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悪役令嬢の金の稼ぎ方

 俺の頭は破裂しそうだ。

 主人公って誰だ?ってゆーか、そもそもその主人公を落とすために男と恋愛しなきゃいけないなんて、この世界のルールは現実社会より腐っている。


「ちなみに、主人公は女性です」

「そーゆー問題じゃねーんだよハゲ」

 俺は、どっかと調度品の椅子に腰掛けた。少女の体だからか、高級な家具だからか、乱暴に腰掛けてもさほど尻に痛みを感じなかった。

「ハゲてはいません」

「ちげーよ。もういいから。要は、女主人公を落とすんだな?で、それには誰でも良いから男とくっつかないといけないと」

「誰でも良い訳ではありません。主要キャラのみです」

「どうでもいいわ。俺にとっちゃ男って時点でどれも同じだわ。……いいだろう。恋愛のプロのテクニックを見せて、1週間以内に元の世界に帰ってやるからな!」

「1週間では早すぎます。主要キャラ一人に絞っても、好感度が全然足りません」

「だからその好感度って何だよ。あーもーいい。便所行ってくるわ」


 実は、さっきからずっと我慢していたのが、尿意だった。俺は椅子から立ち上がり、ドアを開ける。……しかし、すぐに振り向いて、執事とメイドにぎこちない笑みを浮かべて言った。

「……便所、どこ?」


――それにしても。

 これまた広い、東京のワンルームアパートくらいはあるであろう便所で、俺は気がついた。

 俺は今、美少女だ。しかも、どんなジュニアアイドルでも敵わないくらいの、完璧な美少女だ。その美少女が、排泄を、するのだ。排泄する一部始終を、来て見て触るのだ。

 俺は、脂汗を流した。セックス自体は何度も経験したし、どんな美女でも屁をこくことはある。しかし、俺は女が排泄する姿を見たことがない。そういう趣味は全くなかったからだ。


 正直、この世界の調度品から考えて、ぼっとん便所だったらどうしようかとも危惧していたが、幸いにも清潔そうな水洗の、俺の歯よりも白く磨かれた便器がそこにあった。


 いや、今は俺自身の問題だ。たっぷり5分ほどだだっ広いトイレで悩んでから、俺は尿意が限界を突破しそうな勢いを感じ、ついにガウンの裾に手をかけた。ショーツを下ろして、用を足す。


 ……何が何とは言わないが、この上なく敗北した気分だった。下ろしたショーツが、幼さの抜けない美少女には不似合いなたっぷりなレースで編まれたショーツだったのだが、それに対する興奮も何もなかった。屈辱だった。


 いつまでも便座と仲良くしているわけにもいかず、俺は立ち上がり、後の処理をして、併設された蛇口から出た水で手を洗う。ついでに顔も洗いたかったが、さすがに広いとはいえ便所で顔を洗うのは気が引けた。

 俺は、売れないホストの頃から、ユニットバスだけはかたくなに拒否していた。便所と風呂を一緒にするというのは、悪しき習慣だとすら思っている。


 それにしても、水道は通ってるんだな、とぼんやりと考えた。

 俺……いや、オリヴィエの格好や部屋の感じからすると、中世ヨーロッパの世界観に見えたが、これは認識を改める必要があるかもしれない。


 しかし、すぐに敗北感は再び訪れる。

「……大の時はどうすんだ……?」

 そう独りごちると、憂鬱度はさらに増した。俺は別に、どこかのアイドルのように「美少女はうんこしません」と言うつもりはない。美少女だろうと美女だろうと、元の俺と同じように、小便もうんこもする。しかし、その場面を見たことがないので、自分がいざ美少女という立場になると、何故かうんこや小便をするのが屈辱に感じるのだった。


 便所から戻ると、執事は既にいなくなっていて、メイドだけが部屋に残されていた。

「夕食の時間になりました。私の後についてきてください、館内は広いですから、そのつもりで」

 つまり、食堂の位置を覚えろということだ。俺は、うなずいて、大人しくメイドに付き従った。


――食堂。

 無駄に長いテーブルの端と箸に、俺が見栄を張る時によく訪れた高級レストランのようなテーブルセッティングがなされていた。

 そして、俺と対極に、やたらと威厳のある、厳しそうな男が座っていた。

 誰か、大物俳優とやらにも似ている威圧感だ。


 しかし――。


「フォカヌポゥ!お、オリヴィエ、今日は部屋で食べたりしないのですな!良い子だ!オリヴィエは本当に良い子ですな!ぐふふっ」


 キャラが濃すぎる。何だこのオタクオヤジ。


「旦那様です」

 メイドがこそっと俺に耳打ちする。つまり、これが俺、オリヴィエの親父というわけだ。……知りたくなかった。


「あ、お、お父様。お父様に会えてとてもうれし――」

 そこまで、営業用の笑顔で答えると同時に、その親父は一瞬で俺の横に移動し、俺を力一杯抱きしめた。

「ぬぴょ~~~!!オリヴィエが18文字も喋ったでござる!!こんな奇跡は初めてですぞ~~~!!!そりゃあ、幼少期はお父様お父様ってくっついてきたものですがな!!奇跡!奇跡ですぞ!!!」


 ……ホントになんだこのオヤジ、本当に豪商として名を馳せる俺の親なのか?

「お金ですかな!?お小遣いですかな!?ん?いくら要るんだい?」

 そう言っておもむろに財布を開けたところで、俺はホストならではの手腕を発揮する。

「……えっと。本当は100万要るんだけど、お父様に会えてとっても嬉しいから、半分の50万でいいわ。私が我慢すれば良いから……」

 そう、上目遣いで親父を見つめると、親父は頭から煙が出そうなほど興奮しだした。


「50万んんんん!!オリヴィエが我慢することなんて何にもないのだ!!よし、100万あげちゃいますぞ!!何でも好きな物を買うと良いのです!!」

 なるほど、悪役令嬢の場合、こうやって金策をするわけだ。俺は、金策の知識を手に入れた。

 てゆーか、こういう親父だから、オリヴィエ本人は話をしなくなったのではないだろうか?やっぱり親父が悪いのではないのだろうか?


 ……この世界の円が、ジンバブエの超デフレと同じく、100万が10円の価値だったら、俺は死ねると思った。俺の客にも、ゲイの客はいたが、こんなに過剰なボディタッチをするやつはいなかったぞ?超うぜー親父の相手して10円だったら、泣けと言われれば泣けた。


 何、俺の手腕にかかれば、この分だと金はいくらでも巻き上げられそうだ。金があれば、女はころっと落ちる。多分、それは男相手でも同じだ。


 そう思っていたのだ。おそらく、この考えが俺がホストとして落ちぶれた現状とリンクするのだろう。ホストとキャバ嬢は似ているようで全く違う人種を相手しているのだから――。

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