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ティファレシア ~風信子の絆~  作者: 紺野咲良
第二章
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18.仰天『Q:空の飛び方って? A:人間をやめる』

「…………はぁ?」


 兄が『世にも奇妙な生き物を見るような目』をしている。おまけに『可哀想なものを見る目』もしてますかね、こりゃ。

 こんな目をされるのはまれによくあるが、それは単品での話だ。二つ同時などという欲張りセットは滅多にない。


「とっ、とあることに、その知識が必要になって……え、えへへ」


 誤魔化すように笑顔を作るが、あからさまにぎこちないのが鏡を見なくてもわかる。

 私も元々そんなことが聞きたくて、わざわざ声をかけたわけじゃない。それにあろうことか、その言い訳さえもゲームに関してしまうものなので、これ以上詳しい理由を話せない。

 そのせいで余計に動揺し、酷いレベルの挙動不審に陥ってしまう。兄の目には一層怪しく映っていることだろう。


「…………ふーん」


「うわぁぁぁっやめてえええぇぇぇっ! そんな目で見ないでっ、あわれまないでぇぇぇ……っ!」


 今回ばっかりは本人ですら『何言ってんだこのバカは』状態なので、精神的ダメージが致死量です。オーバーキルです。

 なっさけない悲痛な叫びを上げつつ、『これ以上は勘弁してください』と言わんばかりに涙目で縋りつく。


「まあ、悠莉子ゆりこの奇行は今に始まったことじゃないしな」


 そんな納得の仕方をされるのもはなはだ不本意である。傷口に塩を塗りたくらないでください、死体蹴りなど趣味が悪いです信哉しんやお兄様さま。


「ぐすっ、ひっく……。ほ、ほんとーに必要なんだってばぁ! ……あのっ、お兄ちゃんに貰ったゲームで――」


 ――あぁ……。語るに落ちる、とはこのこと。

 ゲームの話題にしないための言い訳だったのに……これじゃ全てが台無しだ。

 急に押し黙った私の心境を知ってか知らずか、兄が得心したように呟く。


「ああ……この間の『ティファレシア』とかいうやつか」

「……うん」


 こうなれば仕方がないと、正直に本当の理由を話すことにした。


「そのゲームって、自分で自由に魔法を想像して使える感じでね。私は飛んでみようとしたの。背中に翼を生やすところまではできたんだけど……なんでか、飛べなくって」

「へえ。そんなことできるのか、あのゲーム」


 ……初耳、といった反応だ。

 これがとぼけてるだけだとしたら、大したもんだと思うけど。そんな嘘を吐くような人じゃないとも思うし。

 やっぱり兄は知らない――やったことのないゲームだった、のかなぁ。

 つまりはウォルさんが言う『ゲームを広めた冒険者』も、オルグイユ様が仰った『街を救った英雄』も、どうやら兄ではなかったみたい……?

 肩透かしを食らった気分で、ちょっぴり残念。世の中には似たような変人さんがいるもんなんですねぇ。


 それはそうと……今の兄の反応。感触はあまり悪くなさそうだった。

 これはもしかしたら、ひょっとすると――?


「良かったら、お兄ちゃんも一緒にやる?」

「いや、やらん」


 しょぼん。ちょっとぐらい悩んでくれたっていいじゃないのー、即答でばっさりとかぁ。

 ほんっとー頑固でケチで無愛想です。釣れません、むすっ。


「それで『鳥がなぜ飛べるか』、なのな。話は理解した」

「うんうん。何か知ってることとかあるかなぁ?」


 んー……とうなりながら難しい顔で腕を組み、しばし記憶を辿る兄。

 やがて、「俺もそこまで詳しい訳じゃないが」……そんな前置きをしてから切り出した。


「そもそも人間の身体で飛ぼうとしても、構造的に無理があるらしいな。確か主には『体重』、『胸筋』、それと『翼の大きさ』……だったか」


 ふん、ふん。それだけじゃ何が何やらさっぱりなので、頷いて先を促す。


「ところでお前、体重は?」

「ふぇっ……!?」


いっくら(いくら)兄妹やけん(だから)って、れでー(レディー)に体重()聞くとか一体あんたん(あなたの)デリカシーどうなっとーと(どうなってるの)!?)


 反射的に謎の方言を発する、内なる悠莉子が猛烈に暴れだした。私はその地方の人間ではないので、言葉とかイントネーションとか色々おかしいと思う。それだけ取り乱し、怒り狂うものだったのだということだけは、どうかご理解頂きたい。


 しかしすぐに、それもきっと必要な情報なのだろうと思い直した。

 ――お兄さまは真面目に考えて下さってるのでしょうから。そのぐらいのはずかしめは仕方がありません。

 夢の『リリィちゃんまじ天使化計画』のために、払うべき尊い犠牲なのでしょう。


 ……ぼそぼそぼそ。……実際の体重より三キログラムほど鯖を読んで、兄に伝える。


「なるほどなあ」


 さぁっ、これで何がわかったのですお兄さま!


「まあ、本当は聞く意味なんてないんだが」


 ――……ぷっちーん。てめーは私を怒らせた。怒りが有頂天だよ、寿命がストレスでマッハだよどうしてくれる。

 度重なる精神的凌辱により、大分情緒が不安定になってしまわれた。


 それでも悲しきかな、こちらは教えを乞う身。致し方なしと感情を必死に抑え込む。

 兄に歯向かっても勝てないとかいう負け犬根性が染みついてるわけでは決してございませぬ。

 とっても寛容な私は、胸の内で軽く毒づくだけで許してやるのです。ばーかばーかっ!


「鳥たちが飛べる体重は……二十キログラム程度が限度だったか。

 胸筋は、一般的な人間の場合だと……現在の二十倍ぐらいに鍛えなければならない。

 翼は、広げた際の長さが三十メートルほどは必要……と、ざっくりと適当だがそんなもんだったはず」


 つらつらと説明をしてくれながら、何やらキーボードをカタカタと叩きマウスを操作し始めた。

 うろ覚えだろうと、自力で一から調べるのも億劫おっくうなのでありがたい。しかし数字を言われても、いまいちピンときてない。私が傾げてる首の角度が面白いことになってると思う。

 そのままの体勢で、兄が何を始めたんだろうとディスプレイを覗き込んでみると――『画像検索』だった。


「で、『コイツら』がそれらの条件を無理やり満たした際の想像図だそうだ」


「……――ぶふぅっ!?」


 そこには思わず吹き出さずにはいられない、多くの仰天画像が並んでいた。

 胸筋がZカップすら超えてそうな……胸に筋肉でできたバランスボールをくっつけてるようなもの。

 翼が大きすぎて、本体が豆粒大の……もはや翼で『飛んでいる』のでなく、翼に『飛ばされてる』もの。

 中には軽量化の為か、グロテスクなまでに魔改造された『かつて人だったもの』もある。これでは完全にただの化け物だ……会ったら絶対に全力で逃げる。悪霊退散、えんがちょ。


「っ……ちょ、なに、これっ……ぷっ……く、あっははははははっ!」


 お腹をくの字にして大笑いしてしまう。胸筋じゃなく、腹筋ならたっぷりと鍛えられそう。

 私に影響されてか、兄ですら堪えきれず表情が歪んでしまっているぐらいだ。


「まっ、お前がいくら飛びたいっつっても……()()は成りたくないよなあ」

「……あっ」


 そうだ、笑ってばかりもいられない。

 私が翼での飛行を可能にするためには、()()成ることをいられてしまっているということだ。



 この方向性じゃダメだ。どうにかアプローチの仕方を変えねば――。

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