攻略対象!
寝て起きたら、今までのことは夢だった、ということになっていないかとも思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
目覚めても俺は美少女のままだった。
俺は、スマホで時間を確認すると、桃に電話をかけた。
すると、桃からこんな情報が得られた。
「武くん、昨日はどうしたのぉ?」
「ん?何が?」
「何が……ってぇ。電話しても全然出てくれなかったじゃなぁい」
俺は、「?」マークを飛ばしながら、考えた。スマホを起動させる際に確認したのだが、不在着信の表示は全く通知されていなかったのだ。
「……もしかして、俺から電話をかけないと繋がらないってことか!?」
「あー……そうかもねぇ」
未だに、このゲームの中の世界と、現実世界の架け橋である、このスマホのことは仕組みがよくわからない。
そして、桃からこんな発言があった。
「武くん、そろそろ出会ったぁ?」
「ん?キラのことか?」
「キラって……まあそれは後でいいけどぉ、イケメンに、よぉ」
イケメン?俺は、首をかしげた。キラは美少女だったが、イケメンというイケメンには未だに出会っていないからだ。
「それって、もしかして『攻略対象』ってやつか?そいつとくっつけば女主人公を攻略できるってやつ?」
「そうそう。モブとイケメンとは全然輝き方が違うから、すぐわかるわよぉ」
桃と少し話したが、わかったことは、「俺が自分で電話をしないと、現実世界からは電話が通じない」ということと、「どうやら俺はこれから攻略対象のイケメンと出会うらしい」ということだった。
「イケメンねえ……」
俺は、通話を切ってから、考え込んだ。イケメンということは、当然だが相手は男だと言うことだ。今の俺は、外見こそ美少女だが、中身は落ちぶれホストの成人男子だ。
あと、それにしても……。
「女の子って、ホント性欲薄いのな……」
俺は、若い成人男性で、もちろん健康体だったので、朝になるとうっかり下半身が反応していることもあった。しかし、女の体は起床してもうんともすんとも言わない。
まだ、この体になってから、性欲という性欲が起きなかったので、客の女の子達が全員体目当てでなかったのは、男と女の性欲の違いだったんだなと感じた。
――朝食を取ってから、俺は館内を歩いた。やたらとでかいこの建物の内部を、少しでも覚えておこうと思ったからだ。
すると、玄関から声が聞こえてきた。
「困るんだよな。何度持ってこられても」
「……すみません。でも、一点でも良いので買って貰えないでしょうか……?」
俺は、聞き耳を立てた。話の内容から察するに、どうやら絵描きが自分の描いた絵を売り込みに来ているようだ。
「帰ってくれないか。君の絵は、館に飾る気すらしない」
そして、意外にも、あの親父が、オタク口調ではなく、威厳のある厳つい顔で眉をしかめているのだった。娘の前だけ、ああいうオタクの口調なのか……。
そっと、絵描きの顔を覗き見ると……俺は眼球を弾かれたのかと思った。
キラキラしている。桃の言った通り、その男の周りだけ、明らかにキラキラしている。
これが『攻略対象』か……!と考えた直後、俺は動いていた。
「あら。ちょうど部屋に一枚、絵が欲しいって思ってたの」
俺が姿を現すと、男二人がはっと息をのんだ。俺は今日は胸の開いた服を着ており、その巨乳っぷりを最大限に活かしていた。男なんて、所詮はおっぱいの魔力には勝てないんだよ。
そのキラキラ男は、淡いロングストレートの髪をしている。
顔はいかにも大人しげで、一見すると女のようでもある。俺は、こいつは押せば簡単に攻略できるかもしれない、と値踏みした。
「ねえお父様、私がお小遣いで買うから~ねえ~」
「フォカヌポ……ごほん。い、いや、オリヴィエ。男は狼なんだぞ?何だその胸の開いた服は。危ないから、あっちに行っていなさい」
そう言いつつ、親父は俺の胸元に手を伸ばし、胸の所だけ開いたボタンをなんとか閉めようとし始めた。しかし、それは無理な話で、逆に閉めようとしたボタンが男二人の目の前でばいん、とはじけ飛んだ。
「きゃっ!お父様のエッチ!」
「い、いや、違う!私はボタンを閉めようと……き、君はもう帰りなさい!」
そう、絵描きの青年に言うと、俺はこの機会を逃さずに、と絵描きの青年の前にずずいと出た。
「初めまして。俺……いや、私はここの娘で、オリヴィエといいます。あなたのお名前は?」
「あ……俺は、パリスといいます……絵描きです……」
パリスは、そう名乗ると、ほんのりと頬を紅潮させた。俺の胸が気になるらしい。そうだよ!男って顔は多少ブスでも、体が良けれりゃなんとかなるんだ。「巨乳」が世の男達の性癖で一番メジャーなのが、それを物語っている。「ブス巨乳」なんてジャンルもあるしな。
それが、俺は今、顔も体も完璧な令嬢様ときたもんだ。もはや落とせない男などいないだろう。
「パリスさん、是非絵を一枚買わせていただくわ。……うわあ、素敵な絵ね」
俺は、芸術のことはよくわからないが、パリスの絵は緻密で繊細な、素人の俺から見ても「上手い」とわかる絵だった。これで、前衛絵画みたいなのが出てきたらどうしようかと思ったのだが、幸いにもパリスの絵はそういった連中の絵とは違うようだ。
「うん、これを頂くわ。で、パリスさん、お電話は持っていらっしゃる?」
俺がそう聞くと、パリスは驚いた顔をしたが、おそるおそる「はい。良かったら、こちらに」と、名刺を渡してきた。
「また絵を買わせて頂くわ。ありがとう」
そう言って、ぺこりと頭を下げると、パリスは慌てたそぶりで、「オリヴィエ様、お胸が……」と、目をそらしながら言った。俺は、今気づいたそぶりで「きゃっ!」と声を上げて、胸を隠す仕草をした。
なんだ、楽勝じゃん。やっぱ男って巨乳に弱いのな。
そう思っていられるのも、今のうちだったのだが――。




