夢を諦めないで
――夕食時。
「オリヴィエちゃん、明日は新しいお洋服作ろうねえ!!」
親父が、ニコニコと笑いながら言う。俺は、「え?」と、間抜けな声を出した。
「……なんかあるのでしょうか?」
そう聞くと、親父は素っ頓狂な声で、
「ファッ!?3日後はオリヴィエちゃんの15歳の誕生日じゃないですかああ!!忘れちゃったの!?この間、執事とメイドが気絶させたのが悪かったのかなっ!?まだ痛い痛いしてる!?お医者さん行く!?執事もメイドも解雇して……」
と、暴走しそうだったので、俺は
「あ、ああそうでしたね!大丈夫です!今思い出しました!!」
と元気に答えてみせる。全く、やることなすこと派手な親父だ。
「あ、でも、服を作るってことは、パーティかなんか……?」
と聞くと、親父は、何故か自分のことのように、
「15歳の成人パーティなのです!!VIPもいっぱい来るから、オリヴィエちゃんもおめかししないとねっ!!」
と胸を張って見せた。俺は、「はあ……VIPねえ……」と、出されたオレンジジュースに口を付ける。
「オリヴィエちゃんも大人になるから、パパが良いお婿さん見つけてあげるからねえ……。オリヴィエちゃんの花嫁姿を見るのがパパの夢……あ!あ!!でも、オリヴィエちゃんがお嫁さんになっちゃう……!?オリヴィエちゃんが、パパのものじゃなくな……うにゃああああああああああ!!ぎゃああああああ!!ふぎゃあああああああああああ!!」
と、親父は今日もテンションおかしいが、これにも慣れた。親父は机に突っ伏して叫んでいるが、こんなんが豪商で良いのか、この街。
「お父様。婿は必要ありません」
俺が言うと、がばっ、と親父は起き上がる。
「なして!?何故!????恋愛しちゃってるのかな!?好きな人できちゃったのかなっ!?で、でも、良いお婿さん見つけた後でも、愛人にすればいいし!!結婚してからも恋愛は自由にすればいいしっ!!」
と、結構最低なことを、普通に言ってのける親父。……こんな倫理観だから、キラの母親も狂ったんだよ。
「オリヴィエちゃん、実はもう、良いお話がきてるでござるよ。ぐふふっ。公爵夫人の一人息子で……」
そこで、親父がペラペラと語り出す。俺は、ため息をついて、目の前の料理に再び手を付ける。
「名前は……グランドさんっていうんだけどねえ。結構なイケメンでねえ」
……俺は、そこで、ナイフを止めた。
「は?グランド?グランドって、あの海賊団の?」
俺が言うと、親父はぐふふ、と笑い、
「海賊団は、ただのあ・そ・び。公爵夫人がそう言ってたもん!ほら、若いときは皆、そういうことあるでしょー?でも、結婚すればきっと落ち着いてくれるって夫人も言うし、オリヴィエちゃんも、公爵家に嫁いだら、今よりもーっと楽できるからね!!」
と、得意げに言う。
グランドは……公爵家の息子!?俺は、歴史とかあんまり知らないんだけど、公爵って結構な階級じゃねーの!?と思い出した。
頭がくらくらしている俺を見て、メイドが「お口に合いませんでしょうか?」と聞いてくるが、そういう場合じゃねーよ!食事の味なんて、今ので一発で吹き飛んだわ!!
――夕食後、俺はいてもたってもいられず、グランドに電話をかけた。
「どういうことだよ!?お前が結婚してただけじゃなくて、公爵家の息子とか!!」
いきなり俺にそう問われ、グランドは「落ち着け。俺もお母様からさっき聞いた」となだめるように言う。
「仕方ないだろ。お前の親父さんとお母様が決めたことだ」
「海賊団はどうするんだよ!あいつら、あんなにお前のこと慕ってるのに、『やーめた』で終わるのかよ!?」
俺がそう言うと、グランドは一瞬言葉に詰まる。
「……海賊団は、一人一人就職先見つけて解散させてやるよ。お嬢様が心配することじゃない。俺が全部カタをつける」
「だって……また、知らない土地に行ってみたいんだろ!?何を犠牲にしても、その冒険心だけは抑えられないって言ってたじゃねーか!俺、必死で考えて、長期航海できるようにって思ってたんだぜ!?俺馬鹿だけど、考えたんだ!」
グランドは、しばらく黙って俺の話を聞いた。俺は、それに焦れて、続ける。
「なあ、グランド。俺、こういう形でお前と一緒になるの、嫌だよ……。そりゃあ、お前と一緒になれたらって考えるけど、全部親がレール敷いてくれて、俺らはその上のトロッコに乗ってるだけってのは嫌なんだ。だって、トロッコから落ちたら、親は俺らのせいにするんだぜ?『レール敷いてやったのに、何が不満なんだ』って。そういう経験、お前にもあるだろ?グランド……」
最後の方は、崩れ落ちるように、俺は言う。グランドは、ため息をついて、「ああ」と返事をした。
「だが、仕方ない。前の妻との結婚は、お母様に反対されての結婚だったんだ。反対されて結婚して、あの最期を迎えた。妻は死んで、俺だけが残った。だから、今度は反対されないだけでもマシだろ?」
グランドにそう言われ、俺は、悔しくて悔しくて涙をぼろぼろと流した。
「お前はそれで良いのかよ……!家とか、親とか、そういうの全部嫌で海賊になったんだろ……?俺のことはどうでもいいからさ、お前の好きなようにしろよ、グランド……!」
グランドの答えは、
「俺は、お前と結婚して、公爵家を継ぐ。だから、お前も未来の公爵夫人として、しっかりやってもらいたい」
……だった。
「……っ!見損なった、グランド……!」
俺がそう言うと、グランドは、
「パーティ会場で会おう、オリヴィエ。あんまり泣いたりするなよ。じゃあ、またな」
と、電話を切った。
「なんでそんな簡単に、夢を諦められるんだ……!」
俺は、泣きながら、その場にうずくまっていた……。




