8話 これから始めよう
「さて、稽古始めるわよ。まず、何も分からないでしょうから剣術の基本的な型から入るわね」
剣術はどことなく剣道に似ている所があると思っている。型と言われたら上段や中段を思い浮かべる。これでも、一応剣道経験者だ。
まずは中段の構えをして見せる。
「……!意外と様になってるわね」
「これでも、剣道をしていたんだよ」
「剣道というものはわからないけど近しいものをしていたようね。なら技に入ってもいいかもね……おいで!」
サナが呼ぶと先程のライオンが姿を表した。
まるで飼い慣らしているような扱い方で……。
「……サナが飼っているのか?」
「飼ってはいないわ……ただ私に懐いてはいるみたいだけどね。彼の相手になってあげて……レオ」
レオと呼ばれたライオンは返事をするかのようにガウッ!と鳴きおすわりをしている。待機しているようだ。
おいおい、こんなでかいやつ相手にして俺大丈夫かな?絶対死ぬよな?
「そんなに怯えなくてもこの子はちゃんと私の言うことを聞くから大丈夫よ。ねっ?レオ?」
ガウッとか返事してるけどめっちゃ目ギラギラさせて今にも食いつくぞって感じがしてるんだが……。
「……もう悩んでいても仕方が無い。……来い!」
「準備はいいみたいね。それじゃあ、構えて」
レオは完全に戦闘態勢に入っているよ。つかさの動きを見ようとしているようだ。
ライオン相手にどう戦えばいいんだ?剣道は対人用の競技だからこんな動物を相手にしないんだが……。
レオはつかさの心のスキを突きかのように、飛びかかってきた!
「ッ!いきなりきやがった!避けれねぇ!」
辛うじて剣で受け止めたが、ライオンの重さに耐えられるはずもなくそのまま押し倒されてしまった。
「クッ……!」
「そこまでよ!レオ!」
言われた瞬間にレオはピタッと動きを止めた。それで止まるならトドメ刺しにくるなよ……。
「剣道じゃライオンに太刀打ちできないな、こんな動物相手の技はないからな」
「目だけで追っていてはダメよ。相手の体重移動をまずは見るの。それに関してはその剣道っていうのも同じだと思うけど」
「全部感覚だけでやってたから考えたこともなかったな」
「それなら、これからは考えないと死ぬわよ」
死ぬか……あの時ももう少し気をつけていれば咲は助かっていたかな……
「何、暗い顔してんのよ……まだまだこれから頑張ればいいんだから。頑張りなさい」
サナはわからないから仕方ないな……悪気がある訳じゃないから俺も暗い顔してちゃいけないな。
咲に会うため……この世界に来たのはそのためだよな。絶対に会うんだ!
その目に決意を宿し、空を見上げた。
「どうしたの?空なんか見て」
「なんでもないさ……それより続きしようぜ」
「……?そうね?」
……辺りが夕暮れに染まり始めていたが稽古はまだまだ続いていた。
最初は何度やっても動きが読めずに押されて倒されるだけだった。その度に何度も食おうとされた。
わざとやってるだろう……。そう何度思ったことかわからない。
だが、そう繰り返しているうちに少しずつだが動きが分かるようになってきたぞ。
そして……
「行くぞ!レオ!」
「ガウッッ!!」
時間帯的に最後の稽古だ。ここで掴まなければ……。
両者、最初は動かずに相手の動きを探っている。
このままやっていたら先に突っ込まれて倒されるだけだな……。ならば!
つかさはレオが動くより先に懐に突っ込んだ。
ここから避けるかもしれないからカウンターで決めてやる!
しかし……気がつくとレオは横っ飛びで攻撃を避け逆にカウンターを仕掛けられ吹っ飛ばされてしまった。
「ウッ!!!」
「そこまでよ!レオ!」
レオは動きをピタッと止めおすわりの状態になっている。
結局、最後の最後まで攻撃を当てられなかったな……。悔しいな……。
「今のは惜しかったわよ。でも、レオの方が一枚上手だったようね」
撫でられて嬉しそうにしているな。何回も叩きやがって。いつか絶対に攻撃を当ててやる。
「さて、今日はもう暗いから帰りましょうか」
「そうだな。今日は訓練の邪魔をしてすまなかった」
「いいのよ。気にしないで」
少し笑顔を見せてくれるようになってきたな……俺のこと少しは心を開いてくれたかな?
「……明日も稽古……する?」
「いいのか?サナさえよければ俺はお願いしたいぐらいだ」
サナは少し嬉しそうにしていた。ほんとにみんなもこの笑顔を見れば分かってくれるはずなのにな……。
「サナ……これからよろしくな」
「……えぇ」
周りの草原がゆらゆら揺れてまるでサナのことを祝福するかのようだった。
握手した彼女の手は小さかった。こんな小さな手で今まで頑張ってきたんだな。
まだ出会って少ししか経っていないけど彼女のことを少しわかった気がした……。