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パリスのアトリエにて

 俺は、パリスから買った絵を手に、自室に戻った。

 絵画を鑑賞する趣味はないので、この絵は邪魔になる。


 そして、俺は、本当に最低だが、絵を解体し、薪にくべてしまった。

 暖炉に入れられた絵は、あっという間に燃え上がったが、俺は何の感慨も感じなかった。


 そういえば、ホストをやっていた頃も、そんなことがあったな、と思い出す。

 ホストには、誕生日や記念日に、大量の贈り物が捧げられる。俺はそれを、ネットオークションや質屋で売れるものは売り、そうでないものはゴミにして捨てていた。

 決して俺だけが冷血なのではなく、周りのホスト仲間もそうしていたし、そもそも俺を指導していた先輩も「客にもらったぬいぐるみとか部屋に置くなよ-。カメラや盗聴器付いてるからな」とも言っていた。


 ともかく、パリスの絵は、お値段5万円と共に燃え上がり、その一生を終えた。


 廊下に出て、執事と話す。

 パリスに電話をかけるためだ。


 執事は、「電話は自室にございます。黒電話の使い方はおわかりですか?」と聞いてくる。

 俺は、「いや。お前が教えてくれ」と答えた。


「よろしいですか?このように、輪の中に指を入れて、このように回すとダイヤルできるのです」

 俺は、

「いや、助かる。今度、活きの良いショタを2~3人見繕って買ってきてやるよ」

 と言ったが、執事は

「いえ。一人で結構です。私は一人に対して時間をかけたいので」

 と、純愛なんだか汚ねえんだかわからないことを言った。


 俺は、執事が去ったのを見届けてから、ダイヤルを回した。数回のコール音と共に、パリスが電話に出る。

「オリヴィエ様ですか?今日は絵を買っていただき、ありがとうございました」

 そう礼を言われたが、俺は

「別に良いよ。それより、今から暇?私とデートしない?」

 と訊ねた。


 パリスは、「い、いえ。オリヴィエ様のような高貴なお方と僕では……」と俺にとっちゃクソどうでもいい謙遜をしてみせたが、

「あなたに興味があるの。それに、絵を描いているところが見たいわ」

 と強引に約束を取り付けた。


 パリスのアトリエは街に出て、メインストリートを裏に曲がったところにあるらしい。

 俺は、例の胸の大きく開いたブラウスを着ているので、「これでいいか……」と一応全身鏡でチェックした。見たところ、パリスはおっぱいに弱いようなので、胸を強調する服を着て行くに越したことはない。武器は、使うべきだ。


 そして俺は、アトリエに向かうことにした。


――「こんなところがあるのか……」

 俺は、初めて街を歩いたが、メインストリートは確かに賑わってはいた。だが、裏道に入ると急に喧噪がなりをひそめる。

 軒先には浮浪者が寝ていたり起きていてよくわからない言葉をぶつぶつつぶやいていた。

 磨けば光るショタもいたので、金で買えれば執事への贈り物にできそうだとも思った。


 普通の女の子は、ここを一人で歩くには抵抗があるだろう。パリスのやつ、ちょっとは気を回せよ、とは思ったが、俺の元いた世界でも、こんな状況はよくあった。そう、どの世界線でも、乞食はいるのだ。


 幸いにも、俺が側を通っても、じろりと見上げるだけで、襲ってきたりはしない連中のようだ。乞食は理性のないように思われているが、案外こういう連中の方が世の中をわかっていることもある。


 やがて、俺はぼろアパートの前にたどり着いた。

「ここか」

 そうつぶやいて、電話で教わった、一階の角部屋のインターフォンを鳴らす。


 しばらくして、パリスがエプロンを装着した姿で出迎えた。

「すみません、作業中でお見苦しいのですが……」

 そう、照れたように微笑む姿に、キラキラと輝くものが見える。やっぱり、こいつは「攻略対象」で間違いないようだ。

 

「どうぞ、ちょっと手が汚れていて、お茶をお出しすることができないのですが」

 そう言われて、俺は部屋の中に入った。しかし、俺はすぐにある意味でのけぞることになる。


 部屋汚ねええええええ!!そこは、まさに汚部屋だった。

 しかし、よく見ると、汚いのは居住スペースだけで、多分絵を描くであろうスペースは、きちんと整理整頓されている。……逆だ逆!住んでるところ片付けろ!!

「はは……まあ、芸術家の部屋って感じだね」

 と、俺は、営業用の笑顔を貼り付けたままオブラートにくるんだ感想を述べた。


「本当にお恥ずかしい。オリヴィエ様のおうちとは段違いでしょう?」

 と、比較的汚れていないであろう小指で頭を掻きながら、パリスは言う。

「うーん……でも、こういうのも、たまにはいいかも」

 俺は、落ち着いてくると、今まで出会った「お水」の女の子を思い出した。水商売をしている女は、基本的にどこか抜けているので、こういう「片付けられない女」も多かった。それに比べたら、仕事スペースだけでも片付けられているパリスの方がましだ。


しかし、パリスは、俺に目もくれずに絵を描くことに熱中している。

 俺は、それを眺めながら、「退屈な男だな……」と正直な感想を覚えた。俺が最後に絵を描いたのは、中学3年の美術の授業以来だからな。そこそこ上手く描けたが、「絵なんて描いて何が面白いんだ?」という疑問は抜けなかった。


 しかし、静かな時間はそう保たなかった。


――ドンドンドン!!

 インターフォンが付いているにもかかわらず、ドアが激しくノックされる。

 パリスははっと振り向いて、「オリヴィエ様!反対側の窓から逃げて!」と言うと、ぽかーんとしている俺を立ち上がらせ、ぐいぐいと窓の方に押しやった。


 ……しかし。


「おーっと、こっちは通行止めだ」

 そう言うと、一人の男が窓をふさぐように足をかけた。そして、パリスと俺が慌てている隙に、窓から長い足がぬっと出てきた。


 短髪の金髪に、鋭い目。豪奢な装飾品と、黒いブーツ。

 そして、その男の周りも、キラキラと輝いて見えていた。


 2人目の「攻略対象」が、俺の前に現れたのだった。

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