決意
「この世界の全ての人間から見えなくなる?」
「そうよ。私は過去に罪を犯した。そして、誰からも見えなくなった。」
淡々と語るリア。
「……いや、ちょっと待て。じゃあなんで俺には見えているんだ。おれもただの人間だぞ。」
「それはたぶん、あなたが人間じゃなくてモンスターか悪魔だからだと私は思っていたのだけど。」
「だから俺は人間だ!」
「……そう。」
「あ、お前信じてないだろ!」
「……」
「無視するなぁ!」
リアは一人で歩き始め、ハルトは後を追う形で走り出した。
だがなぜ俺にはリアが見えるんだ?そしてリアは過去に何があったんだ?
ハルトがリアに追いつくと
「なあ、リアお前過去に大罪を犯したって何をしたんだ?まさか世界を滅ぼしてしまったりとか?」
ハルトが冗談交じりで、リアに聞く。ハルトは特に深い意味は込めたつもりはなかったのだが、リアにとっては違うようだった。リアの様子が一変した。先ほどのような怒りが混じった真剣なようすではなく、悲しさと苦しさがにじんだような表情を浮かべ、足を止めた。
「……私、、は……」
リアの苦しそうな様子をみて、はっと我に返るハルト。
「い、いや!嫌なら無理に話さなくてもいいんだ。悪かった、不躾に質問したりして。」
「……」
リアは黙ったままだった。
それからリアの様子が変わってしまった。前のように依頼を一緒にやったり、街を回っても、楽し気な様子を見せることがなくなった。ハルトがご飯を奢ってやるといっても、かわいい生き物がいるところに連れて行っても、笑顔になることはなかった。
はぁぁ。リアの奴、どうしたらいいんだよ。
ハルトはベットに寝ころび、天井のしみを見つめながら考えていた。
リアの奴、なんであんなに変わっちまったんだ。
そして、ふと顔を横に向けると、机のそばに何か見覚えのない本があった。体を起こし、本を手に取ってみる。
「なんだこれは?」
ペラペラとページをめくってみると、それは日記だった。
日記?まさかこれはリアのものか。……悪いが少し、見させてもらおう。
日記はびっしり書き込まれていた。
償いの日記
これは私の償いのために書く
X月X日
今日はモンスターに襲われそうになっている人を助けた。一瞬私のことが見えるのではないかと期待したが、そんなことはなかった。当たり前か、私は罪人なのだから。
X月X日
街で落とし物をして、困っている人を見た。一日中、一人で、街中を探し回り何とか落とし物を見つけることができた。
X月X日
森の奥深くを探検していると、ドラゴンに襲われている冒険者の集団に遭遇。死にそうになったがどうにか助けることができた。よかった。これで少しは償えてるのかな。
日記は一日たりとも欠かすことなく書かれていた。
あいつは一人で、誰にも気づいてもらえることもなく、ボロボロになりながらも人助けを、ずっとつづけているのか!?
そして、日記はハルトと出会ったときのことも書かれていた。
X月X日
今日は珍しいことがあった。なんと私を見える人間のような奴に出会った。そいつは自分は人間だと主張していたが、はてさてあてになるものか。私が見えている時点でおそらく人間ではないだろう。しかも、そいつは能力があるともいっていた。ますます怪しい。ただの人間とは思えない。私はそいつの監視をすることに決めた。
X月X日
そいつの名前はハルトというらしい。今日はハルトともにゴブリンキングの討伐にむかった。討伐には少し苦戦したが、なんとか倒せた。ゴブリンたちはあんなに頭が働くモンスターだったのか?それはともかく久しぶりに人と一緒に行動できてうれしかった。
X月X日
午前中、街のいろんなところにいった。そこで私は楽しんだ。でもそれはいけないことだった。そのあと、いかつい巨漢に囲まれていた男を助けた。私は罪人にも関わらずハルトと出会ってから楽しいと感じてしまっていた。私には楽しむ権利もないのに。私は思い出した。自分の立場を、自分の役目を。
X月X日
ここずっとハルトと一緒にいてわかった。ハルトは人間かどうかわからない、でも悪い奴ではないということは確かだった。だからもう私が監視する必要もない。これ以上一緒にいたら、またハルトの存在を理由に私は甘えてしまうだろう。だから私は時期にハルトのもとから離れよう。
ハルトは部屋の中を見渡す。
リアの荷物がない。……っ!くそったれが!!
ハルトは勢いよく部屋を飛び出した。
なにが甘えてしまうだ!なにが私には楽しむ権利がないだ!あいつ、あの時といい自己犠牲拗らせすぎなんだよ!!
ハルトは走った。日はすでに沈んでおり、外にはほとんど人が出ていなかった。あの路地裏、前に一緒にいった店、緑いっぱいの草原。いままでリアと一緒に過ごした場所すべてまわった。しかしリアはどこにもいなかった。
いない!!くそ!あいつどこに行きやがった!
そしてハルトがあきらめかけたその時、背後から一つの足音が聞こえてきた。首がねじ切れそうない勢いでばっと振り返るハルト。そこには、赤髪の、きりっとした強い信念のある目を持った美少女。リアがいた。
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