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オリジナル

[ハイファンタジー?]桜の木の下にて

作者: うたの

瀬を早み 岩にせかるる滝川の

われても末に 逢はむとぞ思う


世界の何にも興味のなかった、言われるがままに城を転々とする日々だった。

名も無く、輝きに彩られた私は、ただ崇められるばかりである。

力を抑えることを強制される日々はただただ、つまらなかった。

時はまさに昼であれども、黒い空が広がっている。

この世界に太陽はなく、星々の明かりで成り立っていた。


退屈を重ねた私はやがて遊戯を思いつく。

私でない私を作ることを思いついたのだ。

力の無い私。

それはとてもとても魅力的な言葉だった。

計画を実行に移すことにためらいはなく、すぐさま行動に移すことにする。



城からの使いということで国境の村に小さな私を派遣する。

駅から見える桜の木が有名だが、他は隣接した他国との間に建てられた国境を守る兵士がいるだけ。この地なら万が一にも誰かに見つかることは無いだろう。と踏んでのことだ。


最初に足を運ぶ場所はだいたい名所である。

ご多分に漏れず、桜の木を見上げる。

満開の桜が咲いている。

この世に一本しかない木を見つめ、その幹にそっと頬ずりをする。

「おんなじだね」

思わず口をこぼれ出た思いに、応える声がする。

「違うと思うよ?」

誰、と振り向くと、そこには優しそうな少年の姿がある。

桜の下に青々とした草原に寝転び、空を見つめていた。

「なんでそう思うの?」

怒りと恥ずかしさに少し口調がきつくなっているのを感じる。

「それはこいつが」、

幹に手を当て、擦るように動かした少年の手。

「伸びようとしていているからさ」

顔を見てみろ、と彼が行ったので、水場に行って自分の顔を見てみる。

なるほど不景気な顔をしていた。


「身の回りに気を付け無さすぎ」

気がつくと、川端で何故か説教を食らっていた。

「服は上等としても、髪とか顔とかもう少しなんとかならないのか」

くどくど怒られる。

でも、気がつくと、口元が綻んでいた。

「なんか可笑しいか?……」

「なんでもない」

「そうか……?」

(怒られるなんて、いつ振りだろう)

(対等に接するなんて初めてではないか?)

そんな彼女の思いを彼は知ることはないだろう。

「とりあえず髪を梳いて、肌をなんとかしよう」

櫛を取り出して、私の長い髪を梳いていく。

見えないことをいいことにサボっていたツケを露呈していた。

当然肌の手入れなんか自分でしたことがない。

だいたい見えないのだから、する必要を感じたことはなかったのだ。

なれた手付きで髪をキレイにすると、彼はいくつかの木の容れものを取り出した。

「それは?」

「植物で出来た保湿効果のあるものとか。化粧品と呼ばれるたぐいのものかな」

「かなり高い物だと思うけれど、何で持ってるの?」

「作った」

「は?」

「この桜の木はいろいろな恩恵をもたらしてくれる。その一つと言ったところかな」

「そうなのですか」

この世に一本しかない不思議の木とすれば、まぁ、そんなこともあるのだろう。と世間知らずだった私は納得した。

「最後にこれを振りかけておこう」

透明な瓶に入った薄桃色の液体を振りかける。

辺りに桜の花の匂いが漂うと、かすかな匂いだが落ち着いた心持ちになる。そんな香りだった。

「これで準備は万端と」

そういった瞬間、彼は人の悪い笑みを浮かべる。

「嫌な予感が……」

ちょっと引き気味の私に、彼は手を差し出してきた。

「どろんこになって遊ぶのも子供の仕事だろ?」

割り切りが大事だ。説教に入りそうなので、さっとその手を握って二人で丘を滑り降りていった。


「今日はここまでだな」

ひとしきり遊んで、夕焼けになってきた頃、彼はそう切り出した。

「もうちょっと遊んでいたい」

そんなふうにぐずる私に彼は真顔になって「帰れ」と言う。

「抜け出してきたことがバレてるだろうし、親も心配しているだろ?」

バカな娘でも親は可愛いと思うだろうし、くどくど説教が始まったので、貰った化粧品を手に、そそくさと退散することに。

でも、もうちょっとと思いに彼の声が応える。

「またな。だいたいここにいるから、会いたいときには来てもいいぞ」

(来てもいい)という言葉が少し胸に響いた。



私でない私が帰ってくるとすぐさま報告をしてもらう。

国境の村に行って、桜の木を見て、男の子に髪を梳いてもらって、化粧品を塗ってもらった。とのこと。

そういえばほのかに桜の香りがする。

隠しきれない微笑が止まらない彼女に私は彼女を自分とリンクさせた。

刹那、知らない感情が感じられる。

飢えていたつながりを、心の隙間を埋めそうな予感がする。

自身であったら良かったのにとも思うが、彼女に見合う存在など知らない。諦めた思いを分身に託すのみだった。

この日以来、彼女の心に彩りが添えられる。

彼に貰った化粧品を手に、必死に女子力を高める二人の姿があったかもしれない。


その後、分身体は足繁く彼のもとに通いだした。

言い付けも無いし、暇なのもあるだろう。

自分も感情を共有することで、楽しみでもある。

二人でガールズトークしたり、身の回りのことをしてみたり、衣服に気を使ってみたり、他のものに対する無関心が興味に変わってゆく。

顕著なのは人の名を覚え始めたことだ。並べて人間として見ていたものが個別に見るとなかなか味がある。話しのネタとしての興味と言うところが彼女たちらしいのだが、良い兆候と言えるだろう。

だが、終わりは唐突にやってきた。


「お兄様、ここを出て、北に移住しろとはどういうことです」

長らく自分を放置していた兄の言葉に私は反発した。

それを見て、兄は深々と嘆息する。

「気づいてないのか。お前の歓喜に呼応すると世界が揺れる。感情が薄いから、今まで放置してきたが、今の状態ではここに置いておけぬ。そのため、お前の力の弱まる北の地に移すことになったのだ」

恥ずかしさに私の頬に朱がさした。

気づかぬ間にそこまで楽しんでいたことを気付かされる。

兄の命令は絶対である。

翻すとは思えない。

「別れの挨拶をするくらいの時間はありますか?」

「一刻を争う。時間は無いと知れ」

一礼をして私は退出する。



「と言うことで移動することになったんだけれど」

「嫌です」

かくかくしかじかと話す私の言葉に小さい私はにべもない返事である。

「とは言っても私の力の及ばぬ北方ではあなたが消えてしまう。別れは辛いけれど、しないよりよっぽどいい。行ってきなさい」

渋々と用意をする分身体の背中を押して出かけさせる。


その日、「私」は帰ってこなかった。

消えるまで彼のそばにいることを望んだのかもしれない。

それを止めるつもりもないし、追うことも出来ない。

気にしつつも北方に移ることとなった。


時が過ぎた。


無感動を取り戻した私にとっては瞬く間だが、彼にはおそらく長い間。

彼はもう亡くなっていることだろう。

記憶も色あせた頃、彼女があの国境の街を通ると、そこにあった桜は切り倒されようとしていた。それは記憶にあるような若々しい木ではなく、今にも枯れそうな老木になっていた。

人に聞くと、平和になり、大きな街道ができるらしい。

移そうとしたが、大きすぎてそれもままならないようだ。

感傷に駆られた彼女はここで一夜の宿を得る。


その夜、一人で桜のもとに彼女は訪れた。

斧で傷ついた幹をなでながら、私でない私のように呟いてみる。

「おんなじだね」

途端、ぱぁっと桜の木が光り、花を咲かせた。

周囲を包む桜の花の香りと、ぼんやりと光る小さな分身体。

「やっと思いが重なった」

声が2つを1つにして、2つの思いを共有する。

思いの丈を、寂しさを、そして思慕の情すらも。

私が感じてることのなかった強さを持った感情が入ってくる。

涙が溢れ、間違ってしまった選択肢に思いを馳せる。

人に聞こえぬよう、声無き声で泣く彼女に声がかけられたのはその時だった。

「伸びようとしてみたんだろう?」

どこかで聞いたようなセリフ。

後ろに立っているのは一人の老紳士。

私に投げかけられる眼差しが、その言葉が、彼であると語っていた。

何ということだろう。

そして、どうすればいいのだろう。

Ifが本当になったとき、彼女の選択肢は一つ。

でも、彼に残された時は残り少ないだろうと思うと、それは出来なかった。

長い時を生きる彼女は迷う。

そして絞り出した答えは、

「……出来ませんでした」

身を震わせる私に彼は、

「なら、もう一度頑張ればいい。その時間は残されているのだから」

「でも、それでは貴方がいなくなってしまう。「「私」」は、それに耐えられるとは思わない」

小さな私の記憶から知ってしまった。

切り倒される巨木こそが彼なのだと。彼は桜の精霊だったことを。ゆえにこの地から離れられなかったことを。

しかし、彼は困ったように私を見やると、少し微笑んでから言った。

「大丈夫。いつまでも見守っていてあげるから」

「……え!?」

「次の私があなたのそばにいよう。その先もその先も」

生が続く限りね。ウィンクした彼が消えると、一面の桜が消える。

そして、彼女の髪にはあの日の桜の香りがする。

少しは女の子らしくしたほうがいいよ?

そんな言葉が聞こえたかも、しれない。


枯れた巨木の前に佇む私の手には、一粒の種子が現れる。

その意味を理解した彼女の涙は意味を変える。

彼女は彼を何度も育て、何度も好きになるだろう。

そんなスパイラルの中で彼女はその役割に目覚める。

彼女の名は光。

世界に光輝をもたらす者。

けれど、夜の世界には強すぎた存在でもある。

しかし、それは決して世界を傷つけることはない。

彼女の隣には桜の木の精霊がいて、彼女を補佐し続けるのだから。

彼を通して、光は木漏れ日となり、世界を優しく照らすのだった。



永遠を生きるものと、生まれ変わりを繰り返すものが共生する物語。


おしまい

単なる話したい人です。


えー、書きたいものを書いてみました。

前々回は、心がささくれ立ってたなぁと思います。

教訓のために消しません。間違えて初稿を上げてしまってますが泣きません。


趣味に関しては、死んだ魚のような目で耐えます。

HPは最初から0ですので、感想があればどうぞ。


設定だと、うちの第一系統(自然信仰)の神様。

この後、自分たちの世界を作りに行きます。

木漏れ日世界です。

太陽の光から、大地を覆う桜が守ってる感じです。

水晶の中に入っている盆栽がイメージ的に近いでしょう。

箱庭でもあります。


もちろん、何度でもプリンスメーカーします。

逆光源氏計画の方が馴染み深い。


If版(別視点の話)を書いていたら、光ちゃんが病んだり、ミニ光ちゃん(灯と書いて、あかり)が病んだりしたので、お蔵入りに。筆が滑りまくりでした。もちろん方向修正はしません。

ガールミーツボーイで甘々という単なるのろけ話(しかも引き出しの数が少ない)。

ちなみに灯ちゃんが病んでると、最後に「マッテタ」と言いながら、本体を乗っ取ろうとしてきます。サイバーパンクか。

光ちゃんの場合は、消えていく彼の運命を捻じ曲げて、「絶対に逃さない」だったり、ゴシューショーサマー。

まー、どっちにしてもハッピーエンドではあります……たぶん。

ていうか、その方が大団円!?


幸せは主観ですね。コメントは避けます。

ではまた。

一応ネタメモ----------------

世界樹(桜)が小さいときは動乱のときです。とか、細かい設定はおいておこう。


ソメイヨシノは雌株ばかりとかは置いといています。

桜っていうファンタジー世界の樹木です。

宇宙樹なので、空も飛べます。きっと。


追記:

モノローグが長いので整理


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