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秘密の共有

――悪役令嬢になってるのよぉ――


 そんな、桃の言葉がぐらぐらと頭を回る。馬鹿な。しかし、何度鏡の前に立っても、俺は10代半ばの美少女のままだった。声だって、ちょっと生意気そうな、いわゆる声優って職業のやつらが出すような、甘ったるい声だ。


「じゃあなんで、体が重いんだよ!?」

 そう、スマホの向こうの桃に聞いたが、桃の答えは、

「さあ?多分、男の子と女の子の体ってちがうのよぉ」

 と言うだけだった。なんの解決にもなっていない。


「で、ここからはマジな話なんだけどぉ。たけるくん、良く聞いてねぇ?」

 と、桃は少し声をひそめた。そうだ。桃の癖は、マジ話になるといつものキャンキャン声ではなく、声を低くするのだった。


「その部屋から出ると、部屋の前に執事が立ってるんだけどぉ。その執事に聞けば、武くんの飛ばされたゲームの世界のことを何でも教えてくれるわぁ。とっても優秀な執事だから、大抵のことはその人に頼めばなんとかなると思う。どんなに汚い手でもねぇ」


 桃は、そこまで言って、一呼吸置いた。俺は、桃が本当のマジ話をしていることを感じる。

「次に、食堂にはメイドがいるわぁ。メイドは、生活のこと全般をしてくれるし、これもキレッキレで頼りになるから、好感度を上げておくといいわぁ」

「ちょっと待て。『好感度』って何だ?」

 と、俺が口を挟むと、桃は「むう」と言って、仕方なさそうに息を吐く。

「好感度っていうのはぁ、まめに話しかけたり、時々プレゼントを贈ったりすることねぇ。チップを上げるのもいいわぁ」

「チップって。俺、財布もカードも持ってないぞ?」

「お金は、部屋から一回出て、また入れば確認できるわぁ。ステータス画面……って、どう説明すればいいのかしらねぇ?」


 俺は、急に金のことで頭がいっぱいになりだした。こんな豪邸……まだ部屋から一歩も出ていないが……に住んでいるくらいだから、たんまり持っていそうだ、と考える。ホストの職業病かもしれないし、普通の人間でもそうなるのかもしれないが、少なくとも俺は気になっている。


「あと、今説明した二人には、あなたが武くんだって話しておいた方がもっとスムーズに進むかもねぇ。自己紹介をする必要はないけど、今は『悪役令嬢』じゃないって言っておいた方がいいかもぉ」

「話しちゃって、平気なのか-?なんか怪しいな-?」

「大丈夫よぉ。二人はそれぞれご褒美を与えれば、基本的に何でも言うことを聞くわぁ」


 俺は、そこで首をひねった。

「ご褒美って何だ?」

「聖歌隊やストリートチルドレンの活きの良いショタと、占いとかオカルトグッズ」

「…………」

 俺は、正直めまいがした。ホストになってから多少免疫がついたものの、さすがに完璧な執事とメイドがショタコンとオカルトマニアだという衝撃がダブルで来ると、なかなかのものだった。


「あと、この人には絶対中身が武くんだってばれたらいけないのが、お父様ねぇ」

「……まあ、自分の娘が中身がチャラ男にすり替わってたらまともな親はショック受けるだろうな」

「んー。とにかく、武くん、頑張ってねぇ~」


 会話が勝手に終わりそうだったので、俺は必死になった。今、俺が頼れるのは、ゲームをプレイしたことがあるであろう桃しかいないのだ。

「待てよ!いや、待ってくださいお願いします!もし、このゲームの世界から脱出できる目標があったら……!」

「あたし、そろそろ出勤だからぁ。ばいば~い」


 そう言い残して、桃との電話は切れた。

 その後、一応メールやlineも試したが、どうやら使えるのは通話のみで、その他のアプリに関しては起動すらできない。

 

 俺は、仕方なく、例の執事とメイドとやらに会いに行くことにした。


 


――執事は、部屋を出てすぐの廊下に立っていた。

 しかし……でかい。執事というと、一応細マッチョで身長も170以上はある俺が、本能的に「あ、殺される」と思うレベルだ。これはテレビで観たことがある。屈強なマッチョがぶつかり合う、海外のラグビーの試合で、だ。


「オリヴィエ様、もうすぐ夕食の支度が整います」

 めっちゃ良い声でそう言われ、逆に「こいつがショタコンの……」という気になり、尻がきゅんとしたが、そもそも今の俺はか弱き美少女であることを思い出し、少し安堵した。

「執事。命令だ!すぐにメイドを呼んでこい!」

 そう言うと、執事は少し戸惑ったようで、眉間にしわを寄せたが、ややあって

「呼んで参りますので、少々お待ちください」

 と言い残すと、そのまま去って行った。


 このまま待っているのも何なので、部屋に入ると、仮想空間?というか、フローティング式?のような半透明のボタンが現れた。「残り残高」と書いてあるので、それを押すと、10万円、と出てきた。ちっ、微妙にしょぼいな、このガキ何に使い込みやがった、と思った。しかし、そもそも落ちぶれたとはいえ水商売であるホストと、中学生くらいのガキとの金銭感覚は違うのかもしれない、と思い直す。


 そして、気づいた。

「俺、オリヴィエって名前なんだ……」

 どうしても、武、と呼ばれていないと、そのうち自分の名前すら忘れる気がする。


 スマホをいじることもできないので、俺は正直、このオリヴィエというガキが普段何が楽しくてこんな生活をしているのかすらわからなくなってきた。スマホをいじりたい。インターネットがしたい。テレビだって観たい。


 そう思っていると、ドアがノックされ、俺は「どうぞ!」と声をかけた。


 すると、さっきの執事と、眼鏡をかけたちょっとエロい、女教師みたいな女が現れた。これが例のメイドだろう。

 メイドは両手で十字のマークがついた箱を持っていた。

「お体、失礼します」

 そう言うと、俺のガウンを両手で開ける。少女の割りにたわわな胸が生で露出された。風呂でも着替えでもないのに。おっぱいが。

「……お熱はなさそうですね。オリヴィエ様、頭を打ったりはしませんでしたか?」

 そう言われ、これは医療行為なのだとやっと俺は気づいた。しかし、メイドの口調はあくまで平坦だ。本気で心配しているようにはとても思えない。義務だからやっているという感じだった。


 

――ちょうど良いチャンスだったので、俺は、これまでのことをかいつまんで話した。

 二人は、俺が話している間、身動きもせず、ただじっと話が終わるまで待っていた。


「――ということで、今の俺は『オリヴィエ様』じゃなくて『ホストの武』なんだよ」

 そう締めくくっても、メイドに至っては「はあ」という返事しかせず、執事は無言だった。


 しばらくすると、執事は「なるほど……」と顎に手を当てた。

「オリヴィエ様の傲岸不遜な……失礼、この家にふさわしい態度とは変わっていたので、ご病気かと思った次第です」

 俺も大概言葉の品は良くないが、あれでマシな方だったら、普段執事にはどんな態度を取っていたのかも気になった。

「ご病気でなくて何よりです」

 と、メイドは杓子定規な言葉を口にした。お前、もっと何か言うことあるだろ。


「それでも、我々は普段通り『オリヴィエ様』とお呼びします。この家は見ての通り、豪商である旦那様のものです。故に、秘密が漏れるとも考えられます」

 俺は、そこで冷や水をぶっかけられた気持ちになった。秘密。俺が枕営業をしているとばらしたヤツが、元の世界にはいるのだ。


「旦那様には、言わない方が良いですね」

 メイドはそう言うと、ようやく人間らしく「はあ……」とため息を吐いた。

「さて、オリヴィエ様のおっしゃる、元の世界に戻る方法ですが……」

 執事はそう言うと、


――「ずばり、数多くの男性から一人を選び出し、その一人を『攻略』すること。そして、その上で、オリヴィエ様の元の世界で言う『隠しキャラ』である『主人公』を攻略することです」

 と告げた。


 主人公を……攻略?いや、その前に、「男性」を攻略……!?俺、男だけど!?

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