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「おお、見えてきたな」
現在ハルトたちは隣の街の近くまで来ていた。目に映る砂色一色の景色、体にまとわりつくような暑さがこの街の近くまで来たということをより一層際立たせていた。
「……なあ、ハルトそれにしても暑くないか。喉がカラカラだ。」
リアが頭を下げてうなだれながら言う。
「確かに。森にいたときは逆に涼しいぐらいだったのに、こっちはアマゾンもびっくりの灼熱だ。隣の街に来るだけで全然違うんだな。街に入ったらどこか涼める場所を探してみよう。」
「そう……だな。」
二人は鉄球でもぶら下がっているのかと重く感じる自らの足を、持ち上げてはおろし、持ち上げてはおろしと街にむかってただ黙々と歩いていった。
二人が街につくと、まず目に飛び込んできたのは、煉瓦のような色の大きな門だった。その中から見えるのは、一直線に並ぶ店や家の数々。この街は砂の街だけあって砂色の建物が一本の大通りにそって、目で捉えられなくなるところまでずらっと並んでいた。街の中では様々なひとが行きかう。白いターバンのようなもの頭に巻き、古代ローマのような服装の人や、短パン、タンクトップ、はたまた全身を隠すような黒い服で包まれた人、全身を鎧で纏う人など、その多彩ぶりからこの街の活気や栄えているんだという印象が伝わってきた。
街に入ろうと二人が門をくぐろうとすると、一人の男が近づいてくる。
「そこのお前、何者だ。」
男は金色の装飾があしらわれた鎧を身に纏っており、その風貌からここの門番と思われた。
「俺たち、あ、いや、俺は隣の街から旅をしてきた者だ。」
突然のことに少し慌てるハルト。
「旅の者?この街まで歩いてきたのか?まあいい。だがこの街に入りたくば、ここで入街審査をうけ、この印が必要となる。」
男はハルトに突きつけるように、手に持ったこれまた砂色の城が描かれたバッチのようなものを見せてきた。横目でリアを見る。リアは暑さにやられてぐったりとした様子だった。
これは早くしなければ。
「その印はどうしたら手に入るんだ。」
「ああ。これはこの街特製のものだ。この街は砂漠の中で栄えた偉大な街だ。そんな街の治安維持のためにと貴族様がお作りになられた、この印そう簡単には手に入らんぞ。ひよっこ坊主。」
男は自慢げに、したり顔で印をひらひらと見せつけてくる。
……うざい。
「そうか、それは分かったから。早くその入手方法を教えてくれ。」
「ん~?この印が欲しいの?どうしようっかなぁ?」
と男がしつこく、ハルトに印をひらひらし続けていた次の瞬間。ハルト、リア、この男の周り一体の地面がとてつもない爆音とともに吹き上がった。
「うわぁぁぁぁ」
分かりやすく慌てる男。頭を抱えて地面にうずくまっている。リアは疲れ果てた様子でただ突っ立ている。
なんだこの爆発は?
何かモンスターでも潜んでいたのかとあたりを警戒するも特にそのような気配はない。
では盗賊かなにかか?
しかし、これもその気配はない。いまだ地面にうずくまっている男を一瞥する。
まさか、こいつがやった訳……ないよな。
「……つい。」
ん?
「……暑い!!」
声のするほうに顔をむけると、
「ってリア!?」
そこには、魔法の力を使い再び爆発を引き起こそうとしている赤髪少女がいた。
「さっきのもお前がやってたのかよ!?いくら暑いからってそこまですることないだろ。」
「……」
しかし、リアは動きを止めない。淡々と魔法の発動にとりかかろうとする。
「おい!やめろ!急にどうした!?暑いからってそこまでする必要ないだろ!?」
……まさかこいつ、暑さで意識失って暴走してる!?
リアの顔を覗くと、その顔は真っ赤に染まっており、目は焦点が合わず虚ろな様子だった。
熱中症だあああ!まあこの暑さだし、仕方のないことなのかもしれないけど。なんて迷惑な熱中症!意識失ったら、暴走して魔法打ちまくるとか、とんだ災害人間だな!しかしこのまま放っておいたら、リアはどうなるか分からない。どうにかして止めなくては!
そしてハルトはリアに向かって構えると
「オラァ!リア!目覚ませやぁ!」
もう三度目にもなる、リアとの戦闘が始まった。
……はぁ。なんで俺はこいつとこんなに戦っているのだろう。また爆発をくらうのかなぁ。
しばらくして、先ほどのような大爆発がした。現場はひどい有様でそこらかしこにできたクレータ、その近くで頭を抱えて蹲る鎧姿の男、暑さで限界を迎え完全に気絶して倒れこむ赤髪少女。そして、魔法による爆発が直撃してクレーターの下で倒れた状態でぴくぴく動いている男、カタバミ・ハルトがそこにいた。
「……やっと街に入れたなぁ。」
「……そうですね。」
なにやら気まずい空気が流れているなか、両サイドに並ぶ店には目もくれず二人はただ無言で歩みを進めていた。あの爆発のあとハルトは自分の能力で復活すると、無言で門番に近づきドスの効いた声で印を請求。それに門番は「はいぃ」と完全におびえた様子で印を渡してきた。それを受け取るとハルトは倒れているリアに近づき、肩に担ぎあげ街の中へと入っていった。街に入ってすぐに水を確保すると、リアに水分補給をさせた。気持ちよさそうに水を飲んでいたリアだったが、ハルトが険しい顔で睨みつけてくるのを見て、心情を問う。そこでハルトから先ほどの出来事の一部始終を聞き現在のなんとも言えない空気感が完成した。
「……とりあえず、宿でも探すか。」
ハルトが口を開いた瞬間にびくっと震えるリア。がすぐに先ほどと同じように申し訳なさそうに、そうですねと繰り返した。
「……はぁ。まあさっきのことはもういいよ。熱中症で仕方なかったんだし、もう気にするな。」
さすがにずっと落ち込んでいられても困るので、ハルトはリアに優しく声をかける。
「……そうですね。」
「いや、もういいからね!?」
「……」
足を止めて、黙るリア。
「……そうで
「お前ふざけてるだろ!?」
宿探しは順調に進んだ。この街は砂漠のなかで生きながらえてきたためか、人と人同士の関係はよく。店の人など、この街に住む人は印を持つ人たちに、どんな怖そうな人であっても親切に優しく対応してくれるため、ハルトたちの宿決めはすんなり終わった。もちろんリアのことは見えていないので、ハルトは一人だが二人部屋を取るという形をとった。
「腹が減ったな、どこかに飯でもいくか。」
リアそのことを聞き一瞬嬉しそうにするも、すぐに我にかえり「そうだな。まあ私はあまりおなかが減っていないが。」と言った。
ハルトはリアの顔をちらっとみて、何も言わず飯屋に向かった。砂漠の街だけあって、料理もその風情にあったものが多く、その中でもひと際、肉料理が多かった。二人は肉を焼く香ばしい匂いにつられ、迷うことなく、近くの肉料理がある店に入っていく。
肉は久しぶりに食べるな。こっちの世界に牛とかはいないようだけどなんの肉を使うんだ?
そして、二人が店の扉を開け、店員のいらっしゃいませという声を耳にしたとき。
「あ。」
「おや?」
その店内に肉にフォークを刺して食べようとしていたどこぞの光の勇者のような真っ白い服を着た、以前ハルト達を助けてくれた男、ノルドがそこにいた。
頑張ります