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黒いバッグ

 僕は夕飯を食べていた。妹の琴美が右隣りに座っていて、正面の席には母親が座っていた。


「ひうっ」


 突然、小さな悲鳴が聞こえた。僕が横を向くと、琴美は目を大きく開いて一点を凝視していた。顔はひどく青ざめ、口がぽかんと開いていた。


 僕は琴美の視線を追った。その先には母親がいた。母の体は炎で燃え上がっていた。炎の熱が僕のところにまで伝わってきた。自分も焼けそうになると思うくらい、熱かった。僕は椅子ごと後ろに大きく下がった。母は頭を抱え、絶叫していた。炎のいがらっぽいような、焦げ臭いにおいとともに、硫黄のにおいがした。


「お前もいずれこうなる、こうなるんだぞおぉぉぉぉぉぉ」


 母は叫んだ。しかしその声はもはや母の声ではなかった。その、低くおぞましい声は何か別のものの声に違いなかった。


 しかしそれだけではなかった、僕が見たものは。


 母親が燃えている様子と重なって、母親が平然と食事をする姿が僕には見えた。母親は突然顔をあげると、


「何じろじろ見てるの?」


 と尋ねてきた。


 その様子はたとえるなら、もともとあった文字の上に重ねて文字を書いた時の様子に似ていた。つまるところ、僕の目の前では二つの現象が同時に起こっていた。そのことが僕を混乱させた。


 僕は琴美を見た。琴美は目を伏せている。まるで必死に何かを見まいとしているかのようであった。


「何、どうしたの弦?」


 再び母の方を振り向いた。そこには眉をしかめて僕を見る母の姿があった。今度は燃えてもおらず、二重に母が見えることもなかった。


「なんでもない」

「何でもないわけないでしょ、いきなり後ろに下がったりして。なに、なんかいるの?」

「何もいないよ」


 そういって僕は琴美を見た。琴美は下を見つめたまま、体を縮めて震えていた。


「どうしたの琴美、具合悪いの?」

「何でもない」

「二人そろって何でもないって、隠し事ばっかりしてあとで何かあっても知らないからね」


 琴美が席を立った。茶碗を見ると控えめによそったはずのご飯は半分くらい残っていた。僕は琴美を追って二階へ上がっていった。


 琴美は自分の部屋に入っていった。僕はいつもは入らないその部屋に今日は入り込んだ。琴美はそれを拒まなかった。僕は琴美の背中に尋ねかけた。


「何を見たんだ、お前は?」

「お兄ちゃんこそ、何を見たの?」

「母さんが燃えているところを」

「冗談とかで言うんじゃないよね?本当に見えたんだよね?」

「ああ」


 琴美は振り向いた。目は涙で潤んでいた。その表情は弱弱しく、とても怯えているように見えた。


「助けて、お兄ちゃん」


この度より小説を連載させていただきます。できる限り読者の皆様方の暇つぶしに貢献できることを願いとしております。

できる限り質の高い作品を提供したい、という願いはもちろんありますが、あくまで自分が書きたいことを自分勝手に書いている次第なので人によっては面白くないと思う方もあるかもしれません。また僕は胃が弱いので、しばしば衰弱いたします。それでもよろしければしばらくの間でも作品を見ていただければ幸いです。

今後ともよろしくお願いします。

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