8
な、なんだこいつ。こいつがケルベロスを倒したのか?
「お前がやったのか?」
そのイケメンはふっ息を吐くと、流れるような動きで手で髪をかき分け分けると決め顔で言う。
「ああ、そうだ。」
「「……」」
なんだか、やばそうなやつに出会ってしまったな……
「それより、君たちけがはなかったかい?」
「けが?……っ!」
そういや、俺、肩食いちぎられてたんだったっ!
このイケメンのあまりのインパクトにけがのことを一瞬忘れていたハルトだったが、指摘されたことにより再び肩の痛みがハルトを襲い始めた。
「大丈夫か、ハルト。」
リアがハルトの痛みに苦しむ様子を見るとすぐに、何か止血するものはないかと慌てた様子で荷物を探りはじめる。
「大丈夫だリア……」
とハルトがリアに告げた時、急にイケメンが叫び声をあげた。
「君!?肩を怪我しているじゃないか!!!??」
一瞬にして憤怒の形相になるイケメン。そしてギロッと先ほど真っ二つとなったケルベロスの死体を睨む。
「え?」
ハルトとリアがそのあまりの豹変ぶりにあっけにとられている中、そのイケメンは死んでいるケルベロスの前まで行くと腰の剣に手をかけると、目の色が輝く太陽のような金色に変化した。
「「!?」」
まさか、こいつ……
そしてその死体に向かって剣を突き立てた始める。
「死ね!死ね!死ね!死ね!」
イケメンはまるで悪魔にでも取り憑かれたかのように一心不乱に剣で死体を切り刻み続ける。剣が死体に刺さるたびにぐちゃ、ぐちゃっと生々しい音が響き渡る。一体なにがそこまでこのイケメンを突き動かすのか、そしてもう死体の形が分からなくなるほどになると、ふうと息をついて手を止めた。
「悪は殲滅だ。」
……
あまりの衝撃にハルトは頭の中が真っ白になる。リアは肩を震わせていた。
「……っ!!何もそこまでしなくてもよかっただろう!!」
リアがそいつの非人道的な行動に怒りを露わにし、じっと睨みつける。しかし、この声はこのイケメンには届かない。呪いの影響だ。イケメンは素知らぬ顔で近づいてくる。その様子を見てハルトは胸が締め付けられる思いになる。
やはりリアの呪いは……!
イケメンがリアに見向きもしないこの状況。これがリアの呪いが偽りでなく、現実であるということを証明していた。
「お前は何者だ?」
なお近づいてくるイケメンにハルトが問う。
「おっと失礼自己紹介が遅れたね。僕の名前はノルドだよ。世界中を旅しているんだけど、最近は隣の街に滞在しているよ。」
隣の街?俺たちが目指しているところか。
「そうか。俺の名はハルトだ。冒険者をしている。ところであの死体なぜ剣で切りつけた?あそこまでする必要があったか?」
ハルトが言う。するとリアはバッと振り向きハルトの顔をみた。その顔は明らかな怒りの表所。この時ハルトはリアのためにこの思いをぶつけてやろうといういう気持ちもあったが、ハルト自身こいつの命を雑に扱う行動には腹がたっていた。じっと睨むハルト。
「いやだめだね。悪は存在しちゃいけない。存在すること自体が罪なんだ。」
「でも、もう死んでいたんだぞ。いくらモンスターだからって」
ハルトの言葉を遮るようにそいつは続ける
「違うよ、モンスターだからじゃない。悪だからだ」
そして一瞬、底知れぬ闇を感じさせるほど、ぞっとする表情になる。が、かと思えばすぐに優しそうな笑顔に変わりハルトとに近づくと優しく手を伸ばした。
「大丈夫かい。少し遠いけどこの先に僕の知り合いがいるがいる、さっき言った街のことだよ。そこに案内しよう。」
ハルトはこいつの先ほどの行動をみて、素直に手を取りたいとは思わなかった。となりにいるリアも同じく嫌悪感を露わにしていた。
だがここはおとなしくこいつについていくべきだろう。もしかしたら影についてなにか知っているかもしれないしな。
ハルトは伸ばされた手を握ると、グイっと体重をかけ起き上がった。
「あ、そうだ。へんな質問していいか?」
「いいよ。なんだい?」
「俺の隣に赤毛の少女が見えないか?」
「!?」
リアが驚いた表情でハルトをみる。
「赤毛の少女?何を言っているんだい?」
しかノルドはし首を傾げ不思議そうにハルトをみていた。リアはさっと顔を伏せる。顔をふせたリアはとても小さく見えた。
……ああ。
この時ハルトは思った。これからハルトがリア以外の誰かと行動することになったらリアはどうなるだろう?ハルト以外の人にはリアは見えない。こんな状況でハルトがほかの人間と一緒にいたら、リアの孤独感はますます一層増してしまうだろう。そんな思いをさせていいのか?いいわけがない。ハルトは覚悟を決めたのだ。リアの呪いを治すと。それはただ治すことだけじゃない。リアという不遇な少女にこれ以上つらい思いをさせてはいけない。
するとハルトは握った手を離した。
「悪いが俺たちはお前にはついていかない。助けてもらったことは感謝している。だが俺は、俺の相棒が見えないというやつについていくほど屑じゃないんでな。」
「……え。」
突然のハルトの発言にぽかんとした表情を浮かべるノルド。それもそうだろう。ノルドには何もみえていない。ノルドからすれば何もしていないのに突然ハルトが怒りだしたようなものだ。しかし、ノルドのそんな様子をみてもハルトは気にすることはなく、痛めた肩をおさながらノルドに背を向けて歩き出した。
ノルドはわけがわからないといった顔をしていたが、何も言おうとしないハルトの様子をみてただ茫然とハルトの背中を見つめているだけだった。
「ハ、ハルトっ!」
リアが慌てた様子でハルトのもとに向かっていく。
「なんだ?」
「なんであいつについていかなかった?あいつについていけば、隣の街までいけたかもしれないんだぞ。」
……はぁ。
お前のためだ。といえたらどれだけ簡単なことだっただろう。しかし、それはハルトにはいえなかった。もしそれをいったのならばリアは素直についてこないだろう。ハルトはなお歩きながら、リアの顔を見ることなく話し始める。
「確かにノルドについていけば隣街にいけたかもしれないが、俺はあいつがどうも好かないからな。好きじゃない奴と一緒にいるのはいやだろ?」
「それだけ?」
「それだけだ。」
「……ふっふふ。お前は馬鹿だな。」
そういうリアの顔はとてもきれいな笑顔だった。
……まったく、馬鹿はお前だ。
ハルトはこころの中でそう思いながらも、リアにふっと笑ってみせ
「かもな。」
そう呟いた。
それから二人でしばらく歩いた。森を抜けるとだんだんと風景から緑色がへっていき、砂色がしめる割合が多くなってきた。
「よし。ハルトここならいいだろう。」
「なんだ急に?」
リアはまだ街についていないというのに、荷物を地面におろしはじめた。そしてハルトのほうを向き顔をじっと見つめる。
「お、おい。なにか言え。」
「今からお前の肩の傷を治す。」
……へ?
「傷を治す?治すっていったてどうするんだよ。賢者の石でも作る気か?」
「なにを訳の分からないことをいっているんだ。本当は教える気はなかったんだがけがをしたなら話は別だからな。」
ん、なんだなんだ?
リアはハルトの怪我をした肩に手を当てる。そしてしばらくそのままの状態でいると急にリアの目の色が緑色に変わった。
「えっ、それは!?」
ハルトが驚いていると、リアが手を当てている周りが緑色に輝きだした。
「うっ」
その眩しさにハルトは思わず目をつむる。そして目を開けたとき驚くことが起こっていた。
「え?あれ?治ってる?」
ハルトの肩の傷はきれいさっぱりなくなっていたのだ。それはもう完璧に。食いちぎられた服はさすがに元通りにはなっていないが、やぶれた服から見える皮膚は完全に無傷であった。ハルトが信じられないと、何度も肩に触れるがやはりなんともなっていなかった。
「リアお前、能力があるのか?」
「……ああ、本当は言うつもりはなかったがな」
「……やっぱり能力を使うと目の色が変わるものなのか?」
「どうやらそうらしい。私も初めて使った時、気付いたら変わっていた」
「なるほど。で、リアの能力は回復みたいなものか」
「その通り。私の能力は治癒。相手の傷や呪いを治すことができる。」
えへん、とあまり大きくない胸を張るリア。どうも子供っぽさが滲みでている。
だがしかし、実際治癒の能力とはとても貴重なものだ。なぜならこの世界の魔法に回復魔法はないからだ。ハルトもリアから少しだけ魔法について聞いていたのだが、どうやら魔法は主に攻撃が主としてかんがえられているようだった。
ところで能力ってだれでも持っているものなのか?てっきり俺は転生者特有の特別ボーナス的なものだと思っていたのだが。まさか俺のただの勘違いで実はみんなもってたのか?こっちに来てからろくな友達とかいなかったから何にも知らないだけで、実は普通だった!?
「な、なあ。リアその能力って誰でも持ってるものなのか?」
ハルトは若干震える声で訊く。
「まさか、そんなことはない。私が見てきた中で能力をもっている人間など見たことがなかった。だからハルトが能力をもっていると知ったときは驚いたぞ。」
……よかったぁ。
ほっと胸をなでおろすハルト。
「そうか。それはよかった。ところでリアのその治癒の能力はどれだけでもつかえるのか?」
「む?いままで何度か使ってきたが特にこれといった制限はなかったな。」
……まじかよ。
「最強のヒーラーだな。」
「最強のヒーラーか、悪くないな。」
リアはにやりと笑うと、気をよくしたようで元気よく「じゃあ出発!」と声をあげた。
読んでくださりありがとうございます。よろしければ感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いします。