いた瞬間に銃を発砲し、相手の体に当たった方が勝ちです。ただし、胴体や頭は狙わないこと。必ず、手足を撃つことになっています」
と、パリスが解説してくれた。
「あ、危ないじゃないの!やめてよ、流血騒ぎとか!」
俺は声を上げるが、ドリードは不思議そうにすると、
「オリヴィエ様は、この決闘が大好きで、意中の男性同士に戦わせる……って聞いてますが」
と言った。
……オ~リ~ヴィ~エ~!!このゲームの以前の俺~!!女王様気取りかよ!!
そうこうしているうちに、船室からどやどやと海賊たちが出てくる。そして、「決闘か!」「また、キャプテンの早撃ちが見られるぜ!」と喜びを隠せないようだった。
と~め~ろ~!危ねーからお前ら止めろ!!
そうこうしているうちに、両方に銃が渡された。どうやら、決闘って言うのは、公平にするために同じ銃を使う必要があるらしいな。
多くの男達と、俺が見つめる中、二人は1mほど空間を空けて立つ。
「3!2!1!」
男達が騒ぐ。そして、急に静まりかえった。
「――ゼロ」
勝負は一瞬だった。
俺の目は、銃の弾道など見えない。ただ、ガシャン、という音が響いた。
銃を落としたのは、ドリードだった。手を抑えているが、出血している。
俺は、気が遠くなりそうだった。自慢じゃないが、俺は血が大嫌いだ。病院で検査をする際にも、血を抜かれていくのを見るのが嫌で、いつも目をそらすほどだ。
「勝者、グランド船長!」
「キャプテン!キャプテン!」
「俺たちのグランド!グランド!」
海賊達ははしゃぎ、義賊たちは意気消沈した。
――だが。
「……オリヴィエ」
グランドが、俺の方を見る。
「……色々と、すまなかった。お前は、家に帰れ」
そう言われて、俺は「え……」と戸惑った。
「別に、決闘ごときでお前をどうこうする気はねえよ。親父さんが待ってるだろ。帰って顔を見せてやれ」
俺は……俺は、危うく「嫌だ」というところだった。
が、言葉を飲み込む。そして。
「そうね。帰るわ。……でもグランド、せめて連絡先を教えて。色々と……お礼がしたいし」
と、俺は食い下がった。すると、グランドは
「……港にいる時は、宿に泊まってる。番号を教えてやるよ」
と、海賊の一人に紙とペンを用意させ、さらさらと電話番号を書き残した。
「お嬢様、こんな海賊に……」
と、パリスが言うものの、俺は、
「助けて貰ったの。『オリヴィエお嬢様』として、礼はしないとね」
と言った。
やがて、やはり腑に落ちなさそうな顔で、手の傷を手当てされたドリードが俺の側にやってくる。
「ごめんな、お嬢様。すっきり家に帰れないことにさせて……」
そう、犬のようにしゅんとするので、俺は
「心配ないよ。グランドも、家に帰してくれるって言ったじゃない?それより、ドリード、傷は大丈夫なの?」
と訊ねる。ドリードは、
「お嬢様が心配してくれるのなら、全然痛くも痒くもないですよ!!」
と、両手をぽんと叩いた。
……しかし、俺は知っている。
手を叩いた時に、ドリードの顔が、痛みで引きつった瞬間を。
「男って……ホント馬鹿ね」
俺は、自分の中身が男であることを忘れて、そんな感想を呟いたのだった。




