グランドルートに突入したが、過去が酷い
海で、グランドと別れた俺は、館に戻った。
しばらく自室でのんびり過ごしていると、コツコツ、とバルコニーからノック音が聞こえる。
「……来ると思ってたのよね」
バルコニーのカーテンを開け、サッシを開けると、ドリードが顔を出した。
「よ。キラの件、どうなったかと思って!」
と、ドリードは人なつっこい笑顔を見せた。
「……そんなに楽しくない結果になったよ?」
と、俺は苦い顔をした。
そして、俺は、昨日の夜の話を、デリケートなところはぼかして話した。
ドリードは、「うーん」とうなりながら話を聞くと、
「まあ、噂とそう変わらない真実だな」
と答える。
「噂になってるくらいなら、なんで私に聞いたのよ」
と、俺が言うと、
「悪い。噂とすりあわせる必要があったんだ。あんたの親父さんが本当のこと言ってるとも思えないだろ?誰だって都合の悪い部分は隠したがるからな。でも、その分だと、親父さん、あんたにはちゃんと真実を言ってるみたいだ」
ドリードは、しばらく考えているようだった。
やがて、口を開くと、
「あんたとキラは、異母姉妹になるわけだ……」
と、漏らした。
「悪かったね、こんなのが妹で」
俺がちょっと気分を害して言うと、
「あああ。そう言いたいんじゃないんだ、ごめん。でも、ちゃんと親父さんに言ってくれて、嬉しいよ。勇気要っただろ。ありがとな」
と、白い歯を見せながら笑った。
「キラは、もうラボに?」
と、俺が聞くと、
「そう。あの子早起きだからな。遅く寝て早く起きるんだ。何をそんなに生き急いでるんだって思うけど、多分何かしてないと嫌なんだろ。自分の唯一の母親は刑務所で、自分の父親は住むところも食事も与えてくれるが、必要最低限だし。それで、妹は父親に甘やかされてんだ。よく曲がらずに生きて来られたって思うぜ」
と、ドリードは悔しそうに歯がみする。
「……ドリード、もしかして、キラのこと好きなの?」
俺がそう聞くと、ドリードは急に慌てだして
「いやいやいやいや。そういうわけじゃねーけどさ!ホントそういうわけじゃねーんだよ!」
と、否定してみせる。でも、顔が真っ赤だ。
「ふーん。私は、ドリードみたいな人って、キラに合うと思うんだけどな」
と、俺が言うと、ドリードは、
「えっ!?本当にそう思うか?いやいや、参ったな~!そこまで言われちゃキラと付き合うっていうのも良いかもな~!」
と、わかりやすく上機嫌になる。
……俺は、「キラに最初に目を付けたのは俺だぞ」と、少し面白くない気持ちもあったが、逆に、ドリードだったら、キラは幸せになれるかもしれない、と思った。
……しかし、そう思ってしまった俺自身に、びっくりしていた。
――キラを諦めるってことは、この世界に留まるってことだぞ?良いのか?……と。
俺は、バルコニーの手すりにしがみつくようにうつぶせた。
「……逆に、私は、誰と付き合ったら幸せになると思う?」
そう、ドリードに問いかけると、彼は「そうだなあ……」と思案する。
「あ、パリスさんなんか良いんじゃないか?優しそうだし、絵描きってパトロンがいた方が良いっていうじゃん?」
と答えた。
「意地でもグランドとは言わないのね」
と俺が言うと、ドリードは、
「だってあいつ、危険そうじゃん……」
と言ってみせる。
「あなた、グランドの何を知ってるのよ」
俺は、口を尖らせて言った。ドリードは、少し驚いたようだ。
「グランドは優しいし、そりゃあ、出会ったときは最悪って思ったけど、笑うと可愛いし、繊細なところもあるし、何より私が私でいられるのよ。グランドは素敵な人よ」
俺がそう言うと、ドリードはぽかーんとして、それから、咳払いをする。
「……お嬢様、グランドに夢中なんだな」
そう言われ、俺はぱっと手すりから立ち上がる。
「別に夢中とかそういうんじゃないわ!」
そう言って、手すりに突っ伏して汚れた手と胸元を払う。
「……でも、それじゃあ、グランドとお嬢様の家のこと、聞いてないみたいだな」
と、ドリードが言う。俺は、驚いて振り返った。
「家のことって何!?まだ私の知らないことがあるっていうの!?」
ドリードは、落ち着き払って言う。
「グランドの妻は、お嬢様の親父さんに殺されたんだよ」
それからのことは、よく覚えていない。
ドリードを半狂乱で追い出すと、俺は、呆けてベッドにうつぶせになり、枕に顔を埋めた。
グランドは……俺だけのものじゃなかった。
そんなの知ってたはずなのに、いざ言葉にされてしまうと、死ぬほど落ち込んだ。
それと……
「親父に殺されたって……なんだよ……」
またあの親父がやらかしたのか。親父、死ぬほど失敗談持ってやがるな。
そう思いつつ、頭の中で親父が謝っている姿を思い描く。
「ごめんね、オリヴィエちゃん、本当にごめんね!」
……正直、親父を許せない部分もあるが、不思議と「親父じゃな……」と思ってしまうことも事実だ。多分、あの親父は人ったらしなんだろう。
「謝るのは、俺の方、か」
俺は、グランドに謝りたかった。そんな辛いこと抱えてたのに、気軽に「結婚する?」なんて聞いてごめん、と。
あの、グランドの、悲しそうな目は、そういう理由があったのだ。
あと、「親父がごめん」とも言いたい。奥さんがどんな理由で殺されたのかは知らないが、謝っておきたかった。親父の娘として。




