女性の体
東の空がうっすらと明けてきた頃、俺とキラは家路についた。
俺は、あんなに散々なことが色々あったにもかかわらず、ほとんど眠気を感じることがなかった。オリヴィエの体になってから、なんとか夜に眠る習慣はできつつあったが、今日で全ておじゃんになりそうだ。
「うう……」
俺は、腹をさすった。腹が痛い。それと、中腰でいると、何かが中からどろっと出てくる感じがする。頭もクラクラしてきた。排泄を我慢しているような状態で、ぐるぐると腹が音を立てる。なんだよ!おまえ(腸)は関係ないだろ!!
「オリヴィエ様、お顔が真っ青ですよ?」
キラが、戻った屋根裏部屋で、俺の顔をのぞき込んだ。
俺は、恥ずかしさもあってか、「いや、ちょっと……」と言葉を濁す。
「ごめんなさい、私が採集なんて手伝わせちゃったからでしょうか?」
そう言われたが、俺は首を振った。
「な……なんか……ボディブローされて、その余韻がずっと残ってる……みたいにお腹が痛くて……」
あはは、と誤魔化しながらも、俺は症状を伝える。キラは、「あ」と小さく声を上げて、
「もしかして……来ちゃったのではないでしょうか?」
と、俺に伝えた。
「来ちゃったというか、来てたんだけど……」
そう言うと、キラは珍しく厳しい顔で
「だめです!」
と、きっぱりと言った。
「生理のときは、ちゃんと暖かくして安静にしてください!ちゃんとしないと、将来元気な赤ちゃん産めませんよ!」
……なんで俺、怒られてるんだろう?
「大丈夫だって。女性だって、生理痛我慢して職場に来てたりするし……」
と俺が言うと、キラは首をかしげた。
「来ませんよ?」
「は?」
「生理中、女性は仕事なんかしませんよ?」
そうなの?
「え、まさか、オリヴィエ様ご存じないのですか?他の街は知りませんが、ここの街では、生理3日目まで、有給休暇が認められているのですよ?」
そう、キラに言われ、俺は「なるほど、この世界の話ね……」と納得した。ずいぶんと女に甘い街だと思ったが、そもそも俺がいるのは、乙女ゲームの世界。女に甘いのも当然だった。
「オリヴィエ様、笑い事ではありませんよ!?生理は、女性にとって大事なこと。ちゃんとお腹を温めながら、寝てください!あまり痛みが激しいようなら、お医者様にかかることになりますからね!」
キラは、そう言うと、「そうだ」と手を合わせた。
「ラボに戻ったら、お薬を持ってきます。鎮痛剤ではありませんが、生理時の症状を抑える働きをする薬ですから。本当に、痛みが激しかったらお医者様に行ってくださいね!」
キラは、怖い顔でそう念を押して、俺が上がってきたはしごとは別のはしごを降りて行ってしまった。
「安静にしてろっていわれてもな~……」
俺は、はしごを降りると、ベッドに倒れ込んで、腹をさすった。
一応、言われた通りに、腹に毛布をかける。この時期、まだまだ暑いくらいだったが、耐えられないほどの暑さではなかった。
しかし……
「キラ……怒った顔も可愛かったなあ……」
俺は、不謹慎にも、そう感じていた。それと、自分が心配されている、という満足感でいっぱいになって、おれは顔がにやけるのを止められなかった。
俺も大概の美少女だが、キラもまたタイプの違う美少女である。
そんな美少女に、構って貰えるというのは、俺にとってはこの上ない幸福だった。
ふと、俺は、気づく。
「あ、ナプキン替えねーと……」
もう、最後に替えてから3時間はとうに経っている。
俺は、メイドから貰った厚手のナプキンを手に、トイレに駆け込んだ。……ついでに用を足す。用を足すのは、大でも小でももう慣れた。美少女もうんこはするんだよ。
しかし……
「おうふ……」
俺は、生理の症状とは別に、めまいがした。ナプキンの中の出血量が、明らかに増えている。これ、大丈夫なのか?普通なのか?ってくらいに、ナプキンの受け止める血の量はたぷんたぷんだった。
「これ、多い日ってやつか……」
俺は、なんとか端っこをつまんでナプキンを取ると、清潔な真っ白のナプキンに替える。使い終えたナプキンは、くるくると丸めて、それを新しいナプキンから剥がした包装紙とトイレットペーパーで包んで捨てた。これも、メイドに教えて貰った通りの処理方法だった。
……いやこれきついな。
ビジュアルもきついが、自分が大量出血してるって思うと、それだけで貧血になりそうだ。
俺は、便所から出ると、自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がった。
寝転がったことで広がった髪を、何となく一房手に取る。
「……そろそろ、髪も洗わねーとな……」
俺がホストをしていた頃も、髪は普通の男より伸びていたが、オリヴィエの髪は背中まであるほどのロングヘアだ。一体シャンプーを何回押せば洗えるのかが今のところの疑問だった。
男がよく「やっぱり女はロングヘア」と言うが、そのロングヘアを保つためにはそれなりの努力があるのだ。
実際、俺がオリヴィエの体になってから、髪も肌も若干荒れてきた気がする。手入れの方法が良くないのだろうか。今度、執事かメイドに聞いてみることにする。
「あー、やっぱ女って大変だわ……」
俺は、そう呟くと、目を閉じた。
朝の光の中、俺は久しぶりにホスト時代のように、昼間寝る生活に一日だけ戻ったのだった。




