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黒いバッグ Ⅴ

「助けてほしいことがあるんだ。来てもらえないか?」

「急ぎの用事か?」

「うん」

「わかった。行くよ」


 純はそういうと、間もなく部屋を出て僕についてきてくれた。道中、僕は純に琴美に起こった出来事を説明した。


 純と僕は家につくと、琴美に会った。


「琴美、もう大丈夫だ」

「その人は誰?」


 琴美は純を見て言った。


「この人は清水純という人で、今お前の身に起こってるようなことの専門家だ。僕もこの人に命を救われたことがあって、とても信頼できる人だ」

「それじゃ、私助かるの?」

「任せておいてください、弦の妹さん。あなたに起こったことは弦から聞きました。さぞおつらかったことでしょう。ですがもうご安心ください。あなたのことは私が必ず助けます」

「純、琴美は今どんな状況なんだ?まだ命の危険はないのか?」

「まったくないとは言えない。だが、幻覚を見るだけだということなら、気をしっかり持つことができればそれほど問題ではないだろうね。それよりもバッグだ。そのバッグを見せてもらおうじゃないか」

「琴美、バッグはどこにあるんだ?」

「私の部屋に置いてある」


 琴美は自分の部屋に入っていった。そしてクロゼットの中からバッグを取り出した。


 純はバッグを片手で受け取った。そして持ち替えたりしながら、いたるところを観察し始めた。


「バッグ自体は、きわめて普通だな。このバッグそのものに意味はなさそうだ」


 それから純はバッグを観察するのをやめた。


「とりあえず、このバッグを燃やしてみることにするよ」

「そんなことで解決するのか?」

「はっきりとしたことは言えないがね。しかし場合によってはそれで十分効果的なこともあるんだ。君はどうやら、霊現象だとか何とかと考えて、物事を複雑に考え過ぎているようだが、そもそも霊なんてものはいない」

「霊じゃない?とするならこれは何なんだ?」


「何か、ということについて僕はこいつの名前など知らないし、その名前も存在もしない。なにせ一般社会の学問ではこれを説明できないのだからね。しかしかといって霊などという空想上の存在ではない。きちんと存在し、生きているものであることは間違いない。現象は間違いなく存在している。目の前に存在していれば、その形を改変し、無効化することができる。これは当たり前だ。普通のバッグなら燃やせば灰になるし、バッグが灰になればバッグは消えてなくなったことになる、というわけだ」


「つまり、バッグを燃やしてしまえば現象は止まるということか?」

「そういうことになる、というわけだ。理論上はね。しかしあまり期待しないほうがいい。その程度で解決するとは思えないから」

「どうしてそう思う?」

「ただ燃やして終わりになるくらいのものなら、世間で噂になって、あまつさえ僕らの手元にまでわたってくるわけがない。きっと一筋縄じゃ行かない何かがあるんだと思うよ」


 純はドアを開けて家を出た。


「それじゃ僕はこれを燃やしに行ってくる」

「僕もついて行こうか?」

「いいや。君は妹さんのそばに残るんだ。そして彼女が幻覚に襲われた時、その心を支え、慰めてやってくれ」

「何かアドバイスはあるか?」

「いいかい、話を聞く限り今回の現象はいくら幻覚を見せられていると言っても、現実の感覚を打ち消すことはできないみたいだ。だから君が声をかけたり手を握ったりすれば届くはずだ。それを利用しろ」

「わかった」


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