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後編

「えぇと……あなた方にも【示談金】を【お支払い】した方がよろしいですか?


 もちろん、【お釣り】は【全額】頂きますが」


 びっくん。


 小奇麗なおっちゃんの言葉に、全員が身体を委縮させた。


 誰もがその言葉に応じなかったので、当然のように沈黙が舞い降りた。


 やがて……野盗たちの首領と思われるシーフファイターの男が、絞り出すような口調で呟く。


「そ……そう言えば聞いたことがあるぜ。


 この街道には最近……とんでもねえ魔法使いが出るって……」


「お、お頭、そんな大事なコト、なんで今言うんですかいっ!?」


 シーフファイターの男の言葉に、野盗たちが騒めく。


 完全に戦意を喪失しているらしく、その声に動揺が混じっていた。


 しばらく野盗たちの間で怯えたようなやり取りが続いたが……それを割るように、小奇麗なおっちゃんが言葉をかける。


「【魔法使い】ではないんですけどね……あー、すみません。


 少々伺いたいんですが……その話のソースは、この先の街の娼館の、リリーさんですかね?」


 その言葉に怯えながら……首領のシーフファイターが応じる。


「な、何で知ってるんでいっ!?」


 ぺちん。


 シーフファイターの言葉に、小奇麗なおっちゃんは掌で自らの額を叩いていた。


「うわ……リリーさん、尻も軽ければ口も軽いんですね……。


 一応、誰にも言わないようにお願いしていたんですが……」


 首領と同じく絞り出すような口調で言う小奇麗なおっちゃん。


 やがて小奇麗なおっちゃんは、額に掌をあてながら……野盗の首領に視線を向ける。


「しかも私、あなた方と【兄弟】ですか……」


 【兄弟】という隠語、知らない人はお父さんかお母さんに聞いてみよう。


 多分、派手に怒られるはずだ……あるいは、無言で引っ叩かれるか。


「し、知らねえのか……リリーちゃん、なんか大金を手に入れたとかで故郷に帰ったぜ……」


「……情報漏えいの挙句に逃走ですか。


 まあ、【奉公上がり】の御祝儀と思えば安いものですか……お世話にはなりましたからね」


 小奇麗なおっちゃんはそう言ってもう一度ため息をついた。


 そして姿勢を直し、もう一度野盗たちに、向き直る。


「で……どうしますか?


 私はあくまで【通行人】………用がなければこのまま立ち去りますが。


 このままプレイを続けられても、当方の関知するところではありません」


「だからプレイではないと言ってるだろうが!?


 こやつらは……野盗だぞ!?


 貴殿に正義というものはないのか!?」


 口から椿を飛ばしながら激しく突っ込むド処女さん。


 それに、小奇麗なおっちゃんは視線を向けて応じる。


「野盗なんて、この世には掃いて捨てるほどいるでしょう?


 幾人かが【早期退職】されたところで……代わりになる【人材】はいくらでもいますよ。


 ……ふむ、なんだか身につまされる話ですね。


 【私が以前住んでいた世界】で肩叩きされたのを思い出します」


「…………?」


「それに……………私、まだ証拠を見ておりませんので」


「処女の証拠なぞみせられるかああああ!!!」


 ド処女さんの顔をチラッチラ見ながら言う小奇麗な男に………赤い顔のド処女さん、今度は耳まで真っ赤にしながらさらに突っ込む。


 そして……興奮した精神をなだめるかのように息を整えると……やがて、静かに呟いた。


「……わかった………証拠を見せてやる」


 そう言ってド処女さんは、鎧の胸元に指を伸ばしていた。

 しゅざっ!!


 小奇麗なおっちゃんは、音よりもはやい速度でド処女さんの目の前に移動していた。


「……っ、近い近い!!」


 自らの胸元に手をやりながら、困ったように突っ込むド処女さん。


 その顔がまた少し赤くなっていた……赤面症かな?


「いえいえ、大事な証拠はアリーナ席で観賞しないと」


「……たぶん、貴殿が思っているのと、少し違うと思うぞ?」


 そう言ってド処女さんは胸元から……白銀の首飾りを取り出した。


 そこに在ったのは……紋章。


 この国を治める王国、それを守護する【騎士団】の団員を示す紋章だった。


「私はこの国を守護する騎士団の一員で……」


「【示談金】×4!!」


 ド処女さんが言い終わる前に……小奇麗なおっちゃんは振り返っていた。


 そしてその言葉通り、黄金のプレスマシーンをそれぞれの野盗の上に出現させた……その間、〇.五秒!!


「「「「あふっ」」」」


 尊い命が、〇.五秒で四つこの世から消失していた。


 そしてさらに……。


「アソコとアソコ!! 【示談金】×二!!」


 小奇麗なおっちゃんは微妙な言い回しでそう言ってさらに、森の中に掌を伸ばした。


 視線の届かぬ先のその奥から……重量物の落下音と悲鳴が二つ聞こえる。 どうやらこちらでも黄金のプレスマシーンは正常に動作したようだった。


 もはやその姿を確認することは物理的に不可能だったが……そこにいたのは【この世界】風に言うなら【アサシンアーチャー】だった……それは暗殺に特化した弓使い。


 ド処女側の騎士数名を倒したのは、こちらが主戦力であったのかもしれない。


 しばらく周囲を確認してから……小奇麗なおっちゃんは、【アイテムボックス】を操作した。


 受け取り手のいなくなった【示談金】を回収しているようだった。


 それは【示談金】×六……約一二〇トンの黄金を回収するという行為。


 決して軽々しく扱える重量でも金額でもないはずであった。


 だが小奇麗なおっちゃんはそれを軽々しく扱っていた。


 そして……小奇麗なおっちゃんはド処女さんに振り返る。


「騎士殿、悪しき野盗たちは、この私めが打ち取りました。


 この私めが。 この私めが」


 大事な部分を三回言いながら恭しく跪く小奇麗なおっちゃん。


 それはもう、腹が立つくらいにさまになっていた。


「…………」


 突然のその光景に……ド処女さんは無言になっていた。


 呆れた。


 小奇麗なおっちゃんのその、見事な瞬殺にも、躊躇なしの瞬殺にも……権力を前にしての、変わり身の速さにも。


「はぁ、貴殿は……なんというか。


 【きたない】男だな………」


「【きたない】……ですか、よく言われます。


 おかしいですねぇ……身なりには、人一倍気を使っているのですが」


 そう言って【きたない小奇麗なおっちゃん】は……満面の笑みを見せてから、もう一度深々と一礼していた。

「えぇと……ド処女さん。


 私、あなたにも【ご迷惑】料をお支払いした方がよろしいですかね?」


「ちょ……やめろ!?


 本当に【ご迷惑】なことになってしまう!!」


 ド処女さんは少し怯えたように、自分の両肩を抱きながら突っ込んでいた。

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