始動
振り返るとそこにはリアがいた。
「おい、リア。」
しかしリアは何も答えない。ただぼうっとハルトを見つめている。
「なあ、ここ最近ずっと辛そうにしてたけどよ。これからどうするつもりだ。」
「.......」
「悪いけど、これ見させてもらったぞ。」
ハルトはリアの日記を掲げて見せる。
「......っ!?」
一瞬リアは驚いた顔をしたもののすぐに元に戻った。
「お前これからまた一人になるつもりか?」
ハルトは自分でもわからないほどに怒りが湧いてきていた。リアとはまだ長い付き合いでも、古くからの知り合いというわけもなかった。だがハルトはリアと共に生活して少なからず好意を感じていた。それ故にハルトは、勝手に一人で背負いこんで一人で苦しもうとするリアに納得がいかなかった。
こいつはいつもそうだ。どんな時も自分を押し殺して、周りが助かればそれでいいって。だがそんな事ずっと続けてればいつか、こいつは壊れてしまう。そんな事は俺が許さない。
「なあ、お前は俺の監視をするために俺と一緒にいたんだろ。」
「そうよ。私がハルトと一緒にいたのはあなたがどんな奴か見極めるため、そしてハルトはいい奴だった。だから私がハルトと一緒にいる必要はもうない。」
はっ、そうかい。だったらそれは間違いだな。
「なあリア。ここが今どこかわかるか?」
「何を当たり前なことを聞いている。街の中のありふれた道じゃない。」
ハルトはニヤリと笑う。
「ああ、そうだな。街の中のごく普通の道だ。周りには冒険者じゃない普通の人たちも暮らしている家もある。」
「......何が言いたい。」
「お前は俺をいい奴だと思ってくれたようだが、それは大きな間違いだ。なんたって俺は極悪非道のモンスターなんだからなぁ!!!!」
そしてハルトはそう叫ぶと同時に、地面に向かって思い切り足を振り下ろした。ドゴンと爆音が響きわたると同時にここら一体の地面に亀裂が走っていく。
「!!!!!???」
突然のハルトの豹変にリアは戸惑いを隠せない。しかし、そんなリアの様子を見てもハルトは止まることはなかった。
「オラァ!!」
再びハルトは地面を蹴りつける。と同時に地割れはますます広がった。その様子を見てリアも警戒態勢をとる。
「おいハルト!バカな行動はやめろ!ここは民家もあるんだぞ!被害が出たらどうするつもりだ!!!」
リアはハルトを説得しようと試みる。
「民家?被害が出たら大変?そうか、じゃあ全部ぶっ壊そう。」
だがハルトは聞く耳を持たない。そしてハルトは民家に向かって突っ込んでいく。
「!!??」
リアは目を見開くと、ここではっきりとした怒りの表情を浮かべた。そして魔法の呪文を唱えると一瞬でハルトの目の前に移動した。
「お前を信用した私がバカだった。」
ハルトの下に潜り込み、ハルトの腹部に手を当てる。
「これはあの時のお返しだ。」
そして腰を落として手から衝撃を発すると同時に、魔法を上乗せして爆発を放った。先ほどの地割れなど比べ物にならないほどの爆音が響く。ハルトははるか後方に吹っ飛んでいった。
「グ、ゲホッ」
リアは倒れているハルトの近くまで行くと、ハルトに向けて手をかざした。
「ハルト、もう一切悪いことをしないと誓いなさい。さもないとこのまま魔法を打ち込むわよ。」
ハルトは薄っすらとした意識の中でリアを見て、ニヤリとほくそ笑む。
「何がおかしい!」
リアはハルトに向かって魔法を打ち込んだ。ハルトは先ほどのリアの攻撃で疲弊しきっておりかわすことなどできるはずもない。魔法はハルトに直撃した。
「.......」
リアはただ意識を失い倒れているハルトを見つめていた。
「バカな真似を……私はこれでいいんだよ。」
悲しげにポツリと呟きをもらす。すると次の瞬間
「忘れてんなよ、俺は不死身だぜ!」
ハルトの目が赤く輝いた。死に淵から蘇ると、颯爽と起き上がりリアの背後に回った。
「!!!?」
とっさに逃げようとするリア。しかし、ハルトはそれをさせない。後ろから手を回し、完全にリアを固定する。
「なあ、リア話をしよう。」
「.......」
なおハルトを振りほどこうと暴れるリアだが、ハルトの力はリアより圧倒的に強い、振りほどける訳もなかった。
「お前は俺を監視するために、俺についてきたんだろ。そして俺を悪いやつではないと判断した。だが本当は違った。俺は悪いやつだ。お前が監視してなかったらいつ暴れ出すかわからない。そんなやつを野放しにしていいのか。だからリア……お前は俺の監視のために俺のそばにいろ。」
「っ!.......」
リアの肩が震える。
「私は!楽しいなんて感じちゃいけない!!」
顔を上げるリア、その目には大粒の涙が溜まっていた。
「お前が過去に何をしたかは知らない。だけどな、お前の楽しいって言う気持ちを制限できるやつはこの世に誰もいないんだよ。それに、お前は自分のために俺を監視するわけじゃない。お前はこの世界の人々のために俺と一緒にいるんだ。じゃないと俺が暴れちゃうぜ。」
ハルトはリアの目を見つめてニカッと笑って見せる。
「だからよ。リア、俺のそばにいてくれないか。」
「うぅ、ひっぐ、......うん。」
顔を涙でグチョグチョにしながらも、リアは笑顔で頷いた。
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