借金のカタ
「通行止めだ」
そう言って、外からやってきたのは、パリスと同じ、キラキラをまとった「攻略対象」だった――。
パリスが、俺を守るように抱きかかえる。
「この子は関係ありません。絵を見せていただけです」
パリスはそう言うが、その金髪は「はっ」と肩を揺らして笑った。
「そのメスガキが誰だかなんてどうでも良いんだよ。文句は金返してから言え」
……パリスのやつも借金してやがった-!!この世界のやつら、ちょっとした町工場並みに借金してねえか!?
クズ中のクズだった俺だって、借金したことねーぞ。親の財布から金取ったことはあるがな。
やがて、ずん!と音がして、玄関の扉が破られた。丸太かなにかをぶつけた音だったようだ。
そして、屈強な男達が5人ほど、室内になだれ込んでくる。
「パリス、てめえ!俺ら『グランド海賊団』に金借りておいて、何のんきに女連れこんでんだ!?」
角刈りの男が言う。海賊って、金貸すの?なんかすげー能力者のガチバトルとかじゃねーの?俺は、自分が漫画の読み過ぎな知識しかないことを呪った。
そして、俺は金髪の方を見る。
「あ、あんた、グランドっていうの?」
俺がそのキラキラ男に声をかけると、金髪は、おや?という顔をしてから、また不敵に笑った。
「いかにも。俺が、海賊団の『キャプテン』、グランドだ」
そう言って、グランドは顎をしゃくって部下に命令する。俺とパリスは別々に引き離され、俺は屈強な男達にしっかりと両手をまとめられ、捕らえられた。
「そのメスガキ、連れて行くぞ。どうやらパリスの野郎にはまだ金がないようだからな。借金のカタにさせてもらおう」
「そんな!止めてください!その子は関係ありません!」
パリスが、その華奢な体で突っ込んでこようとするものの、男達が邪魔そうにパリスの体を払うと、すぐに力が入らなくなったようだった。
「放しなさいよ!放せったら!」
俺が暴れても、両腕を掴まれているので、動きもしない。俺とパリスは、そうやって軽々と引き離されてしまった。
外に連れ出されると、俺は包帯のような布で目隠しされて、何かに乗せられたようだった。
そのまま、カポッカポッという音が聞こえ、どうやら俺は馬車に乗せられているのだということはわかった。
「……」
俺は、うつむいて無言で耐えた。女が借金のカタにされるということは、どういうことかもわかっている。ホスト業界でも、古い体制の店だと、未だに、ツケが払えない女をソープに売り飛ばすこともあるそうだ。もちろん、うちの店ではやっていないが。
やがて、馬車は止まり、俺は連れ出される。何かグラグラ揺れる地面を感じた。やつらの船の中だろうか。
「目隠しを外してやれ」
そう言われ、俺の視界は自由になった。何か、でかい船の上で、ここは部屋の一室のようだ。
すえた匂いが鼻先をくすぐる。俺は、顔をしかめた。女子校の少女達の匂いならまだ嗅いでも良いが、むさい男だらけの場所の匂いなど、記憶しておきたくない。
そういえば、ホストたちの控え室も酷い匂いだった。ロウさんたちのように上級ホストとなると、香水の香り具合も調整して不快にならない程度だったが、俺たち下級ホストは、競い合って香水を付けるので、匂いが混ざって控え室にいると頭痛がするほどだった。
「さあ、味見といくか!」
そう言って、むさい男ども20人ほどがいやらしい笑みを浮かべる。俺は、「味見」と言われて舌噛んで死ぬ度胸がない自分を恥じた。
「キャプテン、お先にどうぞ」
そう、男の一人が言ったが、グランドは革手袋を外し、
「俺はいい。ガキの体には興味ねえからな。自室で休むから、お前ら好きにしろ」
と言うと、ドアをくぐって行ってしまった。
……しまった。もしかして、分岐を間違ったのか?
俺は、ゴクリと喉を鳴らした。以前、ホスト仲間と「ギャルゲー」をした際に、「分岐」といって、正しい受け答えや行動をしないと、バッドエンドなるものに繋がったことを思い出したのだ。
どうせ汚されるのなら、むさい男どもより、グランドのような美形に越したことはない。それに、俺の体は今、処女かもしれない。ただでさえ、処女の体は性交痛が起きやすいのに、こいつらは挿れて出すことしか考えていなさそうだ。しかも、人数が多い。最悪だった。
「まずは俺からだ……」
そう言うと、一人の男が前に出て、俺の胸をわしづかみにした。
「おほぅ。良いおっぱいしてるな。ガキのくせによお……」
もう、早く終わってくれ、早く終わってくれ、とそればかり考えた。
――5分後。
俺は、相変わらずおっぱいを揉まれ続けていた。当然の疑問が生じる。
「……なあ。お前、なんで胸だけ揉むんだ?」
男は、驚いた口調で
「おっぱい揉む方が衛生的じゃねーか!?」
と訊ねてきた。
「キャプテンが、おっぱい揉んでちんちん擦りつけてれば安全だからって……」
「大体、輪姦ったって、こいつらの顔見ながらセックスするとか耐えられんし……」
「ナカに入れたらガキができちまうだろうが。責任問題になるだろうが……」
「誰かの使った穴を使うとか、無理だろ常識的に……」
男達はざわついている。
………………マジかこいつら。
俺は、そこでひらめいた。男達に響き渡る声で宣言する。
「お前ら、私を誰だと思っている!豪商の娘、オリヴィエだ!これから私を汚すつもりなら、一回5万円を要求する!私は商人の娘だ!商人の取り立ては、地獄の果てまで行くからな!」
そう言い終えると、男達は、しん、と黙り込んだ。
やがて、
「ちっ、アバズレが……」
という文句のあと、ぞろぞろと男達は出て行った。俺は正直、膝から崩れ落ちた。
「よ、良かった……汚されなくて、本当に良かった……!」
そして、美少女すぎるのも、スタイルが良すぎるのも困りものだな、と反省した。これがブスなら、少なくとも海賊船に拉致などされずに済んだのだから。
気がつくと、日が陰りはじめているようだった。
「……今日は帰れないかな……」
俺は、ため息をついて、窓の向こうに広がる、夕日に照らされた街を眺めていた……。




