黒いバッグ ⅳ
気が付くと、琴美は床に横たわっていた。起きあがって周りを見たが、血もなければヒルのようなものもいない。琴美の身には何も起きていなかった。
琴美がこの時感じたのは,現実のことでは一切無かった。それは幻覚であった。しかしそれは日常生活のあらゆるところで起こった。琴美が家にいるときはもちろん、学校にいるとき、人前でさえ幻覚を見せられた。これがあのバッグの仕業なのだということが、間もなく琴美にはわかった。
幻覚を見ているときの琴美の様子は、人々を不審がらせた。あるとき「何もないのに突然叫んだりしていた」と友達に言われてから琴美はどんなに恐ろしいものを見てもじっとしているようになった。
琴美がバッグの中身を見てから二日経った時のことであった。川原の友達の三人が自殺したという話を聞いた。
琴美がバッグの中身を見たその日から、川原以外の三人は学校に来なかった。琴美にはそれがバッグの仕業であり、あの三人にも自分と同じことが起こったのだと想像できた。
川原だけは学校に来ていた。幻覚も見ていないようだった。ただ、琴美に話しかけることもなければ、目を合わせることも、もうなかった。
それでも一度、琴美と川原は話したことがあった。バッグを明け渡してほしいと、琴美が川原にお願いしたのだ。
「お願い、お祓いとかしたいから」
琴美は言った。
「いいよ、明日持ってくる」
川原はそれだけ言った。翌日、川原はバッグを持ってきた。渡すときも何も言わなかった。
そしてバッグをもらってきたその日、琴美は自分が見ていた幻覚を兄も見ることになり、バッグのことを相談し、今に至る。
琴美の話を聞くや、僕は清水純の住むアパートに向かった。彼の住む222号室のドアの前に立つと、僕はチャイムを押した。玄関の戸が開くと一人の男が姿を現した。男は身長が高く、やや細身だった。彼は白いワイシャツを着ており、黒ズボンをはいていた。仕事帰りのサラリーマンのようにもみえるがそうではない。彼はいつあっても、この格好である。
「やあ、君か。どうした?」




