ドリードと話す。
――昼頃。
俺は、ようやく昼食をとって、それからまた天蓋付きベッドに横になった。出血のピークは過ぎたようだが、今度は腹が痛い。常に下痢をこらえているような痛みでもあり、実際、何回も便所に駆け込んだ。なんで、子宮のせいなのに、腸が連動するんだろうか。女の体はやっぱりよくわからない。
眠っている間にキラが薬を持ってきてくれたようで、ベッドサイドには「食事をとってからお飲みください」とだけの走り書きがしてあるメモ用紙と、茶色の漢方薬のような独特の匂いのある粉薬が置いてあった。
「キラのやつ、色気ねー手紙残しちゃって……」
俺はそう思ったが、まあ、薬剤師って理系女子だからな、多分。とよくわからない思考で考えて、昼食の粥を思い出していた。
なんと、そこには干しアワビが入っていたのだ。
豪華過ぎないか?と思いつつ、メイドにおそるおそる「これ、良いのか?」と聞くと、
「旦那様自らが用意するように言われました。生理の時は少しでも栄養のあるものを、と」
と、平坦な口調で言われた。どんだけ娘を甘やかせば気が済むんだ、あの親父。
というか、こっちの世界では、生理は風邪みたいなものなんだな。
誰も、生理を口にすることをためらわないし、いたわってくれる。元の世界の女も、こういう風に接してもらえたら良いのかもな、と思った。
そこで、俺は思考を今、に戻した。
「お嬢様、起きてらっしゃいましたか」
と、執事が近寄ってくる。そして、キラの残した薬を見ると、ため息をついた。
「……お嬢様。得体の知れない物を口にしないでください」
そう言いつつ、執事は水差しを手渡してくれた。執事はキラのことを知っているだろうが、執事とキラがどこまで親しいかは俺にもわからない。
「……ん。ごくん。」
俺は、キラの薬を飲み干した。
やはり、漢方のような苦甘い独特の味がする。
「まあ、『良薬は口に苦し』って言うからな」
そう言うと、俺は空になった水差しを執事に手渡した。
「そういえば、お嬢様がお休みになられている間、鼠がちょろちょろと現れたようですよ?」
そう言われ、俺は
「え!?キラは大丈夫なのか!?あんな屋根裏部屋なんかにいて、病気とか移されたら……!」
と、本気で心配してしまった。本当に、ペットではないネズミと暮らしているのでは?と思ってしまったのだ。
「……いえ。鼠とは、お嬢様の周りの男どものことですが」
執事はそう言い残して、水差しを片付けに行く。
「……そういえば、茶髪の鼠がいたような気もしますね」
と、言い捨てていった。俺は、誰のことか考えていた。
すると、
コンコン、と、外からノックする音が聞こえた。ドアではなく、ベランダ……オシャレに言うとバルコニーからだ。
はじめは気のせいかと思っていたが、頻繁にコンコン、と音がするので、俺はバルコニーのカーテンを開け、サッシを開けてバルコニーに降りた。
「よ。オリヴィエ様」
そこには、「ドリード義賊団団長」の、ドリードその人がいた。茶髪にハシバミ色の目をした、どこかジャニーズ系の幼さを残した顔立ちだ。
「ドリード、ここ二階じゃ……!」
「大丈夫大丈夫。豪邸に忍び込むのは俺らプロの仕事だからね」
そう言うと、ドリードは急に「でもさ」と、声をひそめた。
「ここら辺の美味しいカフェにでも連れて行こうと思ってたんだけど、生理じゃあね。お腹温かくしてる?」
そう、男性であるドリードに言われ、俺は顔から火が出そうだった。
こっちの世界のやつら、マジで生理を風邪扱いしやがる!ドリードだって、「風邪引いたみたいだからお見舞い♪」って感じで訪ねてきたんだろう。
……ここで、はたと、「いや、俺も男じゃん」と気づいた。いかんいかん。体は女でも、俺は男。それを忘れないようにしなければ。
「……でもさ。オリヴィエ様って、変わったよね」
そう言われ、俺は内心ぎくっとしながら、
「え、ど、どこが?」
とどもりながら答える。
「だって、昔俺が見たオリヴィエ様は、もっとこう……近寄りがたいっていうか……悪のお嬢様!!って感じだったよ」
そう言われ、俺は「今はお嬢様!って感じじゃないのか……」と内心思った。
「い、イメチェンかなあ~??」
そう、俺が言うと、ドリードは
「え~?じゃあ、イメチェン成功ってやつだね!俺、今のオリヴィエ様の方がすごく好き!街の皆も、そう言ってるよ」
とさらっとナチュラルに「好き」と言ってみせた。
俺は、「こいつ、ホストの才能あるかもな」と値踏みした。
トークも途切れないし、人の懐に入り込む天性の才能もある。男の俺だったら、絶対友達になってたな、と思った。
ふと気づくと、ドリードは俺の髪を一房つまんでいた。
「……あ、ごめんごめん、綺麗な髪だからさ!」
ドリードも、つい触ってしまったようで、ぱっと手を放して言う。
「キラみたいなストレートへアも良いけど、オリヴィエ様みたいなウェーブヘアも良いよね」
そう言われ、俺は気づいた。
「ん?ドリード、キラと会ったことあるの?」
そう訊ねると、ドリードは
「ここのお屋敷に住んでるんだろ?若いのに偉いよねえ、苦労しちゃってさ。俺ら、よく怪我とかするから、傷薬とか化膿止め買いに行くんだ」
と何事もなく言ってみせた。
そして、
「……ねえ。オリヴィエ様から、親父さんに、キラの待遇良くするようにお願いして貰えないかな?……俺らの力じゃ、薬買うぐらいが精一杯だし……」
と、バルコニーの手すりにもたれて言った。
「私から……?うーん……言っても良いけど、あんまり期待はしないでよ?」
と、俺は答える。正直、あの俺にはデレデレ親父でも、キラのことは言いにくいんだよな……。なんか、空気的にな……。
「ホント!?じゃあ、親父さんによろしくな!俺、もう行くからさ。じゃあ、お大事に!」
そう言うと、ドリードはひらりと二階から飛び降りた。「あっ」と俺は声を上げ、手すりから身を乗り出して見ると、ドリードは華麗に着地し、俺の方を振り返って、手を振って去って行った。
「……あいつ、ホント去り際がかっこいいんだよな!!」
俺は、マジであの去り際を伝授して、現実に戻ったら使いたくなっていた。




